8.好意

「助けて、いや、いやぁぁぁぁ!!!!ごめんなさ、ごめんなさい!!!!」


「あーぁ、最強の魔女ともあろうものが、泣いて無様に許しを乞うてるよ。ざまぁねぇな!」


「せっかくの仲間も殺されて、自分は死に戻りで0からやり直し、ゴブリン、オーク、と続けざまに慰み物にされてすっかり汚れてしまって……今なら貴方とお似合いですね」


「あ、殺すぞ失恋野郎が!」


「失礼、粘着ストーカーには図星でしたね。」






「……と、いう感じの幻覚をアイツらには見せてるわ。」


「よりにもよって、自分の姿をよくそんな風に見せられるな!?」


 あの後、蘇生した4人は不甲斐ないと謝罪したが、私のこんな事につき合わせているんだ。むしろこちらが謝るべきだと頭を下げた。

 悪い、いや私が悪いのやり取りが暫く続き、話題を変える為に、幻覚の説明をしたが引かれてしまった。

 屈辱を私に与えたいなら1番効果的なのでしょうがない……しかし、なぜ喧嘩しだしたんだあの2人?


「禁書6冊全て獲得してないのに、そんなこと出来るんですね……。」


「まだ、半分だろう?」


「半分あったら大抵の生物には勝つわよ。組んだら危ないけど、油断し切ってる2人なら簡単ね。」


「2人って……神様と魔王様なのに……凄いです」


 久しぶりの褒めに鼻が高くなる。すると、私以上にリュカは目を輝かせて頷く。


「そうだろ!そうだろう!アザラは凄いんだぜ!」


「お前が誇るな」


 リュカとアスタロトのいつも通りのやり取りに、生き返らせることが出来て良かったと胸を撫で下ろす。

 私だけではなく愛おしい村の子にも手を出したのだ。覚悟をしてもらわないといけない。


「今後の方針だけど、まずは、地図を作るわ。」


 私は床に座り、地面に魔力を流す。指先が光り、その光は土に形をつける。下へ進み、曲がり、目印をつける。


「このダンジョンの簡易的な地図よ。」


 アスタロトはすぐに紙とペンを取りだし、慣れた手つきで地図を作成する。


「このドクロの印はなんだよ?」


「死神よ。」


 クロウさんの眉間のシワが深くなる。倒し損ねた残り2体が潜んでいる。

 クロウさんの蘇生はできたが、今回も首は切断されたままで、かろうじてくっ付いている状態だ。呪いをかけた死神を殺さなければ元の体には戻らないだろう。


「死神を倒しに行くのか?」


「そうよ。楽しみでしょう?」


「おう!俺、倒したことねぇから楽しみだぜ!」


「僕も、死神様には会ったことないので、倒したら召喚できるようにお願いしたいです!」


「不老不死の研究には、死神はもってこいだ。」


 和気藹々としたやり取りに、クロウさんは苦笑した。でも、どこか安堵して見えた。

 私は彼に沢山助けられている。少しでも恩返しをしたい。彼が本当に安心した日を迎えられるようにするつもりだ。


 地図を書き終えたアスタロトに御礼を告げ、立ち上がる。

 魔術で作った地図は消え、私はガラクタ同然となった機械人形に目をやる。

 意思疎通の手段を持ち合わせていない私には、なぜ機械人形が笑っていたように見えたのかは分からない。

 初めて見たモンスターだから、神と魔王から作られた存在なのは間違いないだろう。ならば、私と戦うのが楽しかったのか?

 ……いや、それなら私を痛ぶって楽しかった方が信憑性がある。


「あの、アザラ様、その方……気になるんですか?」


 リオさんに聞かれて首を振る。自分達を殺した存在だ。そんなのに構っていたら気分が悪いだろうと自分の意思とは反対の態度をとるが、目を輝かせていた。


「あの、僕、この子見たことがないんです。良かったら、僕にこの子をくれませんか?」


「え!?」


 予想外の申し出に間抜けな声を出してしまう。


「くれませんかって……でも、この機械人形、リオさんをその、手にかけたのよ?いいの?」


「はい!僕の召喚する子達の半分以上は僕を殺そうとしたので大丈夫です!」


 それは大丈夫なのか!?


「でも、みんなは良いの?」


「戦力になるなら構わない。」


「ちゃんと躾けろよ!」


「アザラ様にまた手を出そうとしたら、バラバラにしますからそのつもりで」


 いいんかい!!!


 リオさんは元気に手をあげて返事をする。しかし、機械人形はバラバラだが、どうやって修理して召喚するんだろう?

 不思議に思うと、リオさんは呪文を唱え人を数人召喚した。驚き周囲を見まわして震えていたが、リオさんが和かに話しかけると、空気が変わり、すぐに打ち解けて専門トークで盛り上がった。

 召喚された人達は機械人形を目にして、修理に取り掛かかった。なんて便利なんだ召喚魔法!でも、人を呼ぶときはリオさんの話術がないと無理そうだ。

 苦戦していたのは最初の数分で、すぐに修理することが出来た。ロボット三原則?というものを取り付けたから人を襲わないとのことだ。それは1番危惧していたことだからありがたい。彼等は手を振り、お土産を持って帰っていた。


「…………。」


 バラバラだった機械人形は元に戻り、ゆっくりリオさんに跪く。嬉しそうに笑い電球の頭を撫でた。これが契約の印らしく、これからどこでも召喚できるようだ。


「名前がないの?じゃあ、今日から君の名前はドラドだ!よろしくね!」


 新しい友達が嬉しいのか、リオさんは年相応に無邪気に笑い手を繋いでる。

 その触手の手で、私攻撃されたのよね……。足では刃物みたいな歯車で、腕を切断されたし…….。

 まぁ、腕は魔術でくっ付けたし、私もバラバラにしたけど……。

 じろじろ見ていたせいで、機械人形もといドラドと目があった気がした。私の方に向かい、手を握りしめる。冷たい感触に背筋が震える。

 また笑った気がした。


「ドラドは、アザラ様が好きなんだね!」


 修理した時に、ぷろぐらむ?も書き換えたからだいぶ違うらしいが、あの笑顔は変わっていない気がした。


 大所帯だし、寝込みの最中に襲われたこともあり流石に連れてはいけないと判断して、ドラドとは別れをつげ、私達は下層へと向かっていた。

 ドラドは1人でどこにいて、何をするのかと考えると、少し胸が痛んだ。


「アザラ様、大丈夫ですか?」


「アスタロト……。

うん、私は大丈夫。いつもありがとう!」


「いえ、気にしないで下さい。アザラ様のことが好きでやっていることなので……。」


 は?


「どうしました?」


 な、なんで冷静なのこの子!???!

 告白したよね?

 普通に!日常会話みたいに!

 あ、いや、違うか。

 愛とかじゃない意味だこれ!


「そ、そうなんだ。ずっと一緒にいるから、楽しくなるもんね!うん!」


「はい。アザラ様と居ると楽しいです。」


 危うく勘違いするところだった!

 だいたい1000歳も離れているのだ。恋慕の情など寄せられるわけがない。勘違い老害なるところだった。危なかった。

 顔が熱くなり、誤魔化すように早足で下層に向かう。




「……今ので少し意識してもらえたら良いんですけどね。」

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