第17話 異国での奮戦

 翌週、とんでもないニュースがニュースサイトに飛び込んで来た。なんと全日本2歳優駿を勝ったアウヤンテプイがサウジダービーに勝利したのだ。


 サウジダービーは歴史が浅くそのせいで格付けはGIIIとなっている。だが、一着賞金は九千万円と日本の中央競馬のGIの一着賞金と変わらない金額が設定されている。全日本2歳優駿の一着賞金は四二百万円であり、そのほぼ倍となっている。朝日杯フューチュリティステークスの一着賞金が七千万円なので、いかにサウジダービーの賞金が高額かがわかると思う。

 しかもサウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場のふかふかの土は日本の砂のコースと相性が良いらしく、過去にもかなり良い成績を収めている。そのせいか日本でも馬券の発売があったのだが、アウヤンテプイが一番人気となっていた。


 発走時刻は二三時で、深雪と二人、契約したばかりのグリーンチャンネルでの視聴となった。今回は馬券購入はせずに、あくまで興味本位での視聴だけ。



 向こう正面のかなり奥からスタート。

 グロッタアズーラは大きく出遅れてしまったのだが、アウヤンテプイはそれなり良いスタートを切った。

 前走は後方からの競馬だったアウヤンテプイだが、今回は一転して先頭集団に取り付いている。一方のグロッタアズーラは最後方を追走。そのまま向こう正面直線を進み、大きな動きも無く三コーナーへ。先行集団は五頭で形成しており、うち二頭がアメリカの馬、一頭がアウヤンテプイで、残り二頭は地元サウジアラビアの馬。


 四コーナーでアメリカの二頭が真っ先に鞭を入れて後続を引き離しにかかる。サウジアラビアの二頭も食らいつこうと鞭を入れた。だがアウヤンテプイの鞍上河原は追うだけで鞭を入れない。


 直線に入りサウジアラビアの二頭が引き離されると、アウヤンテプイは外に持ち出し一鞭入れた。だがすでにアメリカ勢はかなり前を進んでおり、もはやこの二頭で決まりかというような状況であった。その二頭をただ一頭、アウヤンテプイだけが猛然と追い詰める。


 残り二百の標識を過ぎるとアメリカ勢の脚色が鈍った。アウヤンテプイは一気に二頭を追い詰める。


 残り百メートル。ついにアウヤンテプイは先頭のアメリカ馬に並びかけ、半馬身前に出たところがゴール板であった。

 なお、グロッタアズーラは直線で追い上げて六着であった。



 朗報は続く。

 何と、ロマンブライトが桜花賞トライアルであるアネモネステークスに勝利したのだ。これで少なくとも桜花賞へ出走する切符は手にした事になる。

 初の芝コースでどこまでやれるのか、恐らく馬主の若尾氏も多治見調教師も、その一点が非常に気掛かりであったことだろう。いくら血統的には芝でも問題無いと言っても、そこは実際に走らせてみないとわからない。

 久々の地方在籍馬のクラシックへの参戦、それも地方でもかなりちゃんと実力を示しての参戦とあって、レース前からかなり注目となっていた。

 ロマンブライトは三番人気。


 第一コーナーの外側に設置されたゲートが開くと、ロマンブライトは逃げ馬のすぐ後ろに位置取った。普段は末脚勝負の差し競馬なのに、鞍上の若竹は二番手に付けたのである。芝のペースに十分付いていけているらしく若竹の腕の動きが小さい。

 中山競馬場の外回りコースはかなり歪な形をしている。向こう正面が直線ではなく二コーナーから三コーナーまで大きく弧を描いている。そのせいかよどみ無いペースで四コーナー手前まで進んだ。

 だが、残り六百メートルの標識が見えると、とたんにペースが早くなり後続も詰まって来る。


 四コーナーを回り直線コースに入るとロマンブライトは三頭の馬と一緒に先頭を走った。地方競馬で培った直線での粘り腰がここで存分に発揮される。他の二頭が徐々に失速していく中、ロマンブライトはぐんぐんと加速を続ける。


