友人が知人以下になる過程!

崔 梨遙(再)

1話完結:2300字

 僕は、高校生になっても、中学の同級生と遊んでいた。勿論、高校の友人とも遊んでいたのだが、中学の同級生が毎晩誘いに来てくれていた。喫茶店、カラオケ、ビリヤード、ボーリング、ダーツ、石田の家など。だから、僕は毎晩寝不足だった。僕は、2年の秋までは部活をしていたし、2年の秋以降からはバイトに励んでいた。寝る間が無いので学校で寝てしまう。不健康な悪循環だった。



 高校3年生の夏休み、石田達と一緒に旅行に行くことになった。だが、僕は自動車免許の取得のため北陸へ合宿へ行くことになっていたので最初は断った。すると石田達は、


「崔君が戻ってくるまで待つから」


と行ってくれた、“僕を待ってくれているんだ!”嬉しかった。


 そして、僕は免許を取得して帰って来た。そして、石田達を父の車に乗せて(念のため、父は助手席)僕が運転して見せた。僕は、オートマなら普通に乗れたが、父の車はマニュアルトランスミッションだった。僕の免許はオートマ限定ではない。ミッションも乗れる普通免許だった。だが、長時間の運転はその時の僕には無理があった。ギアチェンジに気を取られて運転がボロボロになるのだ。


 帰って来て、僕は言った。


「石田、すまん。僕、さすがにこの運転でみんなを乗せていく自信は無いわ」


すると、石田が言った。


「ほな、旅行は電車かぁ、車の方が交通費が安いんやけどなぁ」


“気にしてたの、そこー?”


 僕はショックだった。僕を待ってくれていたのではなく、車と運転手が欲しくて待ってくれていたのだ。何故なら、交通費が安くすむから。僕を待っててくれたわけではなかったのだ。僕は……表現が難しいが、悲しいというか、寂しいというか、虚しいというか、いろんな感情が溢れかえった。その時、“そんなに電車賃が勿体ないのか? 車で少し安く行くのがそんなに大事か? こんなの友達じゃない”と思った。



 そして、高校を卒業して進学してから、僕の先輩のおかげで女子大の文化祭にみんなで行けるようになった。みんな喜んだ。高卒や高校中退もいたが、構わない。参加する男共は8人くらいだった。みんなで女子大へ。


 僕達の目的は“ね〇〇ん大会”。男性陣と女性陣がフリートークをして、告白タイムで男性が女性に告白するイベントだ。女子大に着くと、スグに運営委員さんに呼び止められた。


「ね〇〇ん大会に参加しますか?」

「はい、お願いします」

「5分で終わるので、代表者の方、来てください。人数の調整もありますので」

「おい、僕、行ってくるから待っててくれや」


 僕は事務所に入った。


 手続きは3分ですんだ。名前と人数を把握したかっただけのようだった。


「終わったで-!」


 外に出たら、見事に誰もいなかった。呆れた。僕は家に帰った。帰ったら、石田から電話があった。


「崔君、なんで帰ってるん?」

「僕が受付をすませて戻ったら誰もおらんかったやんか。1人で文化祭の会場を回れって言うんか? そもそも、戻ったら誰もいないってどういうことやねん?」

「いやー! 女子大の文化祭ということで浮かれてしまって、待ってられへんかったんや、スグに合流出来ると思ってたし」

「なんで僕がお前等を探さなアカンねん」

「……」

「もう、僕のことはええから、ね〇〇ん大会だけ出てくれよ。人数調整してくれてるから。参加しなかったら女子大生に迷惑がかかるからな」


と言ったのに、結局、石田達はね〇〇ん大会に参加せずに帰ったらしい。正直、“度胸の無い奴等だ”と思った。僕はまた、悲しく、寂しく、虚しい気分を味わった。この頃から、石田達を友人ではなく知人と思うようになっていた。



 少し時が過ぎ、僕が就職して滋賀の寮(ワンルームマンション)で暮らしていると、石田から電話があった。


「今度の3連休、崔君の部屋で1泊させてもらってもええか?」

「ええけど、何人来るねん?」

「4人」

「ワンルームやから、狭いで。予備の布団も無いしな」

「エアコンさえあればええねん」

「まあ、それでええんやったら」


 ところが、僕は風邪をこじらせてしまった。39度代の熱が下がらない。僕は連休の2日前に、石田に連絡した。


「悪い、風邪をこじらせた。39度以上の熱がある。風邪をうつしても悪いし、僕が相手できへんから、泊まりに来るのはやめてくれ。彼女(婚約者)も看病に来るし」

「わかった」


 なのに、石田達は来た。マンションの駐車場まで僕は降りて行った。


「崔君と彼女のホテル代を出すから、崔君がホテルに泊まってや」

「嫌に決まってるやろ、こっちは熱が39度を超えてるんや、移動出来へんわ」

「……」

「お前等が言いたいのは、要するにこれやろ」


 僕は石田に2万円を渡した。


「駅前に安いホテルがあるから、これでツインの部屋2つで泊まれるわ、これでええやろ。ほな、僕は部屋に戻るで。こうしているのもしんどいわ。寝たい」



 “社会人になって、数千円のホテル代が惜しいのか?” 僕は呆れていた。この頃から、僕は石田達のことを“知人以下”だと思うようになった。知人以下だから、もう悲しいとも寂しいとも虚しいとも思わなくなった。その後、同級生の結婚式などで顔を合わせることがあり、会話もしたが、僕の中では彼等は知人以下だ。これが、友人から知人以下になっていった過程のお話。なんというか……僕が軽く見られていたのがわかる。こんなに軽く見られていたとは、お恥ずかしい。恥ずかしいだけではなく不快。恥ずかしいのだが、恥ずかしいからこそ書いた。“作家は恥を晒してなんぼ!”。







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友人が知人以下になる過程! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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