疎遠になっていた地味過ぎる親友が、イメチェンして超絶美少女になっていた
あかね
プロローグ 隣の席の美少女
「……本当に、行っちゃう……んだね」
「……あぁ」
「ね、ねぇ……向こう行っても、わたしたち……友達、だよね?」
「もちろんだ。自慢じゃないがお前以上の友達は他にいない。お前も、だろ?」
「――うんっ!」
クラスの中誰よりも地味だったくせに、その時の彼女の笑顔はだれにも負けないくらい明るく眩しかった。
もう今から4年も前になるあの日のことを、未だに忘れられない。
それは
お互いに地味で、ほかに友達が作れないような陰キャだったけれど、何故か二人は異様なまでに気が合って、暇を見つけては一緒に遊んでいた。
そんな二人をつなぎ合わせてくれたのは、とあるアニメ作品だった。
だが、せっかく順調に友情を育んでいたにも関わらず、それを邪魔するかのように朝人の転校が決まってしまった。
朝人の父親の仕事の都合だ。嫌だったけれど、それを拒否する権利は朝人にはなかった。
結局朝人はそれからおよそ4年間、各地を転々としながら過ごすことになり、その間も最初は彼女と連絡を取り合っていたのだが、高校に入るころには疎遠になってしまっていた。
そんなことを思い返しながら、何度やっても慣れないこの異様な空気から気を紛らわせていた。
「――と言うわけで今日からこのクラスでみんなと一緒に学ぶことになった赤嶺朝人くんです。じゃ、軽く自己紹介してくれますか?」
「はい。北海道から転校してきた赤嶺です。昔この町で暮らしていて、また戻ってきた感じです。これからよろしくお願いします」
でかでかと白チョークで書かれた自身の名前を背に、ざわつく教室に向けて軽く頭を下げる。
朝人は今日から親の都合で関東某所にある
案の定教室がざわつき始めるが、即座に先生が「はい拍手!」と言って手を叩くと、それに合わせてまばらな拍手が朝人に贈られた。
「じゃあ赤嶺君は右側一番奥の空いてる席に座ってください。何かわからないことがあったらとりあえず隣の席の子に聞いてみるといいでしょう」
「はい。ありがとうございます」
普通、困ったことがあったら自分に聞けというのが教師というものだと思っていたのだが、彼女は敢えて隣の席の生徒を頼るように言った。
ということは余程教師から信頼されている、人当たりの良い優等生なのだろう。
そんなことを思いながら歩いていると、自分の隣の席に座る人物の姿が目に入ってきた。
「――ッッ!?」
美しく鮮やかな、太陽のように眩しい金色の髪を
そしてまるでアニメの世界に出てくるキャラクターのように整った造形美。
なぜか若干頬を赤らめながら、やや居心地が悪そうにこちらの方をちらちらと見ている。
(ヤッバい……超好みだ……)
朝人は思わず足を止め、その姿に見惚れてしまった。
それは朝人が理想とするヒロイン像。
付き合うならこんな女の子が良いと妄想する姿にあまりにそっくりだったのだ。
「……? 赤嶺くん、どうかしましたか?」
「あっ、いえ! 何でもないですっ!」
ちょっと上ずった声になってしまい、不思議そうにこちらを見ていたクラスメイトからわずかに笑いが発生した。
しかもじっと見つめていたことに気づかれたのか、その女の子はさらにこちらに対して顔を背けてしまった。
朝人は慌てて自身の席に座り、リュックを置いた。
「えっと……名前、聞いてもいい?」
心臓が破裂しそうなほどドキドキしている中、意を決して隣の席の美少女に話しかけてみた。
いくらドストライクだったとはいえ、女の子をじろじろ見るという失礼を働いてしまった以上、第一印象は悪くなってしまったのは間違いない。
果たして答えてくれるかどうか。もし無視されたら泣いちゃうかもしれない。
そんなことを思いながら待っていると、やや俯いていた少女は顔を上げてこちらを見ながら口を開いた。
「――
「えっ!?」
その名前を聞いたとき、朝人の思考は一瞬停止した。
瑠璃。その名前は、先ほど思い出していた唯一にして最大の女友達と同じ名前。
しかし、彼女は黒髪で、ショートヘアで、いつもマスクをつけていて、こんなキラキラとした感じではない、もっと地味な女の子だったはず。
「な、なに……?」
「あっ……ごめん。なんでもない」
「そ、そう……一応フルネームは
「あっ、うん……よろしく、天堂さん」
どうやら同じ名前だが人違いだったようだ。
記憶の中の
大事なオタク仲間である彼女がもし、天堂さんのような姿になっていたら驚くどころじゃすまなかったので一安心した。
だが、朝人が”なんでもない”と答えた瞬間、天堂さんの顔色が一気に曇った。
「……瑠璃でいいよ。苗字、そんな好きじゃないから」
「わ、分かった。改めてよろしくね、瑠璃さん」
「…………」
いきなり名前で呼ばせてくるのにはちょっと驚いたが、苗字が嫌いと言っていた以上何らかの良くない事情があるのだろう。
それに突っ込むのは野暮というもの。だからこそ言われた通り素直に名前にさん付けで呼んでみた。
だが、何故か彼女の顔はひどく不満そうで、何かを訴えかけるような視線をこちらに向けてきていたが、朝人が困惑しているのを理解すると、誤魔化すかのようにカバンを膝に置いて中をごそごそし始めた。
掴みが成功したのか失敗したのか良く分からないが、こんな美少女が隣の席にいて、毎日その姿を拝めると思うと、それだけで今回の転校は悪くないものだと思える気がしていた。
できることなら少しでもお近づきになりたい。
だが自分のようなパッとしない男には難しいだろうな、と自嘲する。
朝人にとって女性と関わりを持った経験は、もう一人の瑠璃とだけである。
それも恋人といった関係性ではなく、ただ同じ趣味を持つ親友として、だ。
はっきり言って真逆といってもいいくらい違う彼女との関係構築に、その経験が活かせるのか不安に思いつつも、自分なりに頑張ってみようと決意した。
(そういえばアイツもまだこの町にいるのかな)
一方でもう一人の瑠璃ともできれば再会して、またオタクトークに花を咲かせたいなとも思う朝人だった。
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