第2話「別の世界の人」
「ねーねー、柚葉は河村くんのことどう思ってるのー?」
ある日の昼休み、柚葉は友達の
「え? 前にも言わなかったっけ? なんとも思ってないって」
「うそだぁ、よく仲良く話してるとこ見るよー。もしかして、もしかするんじゃないの!?」
「もしかしないよー、ほんとに何もないよ。まぁ友達だとは思ってるけど」
「うーん、柚葉はなーんか恋に対して消極的だよねぇ」
「そうかなぁ、そうでもないと思うけどねぇ」
そう言ってご飯をぱくぱくと食べる柚葉。この質問、前にも聞いた気がするなぁと、柚葉は心の中で思っていた。
でも、正直なところ、柚真に対して恋愛感情を抱いたことがない。近くにいる存在ではあるが、先日も「柚葉は僕なんかにも色目を使わない」と言われたばかりだ。柚葉にとってそっちの方が安心するのかもしれない。
「そういう亜紀は、もしかして柚真のことが好きなの?」
「え!? い、いやぁ、私なんかとてもとても……嫌いではないけど、河村くんは別の世界の人のような気がして」
まぁ、人の心に色がある、とか言っちゃう人ですけどね……と思いながら、柚葉はなんだか『別の世界の人』という表現がしっくりくるなぁと思った。
……ちょっと他の人とは意味合いが違うのは、柚葉本人も気づいていないかもしれないが。
「あ、そういえば、隣のクラスの人が、『今度河村くんに告白する!』って気合い入れてたよ」
「あ、そうなのね……それはおめでたいことで」
しまった、ちょっと色々な人に失礼だったなと思った柚葉は、「まぁ、うまくいくといいけど」と、慌てて訂正した。柚葉には未来が見えた。その告白はきっと――
――いや、野暮なことを考えるのはやめよう。頭の中も慌てて訂正した柚葉は、お弁当の卵焼きを箸で掴んでぱくっと口に入れた。
女の子のトークとなると、恋バナの一つや二つ出てくるものだ。柚葉はなんとなく参加はしているが、みんなの気持ちを完全に理解した感じでもない。私は女の子としておかしいのかなと、またそんなことを考えていた。
「……やっぱり私、恋に対して消極的なのかなぁ」
「あれ? 急にどうしたの? そうだね、なんかそんな風に見えるけど」
「うーん、私だって女の子なんだけどなぁ」
「まぁ、慌てない方がいいんじゃない? 恋なんて必ずしないといけないなんて決まってないし、そのうちいいなって思う人が現れるよ」
亜紀の言葉を聞いて、そうかもしれないなと思った柚葉だった。
* * *
「……告白?」
昼休みの終わり頃に、自分の席に戻った柚葉と柚真は話していた。先ほど亜紀から聞いた話だ。
「うん、なんか隣のクラスの子が、『今度河村くんに告白する!』って気合い入れてたって、亜紀が言ってた」
「……うーん、別に気合い入れなくていいんだけどな……」
柚真は困ったように顔をぽりぽりとかいた。
柚真と出会ってから、柚真が告白される場面があったのも、一回や二回ではない。そのたびに柚真は断っているみたいだ。まぁ自分が好きだと思った人でないとOKの返事を出せないよなと、柚葉も思っていた。
実は柚葉も、一度だけ男の子に告白されたことがある。そのときは相手のことをよく知らなかったので、ごめんなさいと言った。あれを何度もしている柚真の気持ちが少しだけ分かったような気がした。
「まぁ、そのうち呼び出されるかもしれないけど、そのときは頑張りたまえ!」
「……ちょっと楽しんでるだろ。まぁ、何言われても僕が言うのは……」
「はいはい、分かってますよ。そうやってほいほいと女の子についていかないところが、私は好きかな」
「……え?」
柚真が、ちょっとびっくりしたような顔で柚葉を見た。『好きかな』という言葉が引っかかったのだろうか。
「ああ、好きっていうのは人としてって感じかな。恋愛感情とかじゃないから安心して」
「そっか、そういう柚葉のサバサバした感じも、僕は嫌いじゃない」
「んんー? なんか恥ずかしそうですなぁ。好きって言ってくれていいんですよ?」
「……そういうところは嫌いかもしれない」
「あーっ、生意気なこと言ったなぁ、いつかぎゃふんと言わせてやる」
「なにそれ……まぁいいか。あ、先生来たな」
先生が来たので、話すのをやめて前を向く……が、柚葉はちらりと柚真を見た。横顔も綺麗なんだから……と、ちょっとうらやましい気持ちになった柚葉だった。
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