第3話 承平・天慶の乱
▶時期:天慶元年(938)― 天慶二年(939)
晴明は賀茂忠行の推薦によって陰陽寮に入ることができたものの、陰陽寮の諸学生は定員に達しており、陰陽家の出身ではない晴明の入る余地はなかった。そこで、晴明はよい機会を待ちながら陰陽寮の事務員として働き始めた。一方、賀茂保憲は暦生になった。
都で大地震が起こった。陰陽寮が吉凶を占った結果、兵革の兆しであった。この頃、東国では平将門、西国では藤原純友が兵乱を起こしていた。その後も天変地異が止むことはなく、世間の人々は将門と純友が結託して都を滅ぼそうとしているのではないかと噂しあった。
この騒ぎを知った白雪は晴明の身を案じるが、大きな使命をもつ彼女は私情を優先してはならないと自分を律した。白雪は兄の炳霊帝君と一緒に、泰山府君から地獄の現状について聞かされる。上古の人々は善行を積んで天寿を全うしたので地獄に落ちることはなかったが、現在の人々は落ちぶれて様々な悪行をはたらくので、地獄で罰を受ける罪人が絶えない。罪人の苦痛は邪気を生み出し、遠い未来に大きな災いになることが予測されている。その時のために、冥界の神々は力を蓄えなければならなかった。
世の中が騒がしい時に、陰陽寮でも暦博士大春日弘範と権暦博士葛木茂経が暦本の作成を巡って議論を繰り広げていた。この議論は、宣命暦と会昌革という二つの暦法の違いによって引き起こされた。陰陽寮は毎年十一月に行う御暦奏を延期することにしたが、そのことを知らなかった朝廷から過失を責められる。晴明は自尊心の高い暦家たちの代わりに始末書を書いた。
やがて将門が関東の諸国を手中に収め新皇を自称すると、朝廷は陰陽寮に将門調伏の儀式を行うよう命じた。将門の人形を式盤の下に敷いて呪詛することになり、保憲も他の陰陽師たちと一緒にこの儀式を行った。陰陽寮の規則で禁じられている呪詛を行うことに晴明は疑問を抱いたが、朝廷の命令なのでやむを得なかった。なお、晴明は正式な陰陽師ではないためこの呪詛には関わらなかった。世間の人々は天地の神々が将門の追討に力を貸してくれることを願い、晴明もまた人々の祈りが白雪に届いているのだろうかと思いを馳せた。
今や大人になった晴明が心の中に思い浮かべる白雪の姿は、出逢ったときの少女の姿のままであった。長い年月を経て現実的になった彼は、これから先の人生のために自分の幸せだけを追い求めるべきではないのだと気付き、白雪への慕情を心の奥に封じた。
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