第9話 静寂の街へ

 MOMO太郎を先頭にした集団は、西船場JCTに差し掛かると、そのまま右へと向かいます。一車線の道ではありますが、3台並んで進入することは容易です。

 その後の出口はえびすJCTの時と同じように車幅が狭くなるため、最終的に並走できるのは2台が限界になりますが、鬼ヶ島連中を誘導するという点に限って言えば、何も問題ではありません。

 瞬く間にこの集団は上へ上へと登りながら右に曲がる分岐へと侵入します。

 車幅が狭くなってきた頃に、お巡りさんがゆっくりとノーズを下げ、集団の最後尾に位置付けました。

 鬼ヶ島連中は、右側の環状族、左側の一般車により進路を遮られ、東船場JCTからの環状入りが不可能です。

 そして、環状に入る為の最後の分岐を、奈良方面へと直進しました。これで、彼らが環状に戻る事はありません。

「よし、上手く行ったぞ。後は右側に抑え続ければ……」

 環状族も似たような考えだったのか、それとも別の意図があったのかは分かりませんが、環状入りを阻止した時点で、その車列を後ろに下げ、今度は左側へと移動し、一般車達とその立場を入れ替え、鬼ヶ島連中の車線変更をより強固に阻止しました。

 そしてここから先は、合流と分岐は左側にしかありません。右側に抑え続ければ、必ず中野か水走みずはいのランプで降りる事になります。

 しかし、鬼ヶ島連中が妙に大人しいことに気がつきました。

 環状線では、テールトゥノーズ程ではなくとも、かなり近い車間距離でパッシングを繰り返すなどされていたのですが、この道に入ってからその動きが消えたのです。

 ふと、背後に迫る鬼ヶ島の先頭車両から、独特な禍々しいオーラが出ている事に気がつきました。

 虎の尾を踏んだような、或いはパンドラの匣に手をかけたような……。“してはならない事”をしてしまったという予感をさせられる、身の毛がよだつようなオーラでした。

「なんだ、この圧は」

 MOMO太郎は驚きました。

 バックミラーで鬼の表情を見ますが、先程のような驚愕の表情は消えており、何か無線機のような物で会話をしているようでした。

 そして、残忍なものを宿した、鋭い目でギラリとこちらを睨んできました。

 それはまさに、怒りにより齎された冷徹な眼光でした。

 鬼ヶ島連中にとっては、知らない車に先頭を取られた挙句、道を制限されるなんて事は初めてであり、屈辱でした。それに対して怒りを覚えた鬼ヶ島連中は、諸悪の根源であるMOMO太郎を本気で撃墜おとそうとしていたのです。

 MOMO太郎は、そんな鬼の表情を見て、ある違和感に気がつきました。

 あれだけ不利になりそうな改造車で、なぜ環状線を暴れながら走れていたのか、ということです。

 そもそも、本当にコーナリングが苦手な車両なのであれば、先程までの走行も不可能な筈なのです。

「まさかあいつら……。まだ本気じゃない……?」

 鬼ヶ島連中の車があれだけの芸当を成し遂げていた事実。それを突き詰めると、一つの答えに繋がりました。

 それは、環状線ではない場所に対応した改造も施されている、ということでした。

 つまり、今までは環状線だったが故に本気を出せていなかったということになります。

 山に向かっているこの状況で落ち着き払っている事から察するに、おそらく彼らは、山でこそ本領を発揮できるのでしょう。

 その事実に気がついたMOMO太郎は、これから起こる“何か”に対応できるかどうかわからない、という不安を抱えたまま水走ランプへと辿り着き、一般道へと合流しました。

 平日の深夜ということもあり、一般車はほとんどいません。寝静まった街の大通りに、爆音を奏でる車が複数台現れました。

 高速を降りると、目の前には大きな交差点が現れます。

 信号が赤なので、鬼ヶ島を抑えながらブレーキを踏み、停止線で止まりました。

 しかし、鬼ヶ島連中は減速する素振りを全く見せません。

 なんと彼らは信号を無視し、猛スピードで交差点へと突っ込んだのです。

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