第12話 捜索!ミランのバディ!!
テッポウウオリコルドとの戦いから3日。
あの日戦い終わった後に光った”星の輝き”が示した人物が誰なのか、薫も協力しながら捜索を続けていた。
しかしながら、未だその人を見つける事はできていなかった。
反応があったのは学校内で探すならやはり学校だと、ミランは探そうとするが喋る動物に見える妖精たちが薫以外の人間に見つかってしまえば、大騒ぎになってしまうためあまり大っぴらに探せていない。
しかも、探している間にもイブニングとの戦いが2回あり、2人の妖精を保護した。現在保護した妖精たちを入れた段ボールハウスもギュウギュウになってきていた。
「やっぱり…しっかり学校の中を探さないとダメかなぁ……でもラパンやミランが静かにしてくれるかなぁ…」
登校前の自分の部屋で、薫は呟く。
チラッとパンを食べているラパンたちを見る。ちゃんと1人3つ目安に持って来たのだが、取り合って喧嘩している。
はぁ……とため息もついた。
「ラパンもミランも、落ち着いて学校にいれる?探せるのは休み時間しかないんだけど…」
「ラパ?任せるラパ!当たり前ラパ!」
「ミランの事情だし、勿論迷惑はかけないミラ!…あっ、そのパンはミランのミラ!エポン、勝手に食べないでミラ!!」
再びパンの取り合いに戻っていく妖精たちを見て、薫は不安を感じざるを得なかった。
だが、無情にも登校時間はやって来る。
ラパンとミランは体を小さく丸めて、薫のバッグの中に入る。
エポンは散歩に行くらしい。薫はイブニングに見つからない様に、気を付けてねと注意を促し学校へ出かけて行った。
神尾南第三中学校での学校生活は薫にとって、とても良い時間になっている。
前の学校では満足に授業も受けられなかったが、この学校では授業は皆静かに聞き、発言する時はハキハキと答えている。
先日の新学期の振り返りテストで薫はなんとか平均点以上を取れて、クラスメイトからも頑張ったなぁと褒められ、彼女にはとても過ごしやすいクラスだと感じられていた。
クラスメイトの黄海柚希や明瀬葵とは席が前後にあるという事もあり、特によく話すようになった。
黄海はゆっくりとマイペースに話す少女だが、周囲の事をよく見ており、落とし物をしたら拾ってくれたり、授業でわからなかったを一緒に考えてくれたり、移動教室の時に声をかけてくれて一緒に移動してくれたりなど、凄い人だと薫は見ていた。
明瀬の方はというと、始業式の翌日に無くしていた手帳を渡してくれたり、困った事があったら手伝ってくれたりなどいい人だという気持ちなのには変わりはないが、何処か不思議そうな目で薫の事を見てくるため、少しの苦手意識が芽生えつつあった。
明瀬はよく見つめてくる。
薫が人と話しているのを遠くから見つめていたり、柱の陰から覗いていたりする。
これがあるから、ラパンたちを学校に連れてきて”星の輝き”の示す人を学校で探せなかったわけなのだが、今日は思い切って連れて来たのだ。見つからないようにしなくては…薫は心に固く誓った。
ラパンたちはお腹がいっぱいになったせいなのか、朝のホームルームから3時限目くらいまで薫のバッグの中で眠りこけていた。
薫はこのまま落ち着いていてくれればいいなぁと思いながら、1限ごとの休み時間には眠っている妖精をよそに、こっそり”星の輝き”を持ち出して調べていた。
時折光る時はあったが、かつて自分とラパンが出会った時程の光は点かなかった。
光るのは決まって、休み時間の始まる時に席を立つ時と、席に戻る時だ。
薄々薫は察してきていた。この学校ではなく、この教室にミランのバディになれる人物がいるのだと。
同時に、このクラスメイト達は優しくいい人たちばかりなので、戦いに巻き込むのが嫌だ…とも感じてしまう。
ミランの気持ちもわかるが、今この教室にいるのはドーン帝国との戦いと無関係の人々なのだから、気が引けてしまうのも仕方がない事だと言えるだろう。
そして、4限の授業…数学の時間に妖精たちは目を覚まし、鞄から少しだけ頭を出してキョロキョロと辺りを見回していた。
薫はそれに気づいた時、一瞬ギョッとするもバレない程度なら大丈夫か……と目の前の文章題に意識を戻した。
「ミラン…どうラパ?いるラパ?」
「むむ…”星の輝き”が…無いミラ…?」
周囲の鉛筆やシャープペンをノートに走らせる音に掻き消える程度の音量で、ヒソヒソと妖精たちは話す。
そして薫はその内容にまたギョッとした。
そう、休み時間中に持ち歩いていた”星の輝き”をミランの懐に返すのを忘れていたのだ。
巻き込んでしまう事を考えていたら、すっぽりと頭から抜け落ちていたようだった。
声をかけると、後ろの席の黄海に見つかってしまうかもしれない。
それに先生も教室にいて、しっかりと教室内の動きを見ている。
下手に妖精たちに構ってしまえば、すぐに声をかけられてしまうだろう。
(ど、どうしようかな……でも今”星の輝き”を使われて、強く光られても困っちゃうしなぁ……)
悩んだ薫は、とりあえず静かにしておいて欲しい事だけを伝えることにした。
ノートを音をたてないように慎重に破り、その切れ端に「”星の輝き”は私が持ってる。大きな声で話さないでね」とだけ書いて、バッグの中にバレないよう、そっと差し込んだ。
「ラパ…?あ、カオルが持ってる見たいラパ。良かったラパ」
「なんだ、そうだったミラ。良かったミラ」
互いに安堵したように話す二人。
