カンパニースクール時代の黒歴史
red13
TRPGリプレイ
これは一つの島を舞台にした開拓者の物語である。
「やっと島に上陸できたな」
長い船旅を終えて、このグループのリーダーである女性は、ほっと溜息をついた。
「それにしても、君がリーダーじゃなくて、本当に良かったのか? ブラック」
女性にそう問われたブラックという男は両手を少し広げておどけた。
「いや〜。失敗した俺がまたリーダーをやってもね〜。一度、リーダーはやっているし、今回はスカーレッドさんにまかせますよ」
「そうか……。それなら良いが……」
ブラックの返答を聞いて、リーダーの女性、スカーレッドは嬉しいような、困ったような表情を浮かべた。彼女は以前から開拓団のリーダーを務めたいことで有名だった女性だ。ただ、それと同時に「経験者であるブラックではなく、未経験者の自分が率いることを不安に思っている」ことも事実であった。
「まっ、大丈夫でしょ。俺が前回の失敗に基づいて、スカーレッドさんを補助するし? まぁ、だからといって、今回の開拓が成功する保証はどこにもないけど」
「……」
このブラックという男、毎回一言が余計であった。
「この周辺で、何か見つかったか?」
「そうですね……。木材が豊富に取れそうな森林地帯と地元の遊牧民が育てていた羊を何頭か。それから……。彼らが使っていた輸送ルートも確認しました」
「そうか……」
入手したものから、これからの計画を練るスカーレッド。特に何かを助言するわけでもなく、静観しているブラック。長い沈黙が場を支配した。
「他国の開拓者は来ていると思うか?」
「十中八九、来ているでしょうね」
「他の開拓者が来ているとして、だ。我々はどのように動くべきだ?」
「以前、私がリーダーを務めた時は自分たちのことに集中しすぎていました。略奪されたりしても、多少の対策をするだけで報復はしませんでした。その結果は……、あなたも知っているでしょう?」
「ああ」
「だから、その失敗を踏まえると、我々は積極的に相手への妨害をすべきです。略奪なり、詐欺なり……、なんだっていい。なんだったら、自分の利益にならなくとも良い。とにかく、相手が困ることを積極的に行うべきです」
「そうか……」
腕を組みながら、目をつぶるスカーレッド。ブラックはそんな彼女を相変わらず「どうでも良いように」見つめているだけだ。
「わかった。君の意見を採用しよう」
「……」
数秒して、先ほどまでの張り詰めたものから、日常的な軽いものへと空気が変化した。
「そうそう。この開拓団の名前をどうする?」
「名前ですか……。それって、正式なもので十分だと思いますが?」
「いや、第八開拓団だと味気ないだろう? 正式なもの以外に、団員の士気を高められる通称が欲しいと思ってだな」
「なるほど……。ちなみに、なんかアイデアがあったりはするのですか?」
「アイデア……、君と私はどちらも色に関する名前だから、それからとるのはどうだろう?」
「でしたら……、『血と黒鉄の軍団』なんてどうでしょう? あなたと私から連想されるワードが入っていますし、我々は略奪などを積極的にすると決めましたので、ピッタリだと思いますが?」
「そ、そうか。確かにそうだが……。だが……。いや、私のほうで特に代わりになる名称が思いつかないから、それで良いか……」
「いや、気に入らなければ変えても良いですよ?」
「別にそれで構わない。自分で振っておいて言うのも何だが、私はこれと言った名称が思い浮かんでいるわけじゃないからな。それでいい」
それで良いと言いながらも、スカーレッドは納得してなさそうな表情をしている。それでも、良いとしたのは、彼女自身が言った通り、特にそれ以外の名称が思い浮かばないからであった。
初めから名前には興味がないブラックは話題を移した。
「ところで、我々以外にこの島に上陸した開拓者の情報はあったりしますか?」
「ああ、それなら先ほど、報告が上がっていたよ。何でも、ここの原住民が開いている小さな市場に何人か身なりの綺麗な者たちが取引に来たらしい」
「その者たちの名前は?」
「アーサー、ラボーチキン。確認できたのはこの二名だ」
