第4話「柚真の彼女?」

 ある日の朝、柚葉はいつもより早く学校に行った。

 朝はけっこうすっきりと目覚めることができる柚葉。そういえば柚真は朝はちょっと苦手だとか言ってたっけ。あいつにも苦手なことがあるんだなと、柚葉は思っていた。


 階段を上がり、教室に入ろうとしたそのとき――


「――坂下さんですわね?」


 と、声をかけられた。見ると女の子が三人いた。

 あれ? 誰だろうと思ってしまった柚葉。同じクラスの人ではない。


「は、はい?」

「ちょっと、いいかしら。あなた、河村くんと仲良くしているそうね。どういうつもりなのかしら?」


 真ん中にいた子が、引きつった笑顔でそう言った。長い髪をくるくると巻いた、見た感じもしゃべり方もお嬢様のような、そんな雰囲気があった。

 こんな子、現実にいるんだ……と、柚葉はびっくりしたとか。

 

 それはいいとして……ああ、もしかして柚真に気がある子なのだろうか。柚葉は心の中でそう思った。この前亜紀にも訊かれたように、柚真のことを訊いてくる女の子がたまにいる。この子もその一人かな。


「ど、どういうつもり……って?」

「とぼけないでよ。あなた、河村くんの彼女なの? なんだか仲良さそうなのを何度も見てるんだからね」


 左側にいた女の子が言った。う、うーん、仲良さそうとか言われても、別に普通に友達として接しているだけなのだが……と、柚葉は三人に聞こえないくらいで、ふっと息を吐いた。


「いや、彼女ではないよ。ただの友達。仲が良いかどうかは分からないけど……」

「嘘は言わない方がよろしくてよ。あなた、絶対に河村くんのことが好きなんだわ。そうよ、そうに違いないわ」


 ……ああ、なんだかめんどくさい人たちだなと、柚葉は思ってしまった。周りからどう思われても別に構わないが、こうして絡まれるのはちょっとご遠慮いただきたい。


 たまにいるのだ、柚葉が柚真に近いことで、嫉妬をする女の子が。そのたびに違う違うと否定してきたが、この子たちにも言わないといけないらしい。


「いやいや、ほんとにただの友達なんだって。腐れ縁みたいなもの。特に恋愛感情があるとか、そういうわけではないから」

「……本当に?」

「うん、本当」

「……じゃあ、私が柚真くんを奪っても、特に問題はないわけですわね。ふふふ、やりましたわ。これで私のものですわ!」

「うんうん、よかったねー!」


 なにやら楽しそうな三人だった。柚葉は思いっきりため息をつきたくなった。『私のもの』って、柚真の気持ちは考えたことないのかと言いたくなったが、言うとややこしいことになると思ったのでやめた。こういう人たちは刺激しない方がいい。

 さて、こんな三人のことはいいとして、教室に入ろうとしたそのとき――


「――柚葉?」


 と、後ろから声をかけられた。見ると今話題になっていた柚真が不思議そうな顔でこちらを見ている。


「あ、あれ? おはよう」

「おはよう。こんなとこでなにしてんだ?」

「あ、い、いや、別に、ちょっと立ち話……」

「……か、河村くん……! お、おはようございますですわ……!」


 真ん中にいた子が、顔を真っ赤にして柚真に挨拶をする。柚真は、「は、はあ……おはようございます」と、何が何だか分からない様子だった。まぁそうだよね、ただの女子の集まりに見えるだろうなと、柚葉は思っていた。


「……やりましたわ、河村くんと、挨拶できましたわ……!」

「やったね……! じゃあ、この勢いで、こくは――」

「そ、それはさすがに無理ですわ、で、では河村くん、ごきげんよう」


 三人が廊下を走って行った。なんだか面白い三人だったな……と、柚葉は思った後、ふーっとため息をついた。


「……どうした? なんか疲れてるみたいだが」

「……ああ、疲れたといえば疲れた。でも、なんか面白い人たちだった」

「は、はあ……面白い……? あれ? なんか柚葉、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」


 柚真はそう言って、柚葉のおでこに手を当てた。突然のことに、柚葉はドキッとしてしまった。


「い、いや、熱なんてないって! あーもうこれは柚真に何かおごってもらわないと気が済まない! あんたが悪いんだからね!」

「ええ!? な、なんかよく分からないんだけど……ま、まぁいいか。教室入ろう」

「うん。それにしても柚真、あんたがこんなに早く学校に来るなんて、めずらしいね」

「なんかめずらしく目が覚めちゃって。眠れなかったとかそういうことではないけど」

「ふーん、まぁ、授業中寝ないように気をつけてね」

「一応忠告として受け取っておくよ」

「なんか生意気だなぁ。帰りにアイス! おごってね!」

「ええ、なんでそうなるんだ……まぁいいけど……」


 本当によく分からないと、頭を抱えた柚真だった。

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