ひとでなしども

烏有なずき

お口に恋人

 それはいつものように夜道に佇んでいて、私はそれを避けることができない。


 何故なら袋小路の奥の奥にある自宅への帰り道はこの一本しかないし、私は大して交流も無ければ顔も知らないようなご近所さんの私有地を勝手に通り抜けられるほどの図太さを持って生まれてこなかった――交流があっても顔を知ってても勝手に通り抜けてはいけないし、やはりそんな図太さを私は持たないだろう――ので、必然的に。

 それは夜道で煌々と……というには弱々しい光を放ちながら佇んでいて、私がその前を通ると必ず酷いノイズ混じりの声で「やあ!」と声を掛けてくる。

 私は立ち止まり、それを見た。四角く、縦に長く、その中には何世代か遡ったデザインのジュースなりお茶なりが並んでいる。夜になると声を掛けてくる以外は、どこからどう見てもただの自販機である。

 カラフルだったのだろう塗装は色褪せていたが、これ以外に見たことのない自販機ではあった。暫く見つめあったままでいると、いつもそれは――自販機は、がこんっ、と取り出し口の方へ一本の商品を落とす。


「さあ、どうぞ!」


 いつにも増してノイズが酷い。私はいつものように、見本には見当たらないデザインの缶を取り出す。一度無視をしたことがあったが、そうすると抗議でもするように次から次にがこがこと落としてくるのだ。


「さあ、どうぞ!」


 それはいつものように目の前で飲み干すことを推奨してきて、私はそれに従うしかない。

 いつも鉄のような味がする。私はいつも吐き気を覚えながら、それを飲み干すしかない。

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