「この島に貨幣はないはずだから……。市場があるとすれば、物物交換でしたよね?」
「ああ、そうだ。君の言う通り、物物交換だ」
「なら、彼らが何を交換したのか、わかります?」
「確か……、アーサーが鉱物と引き換えに作物を手にいれていたな。チキチキの方は、鉱物と引き換えに作物と木材を手に入れていたらしい」
「鉱物なんて重いもの、わざわざ運んでくるなんて考えにくいですし、向こうは鉱物地帯を占領したとみて間違いなさそうです」
「だろうな……」
「我々も向こうが持っているものをできるだけ持ちましょう。向こうが、我々が持っているものを持つ前に」
「そうだな」
スカーレッドとブラックが話した通り、「血と黒鉄の軍団」は二週間ほど、鉱山の探索や、石材の確保に集中した。その結果、鉱山付近に住む地元住民から木材との交換で、鉱石を得ることに成功する。さらに、その鉱山を武力によって、占領したことで安定的に石材の確保ができるようになった。
「ブラック、我々が鉱石の確保をしている間に他の開拓団は動いていたか?」
「ええ、いくつかの開拓団が動いていました」
「どんな動きをしていた?」
「ラボーチキンは現地民から兵士を確保したようです」
「ほう? それ以外の動きは?」
「我々が確認した限りではありません」
「静かすぎやしないか? 我々が認識していないだけで、もっと動いているのでは?」
「その通りだと思います。ただ、我々の人数ですと、如何せん得られる情報が少なく……」
「結局はそこか……。本国には人員の増強をお願いしているのだが……」
「仕方がありませんよ。我々の国はどこも人員不足ですから」
「それで次はどう動くべきだ?」
若干投げやりぎみにスカーレッドが問うと、ブラックはいつものひょうひょうとした……、無責任な態度で話はじめる。
「我々は鉱石を手に入れましたが……、家を立てるには硬すぎる石です。もう少し、柔らかくて、家の素材として相応しいものに交換しましょう」
「そうか。なら、二つほど候補がある。一つは地元住民がそのような加工に適した石を持っていると言う情報。もう一つが、アーサーが持っているという情報だ。どっちで行くべきだと思う」
「両方でいきましょう。我々は常に攻めねば劣勢に立たされます」
「わかった。両方だな」
それから数日後、地元住民に対しては鉱石との交換で、レンガを手にいれることができた。一方で、アーサーとの交渉は……。
「何? レンガが欲しい?」
「ええ」
「鉱石との交換などバカにしているのか? こちらの鉱石は余っている状態。わざわざ、そちらと交換する必要がない」
「なら、力づくで、奪わせていただきます」
と、戦いを挑み、レンガを奪ったことは良かったものの、すぐに奪い返されてしまい、失敗に終わった。
「先週のことは不幸だったな……。我々以外の動きはどうだった?」
スカーレッドは苦虫を噛みながら、話す。その様子をレッドは苦笑しながら、答えた。
「そうですね。ラボーチキンは何らかの手段で羊を多く得たようです。彼らもそれで調子づいたのか、ノートンという者が代表を務める開拓団を襲ったようです」
「襲ったということは、何かを奪ったのか?」
「それが……、何かを奪ったことは確かなようですが、何を奪ったかまでは……」
「そうか……」
「それから、襲われたこともあって、ノートンは兵力を増強したようです」
「まぁ、そうするだろうな」
スカーレッドは一瞬、目を閉じ、また開く。おそらくは頭を切り替えたのだろう。
「それで、現状の我々は劣勢なわけだが、どうするべきかな? 参謀殿?」
「アーサーの件は残念でしたが、幸いにも、我々には地元民空手に入れた豊富なレンガがあります。そのレンガと木材を使って、道を建設しましょう。また、道が出来たら地元民にも解放しましょう」
「ふむ。道を建設するのはわかるが、地元民に解放する理由は?」
「もちろん、理由があります。我々は今、人材不足で苦しんでいます。その影響は情報や武力など、あらゆる面で出ております。そのため、地元民に柔和政策をすることで、彼らの協力を仰げるのでは、と思いまして」
「なるほど。では、地元民に道を開放するとしよう」
