青色の心は何処にある ~Girl's Side~

りおん

第1話「人の心に色がある」

 人の心に色がある。


 そんなこと、誰も信じないと思うが、坂下さかした柚葉ゆずはの隣の席の男の子は、迷うことなくそう言った。


「は? 色? 何言ってんの? あるわけないじゃない」

「……いや、ある」


 彼はどうやら本気で心に色があると思っているようだ。

 柚葉はやれやれという顔をした。それが彼にも伝わったのか、


「……あるからな」


 と、彼は言った。


 柚葉の隣の席の彼は、河村かわむら柚真ゆずま。柚葉から見て、彼はちょっと変わっていた。

 中性的で綺麗な顔立ちをしている柚真。それは柚葉も認めていた。一般的に言うイケメンなんだなと、初めて会ったとき柚葉は思った。ただ、柚真の性格というか、心というか、そっちはちょっと変わっているな、と。


 先ほどの『人の心に色がある』発言もそうだ。なんだろう、普通の人とは感覚が違うのかもしれない。長く柚真を見てきた柚葉はそう思っていた。


 。なんだか似たような名前なので、柚葉は柚真のことをすぐに覚えた。というか、柚真はカッコいいので、女の子たちの話題の中心になることが多かった。嫌でも覚えるものだ。


 柚真のことを近くで見てきて、彼はカッコいい見た目の奥に、何かを抱えているのではないかと、柚葉は思っていた。人には言えないような何か。なので本人に訊くことはなかった。


「で、心に色があるとして、私は何色なのよ?」


 柚葉はちょっと気になったので、柚真に訊いてみた。


「……緑、かな」

「そうなの? なんでその色?」

「いや、僕なんかにも色目を使わない、広い心というか、草原のようなイメージで」


 うーん、分かるような分からないような。柚葉は少し考え込む仕草を見せた。

 他の女の子は「河村くんってカッコいいよね」とすぐに口にするが、柚葉はちょっと違った。いやカッコいいとは思うが、柚真のことをそういう恋愛対象として見たことがないというか。私がちょっとおかしいのかなと柚葉は心配になったが、あまり気にしても仕方ないかと、もはや開き直っている。


「ふーん、分かるような分からないような……まぁいいか。たしかに色目を使ったことはないなぁ」

「……柚葉は本当に女の子か?」

「なによ失礼な。私だってピッチピチの女子高生ですよーだ」

「……今どきそんなこと言う女子高生いる?」

「残念、ここにいましたー。あ、先生来たね」


 とりあえず会話はそこで終了となった。



 * * *

 


 放課後。


 柚葉はうーんと背伸びをした。はい今日も終わり。どこかに寄って帰ろうかなぁと思っていると、隣から視線を感じた。見ると柚真がじーっと柚葉を見ていた。


「ん? どうかした?」

「あ、ごめん、嫌な予感がする……だ」


 そう言ってちらっと廊下を見る柚真。なんだろうと思って見ると、女の子数人が廊下からこちらを見ているような。

 あー、かと、柚葉も感じ取っていた。


「ああ、なるほど……」

「……捕まって連行される未来が僕には見える」

「ごめん、私も同じ未来が見えた。奇遇だね」

「……楽しんでるだろ?」

「いやぁー、そんなことありませんよぉー、じゃあ、いつものやっときますか」

「ごめん、なんかいつも迷惑かけてるようで」

「いえいえ、帰りにちょーっと飲み物おごってくれたら、それでいいから」

「……そういうとこ柚葉はちゃっかりしてるよな」

「もちろーん、じゃ、先に出るね」


 そう言って柚葉が廊下に出た後、「あ、しまったー、河村くーん、先生が呼んでたよー、行った方がいいんじゃなーい?」と、大きな声で言った。柚真も、「ああ、分かったー」と言って、ササッと教室を出る。


 放課後フリーになると、今日のように柚真の出待ちをする女の子がたまに現れるのだ。どこの芸能人とファンの追っかけだよ、と思ってしまうが、現実に起きていることなので柚葉も慣れたものだ。


 分かれて教室を出た二人は、玄関で再び一緒になる。


「なんとかなったみたいね」

「ああ、ごめん、ありがとう」

「いやぁー、何おごってもらおうか考えてた」

「……真面目にありがとうって言った僕がバカだった」

「そんなこと言わないのー、さて、コンビニでも寄って帰りますか」


 二人は並んで歩き出す。柚葉はちらりと柚真を見る。百八十センチくらいの身長に、この綺麗な顔立ちだもんな……女の子たちの気持ちも分からなくはないというか。


 ただ、柚真に対する恋愛感情は、柚葉にはやっぱりないようだった。

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