できればヒソヒソでも話すのを止めて欲しい薫だったが、まあ話すなと言うのは酷いかと考え、今は我慢した。
(正直今は、問題を解く方が大変だしね)
薫はより問題に意識を向けて、ノートに計算式を書いていく。
この時、実は明瀬葵がチラッと彼女のバッグの方を見ていた事に薫は気づいていなかった。
明瀬は何か小さな声の様なものが聞こえる…と思っていたのだ。
4限が終わり昼休みになると、ようやく長く探せる時間が来たのだが……やはりというか、薫の想像していた通りというか、教室を出る人も多ければ、別のクラスから友人と昼ご飯を食べるために入ってくる人も多く、妖精どころか光る石すら出すタイミングが無かった。
(うーん…ミランのためにも探したいけど……他の場所行っちゃった人たちの中に探している人がいたら、光らないだろうけれど、それじゃ意味ないしな……)
悩みながらもバッグを机の上に置き、その中から妖精を掴まない様にお弁当箱を包んだ小袋を取り出す。
ラパンたちにも飛び出さない様に手で制止しつつ、この時間をどうするべきか……とお弁当箱の袋を持ったまま、考え込み始めてしまう。
どうしようか、どうしようかと少し考えていると、前の席の明瀬が薫に話しかけてきた。
「……ねぇ天土さん」
「え!?な、な、何かな?」
考え事…それも人に気軽に話せない事を考えている時に、急に話しかけられたためもの凄く動揺しながら返事をしてしまった。
「あぁ、いや、一緒にお弁当食べようって誘おうかなって」
「あーそれね!うん!良いよ!一緒に食べよう!」
お昼に誘われた事が嬉しくて反射的に了承してしまったが、完全に”星の輝き”の件の事を考えず、返答してしまった。
だが、一緒に食べると言ったからには一緒に食べたいしなぁとも思うため、考え事は止めないが明瀬とは一緒にお昼ご飯を食べる事にした。
「じゃあ、いい所があるから、付いて来て!」
「うん!」
明瀬に連れられて、お弁当箱の袋を持って教室を出る。その時自分の制服の内側に妖精たちをこっそりと仕込み連れていく事にした。
”星の輝き”はまだ薫の制服のポケットに入ったままだ。
「…あれ、光ってるミラ」
「ホントだラパ…」
薫には聞こえない声で、二人の妖精は制服の裏地から零れていた淡い光に気づいた。
だが、薫自身は気づいていなかった。
明瀬は薫を校舎の中庭のベンチに案内してくれた。
そこはあまり人が来ない場所だそうで、実際に二人がベンチに着いた時は中庭への出入り口近くにある自販機で飲み物を買っている男子生徒がいたくらいで、他に人はいなかった。
流石1年先にこの学校に通っているだけはある…と思いながらも、何故人通りが少ない所に案内してくれたんだろうか?と疑問に思った。
道中では、明瀬とは数学の問題難しかったねぇや、2限でやった理科の用語覚えるの難しくない?などの学校生活に関する話しかしていなかったので、なぜここでお昼を食べるのかは聞けていなかった。
「ここなら、天土さんと落ち着いてお話しできるかなって」
明瀬がベンチに自分のハンカチを敷き、その上に座りながら話した。
どうやら彼女は薫と話をしたかったようだ。
「そうなの?嬉しいな!私も、明瀬さんともっと話せたらなって思ってたんだ!何か委員長って忙しそうで普段は後ろの黄海さんと話す事の方が多かったから…」
「あの子は話しやすいわよね。あたしも委員会の仕事を手伝って貰ったりした時に、よく雑談したりするわ」
「そうなんだ……やっぱり友達多いのかな…」
「多いと思うわよ。実際柚希が学校で一人でいる時は彼女が意図的にそうしている時以外無いハズだし……」
(何だろう…意図的に一人になるって……黄海さんってこの学校の裏番長だったりする?)
二人で話したかったと言いながら、共通の知り合いの黄海柚希の話で盛り上がっていた。
だがそのおかげで薫の少しだけあった、明瀬への苦手意識からくる緊張は解けて、気楽に話せるようになる。
その後はお弁当を食べながら、お弁当の話と担任の豊川先生の話などをして大いに話が広がった。
「へー、豊川先生って去年までそんなに真面目な先生だったんだ」
「そうなの、ちょっとでも制服を着崩そうもんなら、それはもう怒られたわ。それこそ柚希も怒られてた気がする…」
「えぇ!黄海さんが…!それは…想像ができない…」
「ね、あの子が先生から怒られる場面なんて想像できないわよね。今だってそう思うわ」
二人の談笑が中庭に響く。
そうしている間にも、妖精たちは光り続けている石にどうやって直接触れられるのか考えていた。
だが妖精たち…だけでなく薫も”星の輝き”の事を忘れてしまう程の話題が、明瀬の口から出る。
「それで…その…」
「ん?どうしたの?」
急に歯切れが悪くなった明瀬を心配する薫。
「えっと…この前…ていうか始業式の日の放課後なんだけど…さ」
「う、うん……」
「天土さんが変な怪物と戦ってるの見ちゃったんだよね……」
「……え”っ…」
思わず変な事が出てしまった薫。
そしてあまりの驚きに飛び出しそうになる妖精たち。
「ねぇ…あれって…何なの?そして天土さん、貴方はいったい…何者なの…?」
好奇心なのか、それともまた別の興味なのか……。
薫を真っすぐに見つめるアメジストの様に深い紫の瞳が、爛爛と輝いていた。
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