拝啓俺へ〜みんなを救へ〜
@NEET0Tk
第1話
熱が肌を焦がす。
痛みが脳を支配する。
苦しい辛い死なせてくれ。
そこら中から聞こえる声は絶望だった。
「殺……殺して……」
焼けた足を引きずり、俺は進む。
ほんの微かな希望に縋るしか俺にはなかった。
「あ、あぁ、あぁ!!」
だがそんな希望を神様って奴は嘲るように笑った。
「シーナ!!シーナ!!」
村一番と言われた美貌は最早黒い焦げとなっていた。
俺には眩しかった笑顔も最早面影すらない。
死んでいる。
つい先程まで楽しく笑っていた大切な人は既に死んでいるのだ。
「お、お願いだ。生きて、生きてくれよ」
必死に胸に手を当て呼吸を入れ込もうとする。
押した手は空を押す。
よく見ればそこには体と呼べるものはもう殆ど無かったのだ。
「みんな……みんな死んだのか」
生き残った人間は俺だけだった。
それを知ると同時に、俺の周りに巨大な影が現れる。
どうやら俺にもお迎えが来たらしい。
いいさ、みんなと一緒の場所なら怖くはない。
俺の中にあったのは喜びだった。
両手を広げ
「……何、嬉しがってんだ俺は」
喜びが沸々と激る。
「母さんを、父さんを、シーナを、みんなを殺したやつに今感謝をしたのか!!」
それは劇場へと移り変わる。
許せない。
何故俺はこんな奴の存在を受け入れなければならないのだ。
「殺す」
それが例え俺で泣なくても
「殺す」
例えそれが俺の知らない誰かでも
「殺してやる!!」
だから託すのだ。
こうして一つの未来の形は消え去った。
◇◆◇◆
『今日も楽しい1日だ』
この世界には時折不思議な力に目覚めるものがいる。
人はその神秘的な事象を魔法と呼んだ。
時には魔法は英雄譚を、時には世界に危機を齎した。
しかしながら必ずしも全ての人間が特別な魔法を持って生まれるわけじゃない。
一般的には魔法使い、だけどただの一般人。
そんな中の1人が俺だった。
「そか、そりゃよかった」
手紙を見た俺はいつものように外へ投げ捨てる。
さっきまで確かな手触りを持った手紙はどこか彼方へと消えていった。
「よっし、今日も1日頑張りますか」
俺はベットから飛び上がりいい匂いの漂う場所へと向かう。
目的の場所へ辿り着けば、そこにはとある男女がいた。
「休みだからってぐっすりだな、ルイジェ」
「もうご飯出来てるからね」
「休みくらいいいじゃん。あ、ご飯は食べるから」
俺が席へ座ると、父さんは全くといった表情でいつものように『伝聞録』を開く。
伝聞録は魔法によって毎日の様々な場所で起きた事件や日常風景を表す魔法の一種だ。
王都で作られたものが毎日こんな場所まで届く、本当に凄い話だ。
「はい、残しちゃだめよ」
「分かってるから」
俺が飯にありつくと、何やら父さんは険しい表情を浮かべる。
「近いな」
「?」
父さんは昔は冒険者と呼ばれる職業をしていて、その腕前は村一番と言われている。
だから父さんが渋い顔をする時は、大抵村の近くにモンスターが現れた時なのだ。
「……ご馳走様」
「あら、早いわね」
「ちょっとシーナのところに行ってくる」
「そう、気をつけてらっしゃい」
俺は家を出て、真っ直ぐと彼女の家へと向かった。
シーナ、彼女は俺の最も親しい友人だ。
所謂幼馴染と呼ぶべきものだろう。
小さな頃は特に気にしていなかったが、シーナは成長する度にどんどんと可愛くなっていった。
対して俺は平凡、その結果周りからはあまり良い目で見られなかった。
時々それが嫌な時はあったけど、それ以上にシーナを失う方が嫌だった俺は今でもこうして彼女と遊んでいるのだ。
「シーナ!!いるぅー!!」
俺がシーナの家で声を上げると、家の奥からドタドタと走り出すような音がする。
「ルイジェ!!おはよ」
突然扉が開かれると、そこには白髪のパジャマ姿の美少女がいた。
「シーナ、もしかしてだけど寝てた?」
「う、ううん、そんなことないよ。私はルイジェと違って真面目だし」
「そうか?まぁそういうことにするか。あ、そだそだ聞いてくれ。多分だけど村の近くにモンスターが現れたっぽいんだ」
「えー!!それって本当なの?」
「ああ。だから夜はあんまり出歩かないようにな」
「うん、分かった」
なんとか注意喚起ができた俺はホッと一息つく。
それと同時に、今から大変なことになることも俺は既に予想しているのだ。
「ならみんなにも伝えないとだね。待ってて、お着替えしてくる」
そう言って風のように自身の部屋へ舞い戻るシーナ。
全く、お転婆娘ここに極まれりだ。
「これで何もなければいいが、まぁ手紙には楽しい1日って書いてあったし大丈夫だろ」
俺の魔法、かどうかも分からない手紙。
あの手紙がなんなのかはハッキリと俺も分かってはいない。
基本的には楽しい1日とだけ書かれている。
しかも俺の筆跡でだ。
だけど本当に時々、ちょっと変わった手紙が送られてきたりする。
『森に迷子の子がいる』
『今日は家から出るな』
『シーナを守れ』
その手紙の内容は実際に現実で起きることが多い。
誰かが俺に知らせているのだろうか?
