生命と物質運搬
山川一
第1話 生命の役割:物質運搬
生命の役割は物質を輸送することにある。本書ではこの内容について説明していくものの、結論としてこれ以上のことは言っていないと言える。よく生命の役割は、子孫を生み出すことであると説明されることがあるが、これは生物学的区切りにおいて正しいが全体として正しい訳では無い。なぜなら、生物学において、生命と無生命とを分ける区分けを自己複製能力であると定義しているからである。つまり、生物学はその学術的領域の都合上、生物と無生物とを区切る必要があり、そこでの生物の定義に何らかの子孫を生み出す自己複製能力を持っているものを生物と規定したからである。しかし、そのように人間が生命を定義したからといって、その定義が生命の目的であると考えるのは明らかにおかしい。これは、数学でいうと、x=1から立式を始めて、またx=1を得たに過ぎず、何ら本質的な解を得ていない。
そこで、生命の本質を追求しようとすると生物学の外にでなければならないということになる。生物学の外側にあるのは、大きくは化学であり、その外側にあるのは物理学である。そこで、まず生命の本質的存在が化学か物理学のどちらであるかを考えてみる。
まず、ここに太陽があり、太陽エネルギーを伝達する熱線を放出しているとする。次に、2つの惑星があり、一つは鉄の惑星で、もう一つは水の惑星であるとする。それぞれどうなるであろうか。鉄の惑星は太陽光の熱線を受けて温度が上昇する。そして、宇宙に放出する熱量と太陽光から受ける熱量とが均衡した温度域へと変化する。しかし、それで生命を生み出すような運動が生じるわけではない。では、水の惑星はどうだろうか。水の惑星では、太陽光の熱量を受けて、変化が生じる。水に触れているものはより多くを溶かすようになり、水そのものも水蒸気となったり、氷となったりして変化していく。この鉄の惑星と水の惑星とを比べた時、物質の熱量に対する反応性の違いから、このような性質が生じていることが分かる。
さて、生命の話に戻る。鉄の惑星では生命が生じないが水の惑星では生命が生じていく。ここには、この2つの物性の違いが作用しており、物理学と熱力学の分野ではこの2つを説明できない。このため、生命は鉄と水とを明確に区分けしてその性質について論じることのできる化学の分野であることが分かる。ここで、このような太陽光などのエネルギーに対して、反応して変化しやすい物質を「反応性が高い」と呼ぶことにする。
さて、地球には様々な反応性の高い物質があり、そこに太陽光の熱量が投入されている。鉄の惑星ではたんに惑星の温度が上昇するだけであるが、地球では、鉄の惑星ほどの温度上昇が発生せず、様々な物質の反応へと転換されていることになる。そこで生じ来るのが生命である。生命とは、地球に投入された太陽の熱量が化学的物質の運動へと転換された運動体であり、太陽光によって上昇するはずの温度が何らかの物質の移動へと転換された形である。そういうわけで、私は生命の本質的な役割は物質運搬であると結論づけたのである。
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