スカーレッドたちは数週間ほど、道の建設に集中し、予定通り先住民にもその道を開放した。その甲斐もあって、早速、彼らから羊を二頭ほど得ることができた。
その結果なのか、今のスカーレッドはいつもよりも上機嫌だ。
「さて、先週は上場の結果だったが、他の開拓団はどんな感じだった?」
「……」
「ブラック?」
「我々は依然として、厳しいままかもしれません」
「それほどなのか?」
「はい。アーサーはノートンから資源を奪い、兵員も増やして、勢いを増しています。アーサーはまだマシです。ラボーチキンは都市をつくりました」
「何! 都市だと! まだ都市ができるほど、時間は経っていないはずだぞ!」
「ええ、ですから、マズいのですよ」
「ならば……、本格的に君の言う通りにする必要がありそうだな」
「ええ、そうするしかないでしょう」
それからの「血と黒鉄の軍団」の行動は早かった。その名前の通り、彼らはノートンやラボーチキンたちを襲撃し、レンガやら作物やらを奪いとった。資源を得るためでもあるが、それ以上に彼らを弱体化させたいために行ったことであった。
彼らの武勇(蛮行)を聞いて、名を上げたい人々が集まり兵士の数が増えた。また、ノートンやラボーチキンの土地を襲った際に攫ったレンガ職人たちの手によって、レンガを大量生産する術を手に入れた。
だが、全て順風満帆にはいかなかった。
襲われたノートンやラボーチキンたちは当然、スカーレッドたちへの報復処置を考える。彼らがやった報復処置は雇った盗賊にスカーレッドたちの土地を襲わせることであった。
「ふぅ。先週はひどい目にあったな」
「おそらく、ノートンか、ラボーチキンの手によるものでしょう」
「だろうな。幸いなことは、被害を最小限に抑えられたことか……」
「そうですね。こちらの被害を最小限に抑え、相手側の被害を最大限にできて良かったです。
ですが、悲報が……」
「悲報?」
「我々がダメージを与えたのにも関わらず、ラボーチキンは第二の都市をつくりしました」
「ゲホッ。第二の都市だと! 第一の都市ができてから、それほど日が経っていないぞ!」
「ええ。ですので、予め、第一の都市と並行して、つくっていたのでしょう。いや、全く恐ろしい。都市を同時に二つつくれる体力。たとえ、大規模な襲撃によって甚大な被害があったとしても、都市建設には全く影響を及ぼさない。おそらく、我々とは比較にならないほど大規模な人員が動いているのでしょう。笑いたくなります」
「笑えないぞ……」
スカーレッドはだらけきった姿勢を正し、いつもにも増して真剣な表情でブラックに問う。
「そのような強敵を前にして、我々はどうするべきだ?」
「そうですね。都市をつくることは最低限必要でしょう。すでに手遅れな気もしますが、我々も都市をつくらねば、置いていかれるばかりです」
「わかった。多少、無理をしてでも都市をつくろう」
「それから、食糧や服などの供給も追いつかなくなっています」
「そうか……。それは無難に市場で得よう。鉱石と羊を交換するが、構わないか?」
「ええ、それで構いません」
「あと、ラボーチキンと接触してみようと思うのだが、どうだろう?」
「ええ、それで良いかと思います。まずは相手を知らなければ始まらないので……」
予定通り、スカーレッドは市場で鉱石と羊を交換して、羊毛と肉を手に入れた。
ラボーチキンとも接触して、あわよくば資源を恵んでもらおうとしたのだが……。
「ほほぅ。そちらにはまだ都市がないのですか?」
「ええ、お恥ずかしながら、ラボーチキンさんのように二つの都市など、我々にはとてもとても……」
「都市を二つ持っているのは、我々くらいだ。だが、そなたたち以外はみな都市を持っているぞ?」
「えっ」
「残念ながら、我々は君たちのような弱者と交渉するつもりはない。お引き取り願おう」
以上のように、ラボーチキンからは拒絶されてしまう。
木の伐採とレンガの量産は進んでいるものの、「血と黒鉄の軍団」は自分たちが名前のようになりそうな状況であった。
「あまり良い報告は期待できなさそうだが……。どうだ?」
