キスまでに交際324ヶ月
「私の恋人はあの月ですから」
日本人最年少――それも女性の宇宙飛行士が月から無事に帰還したという報は瞬く間に世界中へ広がって、それと同時に彼女のその言葉も一瞬であらゆる言語へ翻訳されて広まった。人々は美談として受け止め、称賛し、彼女の微笑みをあらゆる媒体に複製した。
「私の恋人はあの月ですから」
彼女は決まってそう答える。
誰も本気にはしてなかった。
仕事一筋。家族は無く、趣味も無い。この一帯で一際高く聳え立つマンションの最上階、一糸纏わぬすがたで夜空に向かって腕を広げる彼女のこころを知る者は居ない。――ただ、月だけが彼女を見つめている。
東京の空には今日も、灰白色に光る月の横にもうひとつ、眼下を憤怒の様相で睨め付ける、真っ赤な月が輝いている。
「心配しないで、またすぐに行くから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます