第5話 終わらなき闇
闇の王の倒滅を確認した後、アランはゆっくりとその場に立ち尽くしていた。周囲は完全に静まり返り、闇の王の魔法陣も次第にその輝きを失い、消えていった。だが、アランの目はその消失を一切喜ばず、むしろ冷徹に周囲を見渡す。何かがまだ終わっていない、そんな予感が彼を支配していた。
「アラン、大丈夫?」
マルティナの声が、静寂の中で微かに響く。彼女の顔にはまだ恐怖が色濃く残っているが、彼女はアランの無事を確認し、少しだけ安堵の表情を浮かべた。しかし、アランの返答はなかった。彼はただ、無言で前方を見つめ続ける。
「お前も気をつけろ、まだ終わっていない。」
アランは低い声で答えると、歩みを再び進めた。遺跡内に響く足音が、徐々にその響きを大きくしていく。
その時、ふいにどこからともなく、異常な気配が流れ込んできた。アランはすぐに足を止め、周囲を警戒する。その気配は、ただの魔物のものではなかった。まるで誰かが意図的に暗示をかけているような、操られているような不気味さが漂っていた。
「誰だ…」
アランは手を杖に置き、慎重にその場から動かない。
突然、遺跡の奥から異次元から引き裂かれるような音が響き、アランとマルティナの目の前に、現れるべきではない者が現れた。それは、彼らが倒したはずの闇の王ではなかった。そこに立っていたのは、シャスカーだった。
「シャスカー…お前、まだ生きていたのか。」
アランは冷徹に言い放った。彼の目には、すでにシャスカーが再び現れた意味が分かっていた。闇の王を目覚めさせ、そして倒された後、シャスカーは一度倒れたはずだった。だが、今、目の前に立っている彼は、まるで死を超越したかのような、異様な存在だった。
シャスカーは、まるで何事もなかったかのように冷笑を浮かべていた。その顔には恐怖の色も、弱さも見当たらなかった。
「アラン…君が倒したと思ったか?」
シャスカーの声は不気味に響く。彼の目には、これまでに感じたことのないような狂気が宿っていた。
「闇の王を目覚めさせたのは、ただの序章に過ぎなかった。」
その言葉に、アランは眉をひそめる。シャスカーが隠し持っていた真の目的とは、いったい何なのか。教団の深層に隠された秘密が、今、徐々に明らかになろうとしている。
「お前が目指していたのは、闇の王だけではなかったのか。」
アランは冷徹に問いかけるが、シャスカーは満足そうに頷いた。
「そうだ。だが、闇の王の力は私が求めていた力の一部に過ぎない。それよりも、私は『闇の真理』を手に入れるために動いていた。」
シャスカーの目が、どこか得体のしれない熱を帯び、アランに向けられる。その目の奥には、他者には決して理解できないような深い闇が渦巻いていた。
「闇の真理?」
マルティナが混乱しながらも、その言葉を繰り返す。しかし、シャスカーはそれに答えることなく、ゆっくりと手を広げた。
「そう。私は『闇の真理』を手に入れることで、世界を完全に支配する力を得る。その力こそが、この世界の根本を変えるのだ。」
シャスカーはその言葉を発しながら、無理矢理に力を引き寄せ、空間に裂け目を開き始めた。その裂け目からは、魔法陣が次々と現れ、巨大な影が見え隠れしていた。
アランはそれを見て、すぐに理解した。シャスカーが手に入れようとしているのは、単なる魔力の集合体ではない。これは、世界そのものの法則を操る力、その源を暴こうとしているのだ。
「これが『闇の真理』か。」
アランは静かに呟くと、杖を握り直した。彼の背後には、もう一度彼の守護の力が湧き上がるのを感じる。しかし、シャスカーの目の前に広がる異次元の裂け目の力は、思っていた以上に強力だ。アランはその力に立ち向かうため、今まで以上に力を高めなければならないことを自覚する。
「マルティナ、離れろ!これは簡単には終わらない!」
アランは、全力でシャスカーの魔法を打ち破るため、力を集めていく。その目には、覚悟と決意が宿り、次の瞬間には光の波動が遺跡全体を包み込んだ。
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