でも何故俺に?
そもそもこうするとどうなるのか。
色々と意味不明な代物であるが、少なくとも嘘を吐いたことはなかった。
だから俺は今日も良い1日になると確信があるのだ。
「お待たせ。ごめんね、中で待っててもよかったのに」
「女の子家に無断で入ったら俺殺されちゃうよ」
「ルイジェは家族みたいなものだから全然いいのに」
「はぁ、お前のそういうとこ、本当に直した方がいいぞ」
「えー!!な、何かいけないこと言ったかな?」
シーナは自分の魅力に無頓着過ぎるのだ。
ただでさえ見た目がいいのに、中身までこれときちゃ大変だ。
一体今まで俺が何度被害に遭ったことやら。
「全く、そんなことばっか言ってたら勘違いする奴がでるからな」
ま、もういっぱい出てるが。
「勘違いって何の?」
「あーはいはい、可愛い可愛い」
「ねぇ教えてよー」
そうこうしている内に、いつの間にか俺達は学校の近くへとやってきていた。
「まぁさすがに休みの日に来てる真面目さんはいないか」
「わ、私行った方がいいかな?」
「何故頑なに真面目になりたがるかは知らんが、俺が行きたくないので却下で」
何故わざわざ休みにまで地獄へ足を踏み入らねばならないのか。
「それに目的地はすぐそこだ」
「そうだね」
そうして学校から数分程歩き、俺達は小さな広場へとやってくる。
そこではいつも通り子供が楽しそうに遊んでいた。
「あ!!シーナだ!!」
「シーナが来た!!」
シーナに気付いた子供達が一斉に走り出す。
「元気いっぱいね」
「どっかの誰かにそっくりだ」
「誰のこと?」
「さぁ」
「あ!!今日はルイジェもいる!!」
「泥棒猫だ泥棒猫!!」
「シーナを返せー!!」
「誰が泥棒猫だにゃ!!」
俺は絡んできた餓鬼の相手をする。
シーナの付き添いで時々来たせいか、妙に懐かれたというか舐められてんだよな。
それからシーナと一緒に軽く遊んだ後、夜は絶対に外に出ないことを誓わせる。
「またねー」
子供達と別れた後、俺達はぷらぷらと歩く。
道中出会った人に伝言だけしていく。
俺達のような子供の発言であればバカにされて終わりだが、父さんの様子を付け加えるとあら不思議。
みんな重い腰を上げスタスタと準備を始め出す。
「もしこれで俺の勘違いだったら恥ずかしいな」
「大丈夫、だって前にルイジェのパパさんが言ってたもん。ルイジェの言葉にはどこか説得力があるって」
「俺の言葉に説得力?」
「うん。ほらルイジェって時々すっごく勘がいいでしょ?逆も多いけど」
「うーん、どっちも肯定し辛い」
「だからきっと何も言わずともルイジェが動いてくれるって信頼してるんだと思う」
そうなのだろうか。
確かに父さんは時々俺を試すようなことをしてくる。
俺は決して父さんのように強くなければ偉大でもない。
だから俺は俺なりの努力をし、俺の手の届く範囲をなんとか守ろうと必死なだけだ。
そんな俺を信頼してる……か。
「そうだといいな」
そうだな、それなら少しぐらい自分を信じてみよう。
お前ならきっとどんな困難も乗り越えられると。
そして時は進み、次の日の朝。
俺はいつものように手紙を受け取った。
『拝啓俺へ〜みんなを救へ〜』
拝啓俺へ〜みんなを救へ〜 @NEET0Tk
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