「まぁ、あまり情報を入手できていませんが、我々が手に入れた数少ない情報はあります。まず、プロトスが道を建設したことで、島の全域に道が行き渡ったので、以降、道を作る必要がなくなりました。また、ノートンは我々の土地を襲撃し、鉱石を奪って行きました。さらには大学まで建設しました」
「我々にとっては最悪だな……」
「ええ、なので最悪を最小限に留めるべく、我々も何らかの行動に移すべきかと」
「アーサーを襲撃しようかと考えている。それから、プロトスと接触を図りたいと思っている」
「その通りにするのが、良いかと」
「血と黒鉄の軍団」はアーサーの土地を襲い作物を奪った他に、彼らが持っている道も奪った。
プラトンにも接触を図ったが、ラボーチキン同様に拒絶されてしまう。
「食料と道を手に入れることができて良かったです。特に道を奪えたことは、相手にとって遥かにマイナスでしょう」
「ああ、だがプラトンとの交渉は失敗してしまった」
「そのプラトンなのですが、なんでも教会を建てたとか?」
「教会? 布教とは、随分とご熱心だな」
「単純に布教が目的というわけではなさそうですがね」
「どういうことだ?」
「信仰心による忠誠。それを求めている可能性があります」
「なるほど。熱心は熱心でも、そちらが目的か」
ブラックは先ほどの戯けるような態度とは異なり、試すような口調で聞く。
「次はどこを襲撃しますか?」
「ノートンの領土だ」
ノートンの領土を襲撃したグレイたちは鉱石を得た。それに加えて、ささやかだが羊を一頭得ることもできた。
ダメ元で、再びラボーチキンとの交渉も行ったが、やはり応じてもらえなかった。
そんな中、グレイは思い悩んでいる様子でレッドに相談していた。
「今持っている資源では、都市をつくるにはギリギリ足りないが、他の施設を作るべきだろうか?」
「いや、今は都市をつくることに集中するべきでしょう。ただでさえ、我々は都市化に遅れています。ここは多少無理にでも、都市に集中すべきでしょう」
「そうだな……。わかった。都市に集中する」
幸いなことに鉱山と森林地帯があることで、鉱石と木材は豊富にとれた。
だが、盗賊が襲来して、採取した木材の一部は奪われてしまった。
「盗賊に襲われるという不幸はあったが、何とか都市のための資材を確保することができた」
「これで、ようやく都市化に着手できますね」
「だな」
だが、彼らの都市化への努力は虚しく、他の開拓団はさらに開いていた差を広げていた。
ラボーチキンは図書館を建設し、教育に力を注ぐことで、さらなる発展を遂げようとしていた。
ノートンはスカーレッドたちを襲撃し、鉱石を奪って行った。
スカーレッドたちは自分たちを襲撃した相手に恵んでもらうという屈辱をうけることを選択。なんとか、交渉がまとまり、ノートンから食料品や資材を恵んでもらうことができた。また、町の都市化もやっとの思いでできた。
その一方で、アーサーはスカーレッドたちに奪われた道を奪い返した他、第二の都市をつくることに成功する。
それでも、アーサーはラボーチキンたちに敵わなかった。ラボーチキンは手厚い本国からのバックアップと多数の人員、そして布教による結束を武器に勢いをましていた。その結果、彼がこの島の勝者となり、残りは全て敗者となった。
(今回に関しては、人員の不足が最大の敗因かな?)
ブラックは薄れる意識の中、今回の敗因を考えていた。
(ただ、前回も含めると、情報を軽視しすぎたのも敗因か……。前回は収集を怠り、今回は得ることができる体制じゃなかった……。結局、ラボーチキンが二つ都市を持っていたというのは誤報だったみたいだし)
さらに薄れゆく意識の中、今回の相棒というべき人物を思い浮かべていた。
(彼女は俺が残る理由をよく理解していなかったな……。彼女は一度目だけど、俺は二度目だ。二度も失敗した奴を本国が生かすわけない。本国に帰って処刑されるくらいなら、ここで抵抗して、死んだ方がマシさ)
そう思いながら、彼の意識は落ちた。もう二度と目を覚さない深い眠りへと……。
おわり
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