第2話 じ、直談判!?

 ワクワクした気持ちばっかじゃいられない。

 部員が居ないのだ。二人だけでは愛好会として完結してしまう。

 部活を作るともなれば、ゴールデンウィーク前が限界。

 ゴールデンウィークが明ければ、本格的に部活の募集が始まるからだ。

 それまでに部員を集め、申請に行く。


「と、言うことで、部員を集めよう」

「うん、そうだな。部員を集めよう」

「…………」

「…………」


 部員を集めると言ってもどうすればいいかなど全く考えていない。

 これでも通常運転。

 椿の計画に乗ると、いつもこうなる。

 二人とも分かりきっていた。

 それを踏まえた上で、僕らの沈黙は続く。


 キーンコーンカーンコーン


 授業開始前のチャイムが鳴ったのはその時だった。

 僕らはちょうど真上にあったスピーカーを眺め、再び椿に視線を戻す。


「取り敢えず今日は授業をサボって、この事について考えておこう。放課後にまた打ち合わせだ」

「……当たり前のように授業はサボるんだな。」

「んじゃそゆことで〜」


 椿は僕に手を振りながら軽い足取りで自分の教室に向かう。

 僕も軽く振り返して自分の教室に向かった。

 現在四月中旬。

 ゴールデンウィーク第一陣の開始日は、四月二十九日の昭和の日。

 そして昭和の日の前日には小学校の振り返りテストがある。

 テスト勉強で忙しくなる前に、部員集めはなんとかしなければ。


 ◇


 放課後、僕は椿と待ち合わせている図書室前廊下に居た。

 まだ部活の体験入部は始まっておらず、下校前の同級生は昇降口でたむろしている。


 こんな風景を見ているといよいよ環境が変わったことを実感する。


 授業中だってそうだ。

 小学校が別の人と気まずい空気が流れる感じ。

 どの教室が何処にあるかわからない感じ。

 きっと小学校の頃に一度経験したことがある筈。

 でも、まだまだ幼かったあの頃とは違う。

 小学校に上がったら友達百人作る!なんて言ってたあの頃から早六、七年。

 ずっとずっと成長した僕らは、これからどんな景色を見ていくのだろう。

 今まで見てきた景色をどう超えてくるか。

 僕自身が創り出す未来は、僕にどんな景色を見せてくれるだろうか。


「お〜い、れ〜お〜っ」


 後ろから声が聞こえる。

 振り返ってみると椿が居た。


「よう、椿。何か考えてきたのか?」

「あぁ、モチロン!」


 椿は「早速だが……」と言い、視線を落とす。

 そして、落としていた視線を僕に戻し指を突き出す。


「コミュ力が必要だ!」


 顎に手を当てて、うんうんと顔を上下に振りながら、ドヤ顔をしている椿。

 ただ、一つ気になったことがある。


「なんでコミュ力が必要なんだ?」

「校長に直談判するからだよ!」

「…………」

「直談判。」

「じ、直談判!?」


 すると、椿は不思議そうな顔で僕を見つめてくる。

「まるで変な事でも言っただろうか」とでも言うように。


「ちょっと待った、直談判なんて聞いてないんだが!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「言ってない!!」


 嘘だろおいおい。

 直談判っておい。

 椿もついにその領域にまで手を出し始めたか。

 いつも僕の考え、いや、常識の範囲を斜め上から超えてきた。

 今回もきっと何かあるだろうと身構えてはいたが、そう来るとは思っていなかった。

 

「だってそれ以外あるのか?」

「いや、何かもっとこう……担任に言ってもらうとか、色々……」

「それじゃインパクトと覚悟を感じん!」


 インパクトなんて要らないんだよ、こういう時は!

 もっとご丁寧に親切にだろ!

 こいつの頭の辞書に常識なんて言葉はないのか!?

 直談判って……。


「とにかく!そういうことだ!分かったか?」

「いや分からん!」

「それじゃあ玲桜の承諾も得られたということで!」

「耳付いてないのか!?」


 こいつはもう……。

 どこまで波乱万丈を貫く気なのか……。

 今回こそ椿の話に乗らなきゃ良かったと後悔するには、もう遅かった。

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