第5話「告白された」
不思議な三人組が来た日の夜、柚葉は自分の部屋で勉強をしていた。
しばらく勉強をして、時計を見る。もうこんな時間か、お風呂に入るべきかなと思ったそのとき、柚葉のスマホが鳴った。画面を見ると『柚真』とある。柚葉は座りなおしてから電話に出る。
「もしもし」
「もしもし、あ、ごめん急に電話して」
「ううん、いいけど、こんな時間にかけてくるなんてめずらしいね、何かあった?」
「そ、それが……」
それが、の後、少し沈黙の時間が流れた。何か話しにくいことなのだろうか。
「……また、告白された」
沈黙の後の一言は、重く深い一言のように、柚葉は感じた。
「……そっか。そういえば今日の放課後、柚真がいなくなってたから、もしかしてとは思ったんだよね」
「……うん」
「で? 柚真はなんて返事したの?」
「……ごめんなさい、お付き合いすることはできない……って」
その言葉の後、ふーっという息を吐くような音が柚葉のスマホから聞こえてきた。気分が重くなっているのかもしれないなと、柚葉は感じていた。
「……そっか。また知らない人だった?」
「……うん」
「柚真は人を覚えるのが苦手だからねぇ。もうちょっと克服した方がいいと思うけど」
「い、いや、さすがに学校にいる人全員を覚えるなんて無理だろ……」
そう、中性的で綺麗な顔立ちをしている柚真の弱点は、人を覚えるのが苦手なことだった。以前柚真が話してくれたが、クラスの中にも顔と名前が一致しない人がいるとか。それで大丈夫なのかと柚葉は思った。
「まぁそうなんだけどさ、さすがにクラスの人くらいは覚えた方がいいと思うよ」
「うっ、クラス替えがあると、分からなくなるんだよな……」
「まぁ気持ちは少し分かるかな。でもそのうち自然と覚えるもんでしょ」
「う、うーん、無理……」
「無理……じゃないの、覚えなさい。お母さんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「いや、柚葉が俺のお母さんじゃないだろ……わ、分かったよ」
しぶしぶ受け入れる柚真だった。
「それにしても、柚真は私を覚えるのは早かったよね。初めて会ったのは中学一年生のときだっけ、同じクラスになって、すぐに名前呼んでくれたよね。なんで?」
「あ、いや……柚真と柚葉って、なんだか似たような感じだったから、覚えやすかったというか……」
ちょっと恥ずかしそうな声を出す柚真。柚葉はクスクスと笑っていた。
「わ、笑うなよ……」
「ああ、ごめんごめん、実は私も一緒なんだ。『なんだこいつ、名前似てるじゃん!』って」
「こいつ、なんて思ってたのか……まぁいいけど」
「最初なんてそんなものよ。あ、そういえばさ、この前『人の心に色がある』って言ってたじゃん? 今の柚真の心の色は何色?」
柚葉がそう質問した後、また少し沈黙の時間が流れて、
「……暗く濁った灰色かな」
と、柚真がぽつりと口にした。
「え、またなんか暗い感じだね、どうして?」
「……分からない。詳しくは分からないけど、そんな感じがする」
もしかしたら、柚真は告白されて、断ることで重い気持ちになり、それが色に表れているのではないかと、柚葉は思った。『断る』ということは明るく楽しいことではない。柚真本人にとっては重い出来事なのだ。もしかしたら相手の女の子のことを心配していたりするのかもしれない。
「そっかぁ、なんか柚真の心が少しだけ分かったような気分だよ」
「……そりゃどうも。まぁ、柚葉と話したら濁ってた色も少しだけ明るくなったような気がする。ありがとう」
ストレートに『ありがとう』と言われて、ちょっとドキッとした柚葉だった。
「い、いやいや、そんな大したことでは……まぁあれよ、くよくよしなさんなってことよ!」
「なんでまとめたのか分からないけど、そうだな、そうする。あ、ごめん、長話になってしまって」
「ううん、大丈夫。私お風呂に入るから、じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
電話を終えて、柚葉はどこかふわふわした不思議な気持ちになっていた。
あれ? これはなんだろう……? と考えても答えは出てこない。それが分かるときが来るのか、それとも……。
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