第7話

痛みに耐えて走り抜いた。運良く命をつなぎ止めたことが出来たが、これ以上先がない。


どうしようもない。


と、思った。


少女は、俺が放り投げてしまった時に頭をぶつけたのか、後頭部を押えながら声を出さずに悶えていた。


化け物たちが俺たちを囲う。


ちくしょう、このまま殺されるだけか...


そう諦めかけたとき、こちらに向かって光の玉が突然飛んできた。



「グギッ!?」


「ギョボゴッ!!?」


「ギギギリュヂリュチュ!!」


そのまま手のひらサイズの光の玉は化け物に突進していく。


光の玉が化け物の体を通り過ぎたと思ったら、そこにあった化け物の部位が丸ごと消失していた。



光の玉は何度も何度も化け物に突進していき、化け物が文字通り蜂の巣になったころ、またどこかへ飛んで行った。


しばらく地面に倒れ込みながらポカーンとしていると、夜闇から化け物の悲鳴がひびき始める。


そうして化け物の悲鳴が聞こえなくなると、空に向かって光の玉が登り始める。


その光の玉が急に夜空を覆い尽くすくらい大きくなる。そして、その大きくなった球体には人が映し出された。いや、人ではないかもしれない。黒い裂け目に吸い込まれる前に見た、天使のようなやつが映し出される。


そして突然光の玉から音声が流れ、それに合わせて映し出された天使のようなやつが動く。


「まず初めに、そこにいる人間たちに伝えたいことがある。守れなくて申し訳なかった。」


天使のようなやつは、酷く後悔したような表情で話を続ける。


「私は、そちらの世界で言う天使の役割を担う物と思ってくれ。なお、これはある力を使って保存した映像であり、映し出されている私とは会話は不可能だ。」


まじか、本当に天使だったか...


こりゃ神様に助けてくれた感謝しないとな。


「そちらの状況は大体予想できる。恐らくあまり良くは無い状況だろう。既に手遅れだった人間もいるかもしれない。しかし、生き残っている人間もいるはずだ。君たちが、この先少しでもそちらの世界で生き残れるよう、伝えなくてはいけないことがある。」


は?


ん?


おいちょっと待て。


今なんて言った?


そちらの世界?


待て待て待て。待ってくれ、そう来るのか?ここってそうなのか?


そんな俺の焦りなどお構いなく、記録の中の天使は説明を続けていく。


「まず初めに、そこは君たちが住んでいた世界とは別の世界である。恐らく、元の世界には戻れないと思ってくれ...。君たちはこれから、魔物が普通に蔓延り、命を繋いでいる日々に、感謝をするような日常をおくることになるだろう。」


「は、は?ちょちょちょちょい、待ってくれよ...。」


え?なにか?俺が彼女の元に戻ることは出来ないってことか?


フザケンナヨ...


理不尽な状況への怒りで狂いそうになる。


「そんな世界の中だが、人間は生きる術を与えられている。それは、鍛錬を積むことで、己の格をあげられるシステムだ。世界の法則として存在しているので、君たちにも例に漏れず世界の法則が適応されるだろう。自分が獲得した格については、この光の玉が消えたとき、‪”‬‪ステータス”‬と自分に対して唱えることで、確認できるようにしよう。あとは、君たち次第だ。私ができるのはここまでだが、幸運を、祈る。」


それだけ伝えると、光の玉は輝く粒子となってここら一帯に降り注ぐ。


その光の粒子は、俺や少女の体の中に入ってくる。特に痛みもなく...



というかむしろ


「傷が...」


傷が塞がっていくのである。痛くない。まるで電車に乗っていた時みたいな...。いやそれよりも、高校生の時みたいな体の軽さを感じる。


すげぇ。


そうして光の玉から生まれた粒子は俺たちの体に吸い込まれていくようにして消えていった。


再び周辺は暗闇に包まれる。しかし、先程のような殺気や殺意は森の中からは感じなくなり、ただ静かで暗い森になったようだ。



そうか...


「ステータス...。クソが...。」


ちくしょう。


あの光の粒子やこの傷が治ってから深く感じる。そしてトドメは、原理は分からないが視界に映る謎の画面である。こんなの俺らの世界にはなかった。ここは完全に....。


「なんなんだよ一体...。」


ホログラム機能のように浮かんだ画面が、あの天使の言う通りにすると現れたのだ。化け物の出現と言い、既に、俺らが感じていた、なんとなくの日々は、完膚なきまでに壊された。


帰ることが出来ない。それを強く突きつけられる。


体は回復したのに、今が1番キツイ。


「あー、どこまで頑張りゃ、家に帰れんだよ、これ。」


目の中にいやでも入ってくるステータスウィンドウを無視して、俺は目を瞑り、最も顔を見たい相手を思い浮かべる。


やっべー、これキツいって。


切り替えなきゃいけないのは分かってるけど、暫く時間かかりそうだな....


そんなことを思っていると、今までで感じたことの無いような深い睡魔が襲ってきた。地面は土で汚いのに、問答無用で意識をもっていかれた。


クソが...


クソゲーがっ


.......。


こうして眠りにつかされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る