 残り二百メートル。

 ここでロマンブライトは馬群から完全に一頭抜け出した形となった。外を伸びて来る馬もいるにはいるが、ロマンブライトを追い詰めるまでには至らない。ゴール手前の急坂でロマンブライトはさらに後続を引き離し、先頭でゴール板を走り抜けたのだった。



 三月の末、いよいよアウヤンテプイのUAEダービー出走の日を迎えた。翌日には阪神競馬場で大阪杯が行われる、そんな日付での開催である。


 UAEにもクラシック三冠があり、UAEダービーは最後の一冠。一戦目がUAE2000ギニーで、二戦目がアル・バスタキヤ。

 どちらもドバイのメイダン競馬場で、距離はそれぞれ千六百メートルと千九百メートル。UAEダービーもメイダン競馬場の開催で、距離は千九百メートルである。

 創設当初UAEダービーはGIIIだったのだが、回を重ねた事によりGIIに昇格。一着賞金は年々下がっているのだが、それでも約六千万円と破格の金額となっている。


 発走は夜の二三時が五分前。その為、今回も我が家はグリーンチャンネルでの視聴である。二人仲良くパジャマ姿でリビングのテレビを前に、ああだこうだと言い合った。



 出走はゴール板の少し手前、正面直線コースからとなる。

 メイダン競馬場の土はやや粘土質で、日本の砂コースやサウジアラビアの土コースに比べると、アメリカの土コースに近く、パワー一辺倒というよりも先行力が求められる。そのせいで道中ペースが早くなる事が多い。日本ではそういった場合差し有利になる事が多いのだが、メイダン競馬場では差しは決まりにくいような気がする。


 ゲートが開いた。

 今回はアウヤンテプイもグロッタアズーラも中々に良いスタートであった。

 二頭が押して行き、先頭はアメリカのドクターアニマル、その外に地元UAEのゴールデンピック。アウヤンテプイもグロッタアズーラもスタートから押して行き、その二頭のすぐ後ろに位置取った。


 一コーナーを回ってその体勢のまま二コーナーへ。二コーナーを過ぎると、少しづつではあるが前二頭とアウヤンテプイたちの間が開いていった。前二頭の追走に苦戦しているのか、それとも前二頭のペースが早いのか。観戦している限りではどちらか判別はつかない。

 すると外を走っていたアウヤンテプイの外に地元のロマンティックソングが並びかけてきた。前が二頭、二番手が三頭という体勢で向こう正面直線を疾走。依然先頭の二頭は先頭争いを繰り広げている。

 三コーナーを回ると後続が徐々に差を詰め始め、一団という感じの展開に。


 四コーナーを過ぎると、先頭の二頭が同時に差を広げにかかった。だがすぐに外ゴールデンピックが付いて行けずに後退。

 ドクターアニマル一頭が先頭を走っている。それをグロッタアズーラが追走しているのだが、思った以上に脚色が鈍い。

 一方のアウヤンテプイは下がってきたゴールデンピックを交わして前に出ようと、馬体を外に向けようとした。内にはグロッタアズーラがおり、外に余裕があるように見えたのだろう。ところが、それを見たロマンティックソングが内に流れてきて、アウヤンテプイはあわやゴールデンピックと接触しそうになってしまった。

 鞍上河原はすぐに内に進路を変えて、内のグロッタアズーラをラチ側に押し込める事で何とか接触落馬だけは避けた。


 だが致命的な不利であった。

アウヤンテプイも完全に追い出しが遅れてしまったし、グロッタアズーラは接触されて気持ちが削がれてしまった。そこからグロッタアズーラはずるずると後退。アウヤンテプイはそこから体勢を立て直して、諦めずに再度伸びようとしたものの、もはや先頭は遥か前を行っていた。


 結局、アウヤンテプイは一着のドクターアニマルから大きく遅れる七着。グロッタアズーラは直線で力尽き十一着であった。



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クプア エイシンヒカリ ディープインパクト *サンデーサイレンス

                      *ウインドインハーヘア

            キャタリナ     Storm Cat

                      Calolina Saga

    マハロ     Distorted Humor   *フォーティナイナー

                      Danzig's Beauty

            ヘヴンリーロマンス *サンデーサイレンス

                      *ファーストアクト

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