トイレに行ったら帰り道にダンジョン配信されちゃった地味オタ女子高生ですが、明日のバレンタインまでに帰れますかね?
ただのネコ
第1話 ときめき
「明日はバレンタインだね。みんなが好きな人にチョコをあげられるように祈ってるよ♪ がんばって〜❤️」
画面の中で手でハートを作るアバターの女の子に、ありがとうと頭を下げる私、サラ。
スマホの向こうに伝わるわけがないんだけど、癖だ。
「ちょっと前向きになれた、気がする、という説もなくはなく……」
独り言まで弱気になってくる。いやいや、これじゃダメだ。
自分を奮い立たせるため、私はあえて動画のコメント欄に書き込む。
バンチョー:私も明日、がんばってチョコ渡します!
あえて衆目の中で宣言する事で自ら退路を断つ。これぞ背水の陣、なんちて。
どんどん増えていくコメントの中にも同じような宣言やそれを励ますコメントがある。
自分一人じゃないってことに勇気が湧いてくる、と信じよう。
さて、そろそろ寝ようかなと思ったところで、ふと気になるサジェストがあった。タイトルは『これぞ本物! 100%ガチのダンジョン配信します!』
歴史オタ、特に中国史系の私のサジェストにダンジョン配信なんか出てくるのは、最近ちょっと研究したから。
つまりこれは敵を知り、己を知れば百戦して危うからずという孫子の兵法に従ったのであって、断じてストーカーではありません、まる。
それはさておき、もう少し履修してみようと思って『これぞ本物!(以下略』を開いてみる。配信者は木頭緑園、知らない人だ。配信初心者なのかも。視聴者も少ないし、アバターも男性風デフォルトのままだし。話すのもつっかえつっかえ。
『つまり、その、本当に本物のダンジョンをみんなに体験してもらいたいなって思って……』
ばん⭐︎ぶー:本物のダンジョンってwwww
迷宮頭:なくはないだろ。元々ダンジョンは地下牢って意味だし。
監査偉人:西洋のカタコンベとか巡る感じ? それはそれでええんちゃう。
コメントもあまり好意的じゃない。煽るばっかにはなってないから辛うじて耐えられるけど。
クラスの女子、いわゆるカースト上位な人たちに集団でからかわれてからというもの、こういう煽りは苦手だ。
そこで助けてくれたのが
でも、私も似たタイプだから、その一言を言うのがすごく大変だったことはよくわかる。直接とがめる方がカッコいいかもしれないけど、結果的にそれを聞いた女子たちは"ダサいこと"をしなくなったのだから、私が助けられたのは間違いない。
それから、
私が色々考えてるうちにも、画面の中ではアバターがなんだか妙な手の動きをしながらモタモタと言葉を続けている。
『いや、そういう歴史的なのじゃなくて、と言ってもクラッシックなやつだけど、とにかく扉開けたらモンスターが襲ってきたりするような感じの』
アストン:うんうん、で、なんのゲーム?
ちょっとイジワルではあるけど、確かにそう聞きたくなる。ちょっと話のテンポが悪すぎるのだ。
『ゲームじゃねぇって! じゃないやその、ゲームなんだけどゲームじゃなくて』
ばん⭐︎ぶー:ゲームじゃない、ゲームじゃない、ほんとのことさー♪
迷宮頭:まぁ今のRPGはどれもダンジョンズ&ド……
もういいや。私は戻るボタンをタップする。
配信慣れしてない人だから仕方ないけど、面白くもないし本題にも中々入りそうにないから、お終い。
もう寝よう。その前にトイレ、トイレ。
用を足して手を洗ったあと、ついでに台所に立ち寄る。
冷蔵庫をそっと開けると、小さな白い箱。それを開けると、ちょっとつぶれた涙滴形のチョコレートが2つ並んで鎮座していた。
1つは青く、もう1つはオレンジ。まん丸の目と端の上がった口がなんとも言えないとぼけた表情を使っている。
ファンタジー物はまだよくわからないけど、このスライム型のチョコレートは我ながらよくできたと思う。今年のビッグタイトルでもあるし、チョイスとしては間違っていないはず。彼もオタなり、我もオタなり。
にやけながら寝室に戻ろうと後ろを振り向くと、そこはなんと、ダンジョンだった!
トイレに行ったら帰り道にダンジョン配信されちゃった地味オタ女子高生ですが、明日のバレンタインまでに帰れますかね? ただのネコ @zeroyancat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。トイレに行ったら帰り道にダンジョン配信されちゃった地味オタ女子高生ですが、明日のバレンタインまでに帰れますかね?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
永遠と一日だけ/ただのネコ
★38 エッセイ・ノンフィクション 連載中 407話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます