第5話 自由の味

心の壁が崩れたあの日から、彼女の日常は大きく変わり始めた。以前ならば周囲の目や言葉に怯え、自分を抑え込んでいた場面で、彼女は心の中に秘めた「感覚の自由」を思い出すようになった。それはまるで、彼女の内なる輝きが強まり、彼女自身が変わりつつあるかのようだった。


朝、彼女は窓を開けて冷たい風が頬を撫でる感覚を楽しんだ。以前なら何気なく見過ごしていたその風も、今は彼女にとっては心の奥まで染み渡る自由の象徴のように感じられた。周りの喧騒や同調圧力が聞こえなくなるほど、彼女は自分の感覚に意識を集中させることができるようになっていた。


仕事や日常生活の中でも、自分の心の中にある「自由の味」を感じ続けていた。彼女は何も語らずとも、自分の感覚を楽しむことで、周囲から距離を保ちながら、真の自己を守り続けていた。


ある日、同僚から突然話しかけられた。「なんだか、最近雰囲気が変わったね。自分を抑えないで、楽しんでるように見えるよ。」


彼女はその言葉に驚きながらも、にこりと微笑んだ。周囲に気づかれるほどの変化が、自分の中に生じていることに喜びを感じたのだ。だが彼女は、あえてその感覚の詳細を話すことはなかった。これは、彼女だけの世界であり、彼女だけの自由だったからだ。


夜、彼女は一人静かに部屋に戻り、自分の鼓動を感じながら目を閉じた。今まで抑圧されていた感覚が、一つ一つ蘇り、彼女の心を満たしていく。まるで、自分の中に広がる「自由の味」を噛みしめるかのようだった。


彼女は思った。「この自由が、私をどこへ導いてくれるのだろう。」


彼女の旅は、まだ始まったばかりだった。

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