飛来するお嬢様
……………
「なっ……」
ヨシノリがその光景に息を呑んだ直後。彼の下へ押し寄せるテケテケや顔が腫れた女性の霊、鬼のような形相の女性、そして二体の『八尺様』達、怪異の軍団が彼を八つ裂きにせんとして襲い掛かる。
だが、天出仁は指先から数センチ大の魔力弾の数々を飛ばし、怪異の大群にぶつける。
『ぽんっ』
ヨシノリがその軽い音を聞くと同時に周囲の怪異たちは地面に圧し潰され残らず消滅した。
彼が呆気にとられる中、天出は遊女の霊によって動きを止められた怪異に手を突っ込み、先程やったように『言葉の紐』を引っ張り出して見せてくる。
「これ見て」
天出は手招きする。ヨシノリは困惑しつつもそちらに近づき、彼の持つ紐を見つめる。
「こいつは『魔術的結合』、魔術の本質だ」
ヨシノリが近くで見るとその『言葉の紐』からは恨み節や怒りに満ちた言葉が聞こえてくるような感じがした。
「わかるかい? これは思念の塊のようなモンだ。我々が頭の中で紡ぎ出した言葉が魔力によって文字や音声として紡ぎ出されたもの。そしてこれはプログラムコードのように機能する」
天出仁はその紐に人差し指で触れ呟く。
『踊れ、希え。お前の神に祈り捧げよ。さすれば光がお前に注ぐ』
彼の人差し指に魔力が溜まるとともに彼の口ずさんだ日本語以外の言語による呪文にも魔力が宿り、それぞれ彼が持つ『魔術的結合』へと流れ込む。
動作を終えた天出仁は結合の紐を離し、自身を上からのぞき込む巨大な遊女の霊に合図を送る。
彼女が抱える怪異の一体『八尺様』に繋がっていた結合が解かれ、動き出す。
だが、その八尺様は襲い掛かることはなく突如としてその場で激しい舞を踊り出した。それは日本的な舞踊とは全くかけ離れた激しいものである。
「ほおら、八尺様が踊るのって中々見れるもんじゃないぞ。いや、もうMMDとかではやってそうか。でもインド民俗舞踊風の踊りはシュールな組み合わせなんで先駆者がいないと信じたいね。意味わからんもん」
天出仁はそう言いながら、踊りを興味深く見ている。八尺様の舞踏は何語かわからない語りや歌唱などが含まれていたが音声の奇妙さや不明瞭さも相まってヨシノリには全くわからなかった。だが、彼にはその舞踏が続くに従い八尺様が光を帯びるようになっていることを感じた。そして、その光は徐々に筋道としてどこかを指し示すように見えてくる。
天出仁はその舞踊と光を見て、納得する。
――なるほど、そう言う事ねー。コレはちょいと大変かもな。
そう考えつつも彼は説明を続ける。
「まあ、このように霊魂や怨霊もかなり複雑ではあるが『魔術的結合』によって構成されているので『コードの書き換え』ができる。まあ、今回は低級怨霊で最大魔力が弱く、妙に単純な魔術的結合の構造だったから無理矢理書き換えれたが、普段は呪文や手印、儀式を組み合わせて発動する『魔術』を使って霊魂を支配したり、書き換えたりする。丁度さっき私が『コレ』を使ったようにね」
彼は胸元から『切り取られた指』を取り出して見せる。ヨシノリはそれを近くで見ることで、それがハッキリと『切り取られたまま生きている女性の指』であることが分かる。
だが、ヨシノリはその指についての疑問よりも先に『魔術』についての疑問が先であった。
「その『魔術』というヤツは魔力をただ操るのとじゃあ訳が違うのか?」
天出仁はその質問に
「いいねぇ。お察しの通り。何千倍も違うぜ。なんてったって『魔術』ってのは何千年も前から信仰される儀式や言葉に降り積もる他人とかの『意志』を勝手に使って切り取って繋げ、美味しいトコだけ持って行く狡い業だかね。だから私は魔術が大好きなんだ」
天出仁はそう言って悪戯っぽくわらう。
ヨシノリは彼のその表情の純粋さを受け取るとともにその性格の厄介さを察してやや呆れる。
だが、その次の瞬間。天出仁は突然背後を振り返る。
「ど、どうしたんだ」
ヨシノリはその動きに驚きつつ、彼の顔をうかがう。
ヨシノリの見た天出仁の表情は新しい玩具を買い与えられた子供のような笑みを示して、空のある一点を見つめている。
ヨシノリは不審に思いその目線の先を追うがあるのは住宅の塀だけで何も見られない。
「一番乗りは『彼女』か。丁度いい。『魔術』の詳しいお話が出来そうだ」
天出仁はそう語ると、持っていた『指』を再び額に当て、言葉を呟く。
『遊びはお終い、なんて裏切り、許されるはずはなし。愛しい貴方と共に眠ろう』
『ドチュッ』
彼の詠唱のあと、遊女の霊は怪異たちを強く抱きしめ圧し潰した。怪異たちは痛々しい潰れる音と呪詛の声をあげてミンチ状になってから消滅し、同時に遊女の霊も消え去った。
次に天出仁はすたすたと踊っている八尺様へと近づく。一人残った怪異は一定距離まで彼が近づくと、突然舞を止め、地面を蹴って彼に飛び掛かり、全体重をかけた渾身の拳を振り下ろす。
『ぱん』
天出仁が腕を振ってはたくと八尺様の上半身が軽い音と共に消し飛んだ。
天出はそのことを全く気にする素振りも、一瞥もなく、先程から見ている方角、その空のある一点を注視している。
ヨシノリはその様子を不審に思い再びその視線の先を確認すると、空の異変を目にする。
ほとんど欠けつつある日食の満月を背後に飛来してくる一つの影が現れたのだ。
「……? あッ!」
ヨシノリはその影に見覚えがあった。
それは、夕方であったドレスの拝み屋、
「ぶち飛ばしていきますわよォオオオオッ!!」
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