第7話 穏やかな朝!~妖精たち視点~
イブニングとの邂逅から3日後の朝、天土家は緊張に包まれていた。
……妖精たちを除いて。
「前に助けた妖精のパンゴンはどんな能力を持ってたラパ?戦ってた時結局能力は使われなかったラパ」
「ペンギンの妖精だからミラねぇ…多分大きく振りかぶっていたパンチが能力の一種だったかもしれないミラ。パンゴンはリンゴ農家で、収穫を手伝った時に似たような動きを見たことがあったミラ」
「リンゴ!ラパン、リンゴ大好きラパ!」
二人の妖精たちは、薫のダンボールハウスに寝ている妖精たちについて話しており、ラパンの足元にはエポンが寝ている。
ちなみに前回エポンは薫とミランが家を出ていった後は、ずっと昼寝をしていたようで帰ってきたラパンに、少々呆れられていた。
そして、薫はというと、今日から転校先の学校が始まるのだ。
更に言うと薫の初登校というだけではなく、前の街で働いていた会社を辞めてから引っ越してきた、父である弘の新たな職場への初出勤日でもあるという、親子揃って初づくしで家全体が緊張しているというわけだ。
薫は自分の緊張しいな所は、きっと父に似たんだろうな……と今日初めて実感した。
薫は早めに起きて朝ご飯を食べ制服を着て、ドキドキしながら登校する予定の時間を自分の部屋で待っていた。
そんな心持ちの時に、妖精たちはマイペースに会話をしているという訳である。
「あ、そういえば、ラパン。私が学校行ってる間どうするか決めた?」
「そうだったラパ、カオルに伝え忘れてたラパ。リンゴの話はとりあえず置いておくラパ」
薫が学校に行っている間どうするか?というのは、三日前のイブニングとの戦いの終わりに彼が放った言葉、「何度もリコルドを送り込んでやる!」が学校など、薫の行動が縛られて妖精が必ずしも近くにいれないかもしれない時に、実際に襲われた場合アンジェストロに変身する事が出来ず危険だから、ラパンを学校へ連れていくべきかどうかという話だ。
だがしかし、ラパンを連れていくには周囲の人に見つからない様にしないといけないため、大変リスクが大きいのが懸念点であった。
それを三日前から話し合っていたのだが、ラパンが付いて行きたいけど薫に迷惑をかけたくない…でも薫を危ない目に合わせたくない…と迷ってしまっていたのだ。
結局答えが出せず、学校へ行く当日になったわけだが。迷った理由には他にも三日間イブニングの襲撃が無かったという事だ。
つまりアレは脅しで、実際にやるつもりはなかったのではないか?という疑問が薫たちの間に浮かんだのだ。
「付いて行くのは辞めたラパ。ミランから提案された理由に一番納得がいったラパ」
「ミランの提案?」
薫の疑問に、ミランは少々申し訳なさそうに答えた。
「ラパンがイブニングに攻撃を受けていた時、カオルの腕輪が危険と場所を知らせたと聞いたミラ。もしそれが人側でもバディの妖精に伝わってくるのか知りたいミラ。…これはカオルを囮にしている様な物だから少し胸が痛むミラけど…これから戦う中で、知っておいて間違いはないと思っているミラ!」
「なるほどね…うん!分かった。とりあえず危なそうだったら、ラパンがいるであろう家まで全速力で帰って来るよ!」
「大丈夫ラパ!ラパンにきっとカオルの声が聞こえてくるはずラパ!!なんてったってバディラパ!!」
イエーイとハイタッチをする薫とラパン。
それを少し羨ましそうに見つめるミランがいる。
「あっ、もう行かなきゃ!じゃ、じゃあ学校行くから、お留守番よろしくね!」
チラリと腕時計を見ると、時間は既に7時20分。家を出ようと思っていた時間だ。
薫は、急いで鞄を手に取って、部屋を出て行った。
「いってらっしゃーいラパー……うふ…さてさて……ラパ♪」
ラパンはその小さな手を振って、にこやかにバディの新たな門出を見送った。
が、そそくさと動き始めた。何処か踊っているかのように薫の机の上にのぼり、一番上の引き出しの上に立った。
その後ラパンは家全体が静かになり落ち着いた事を確認し、薫から今朝分けてもらったパンの一つ、あまりに美味しそうで引き出しの中に勝手に隠しておいた朝ご飯のパン。いちごジャムがたっぷり入ったジャムパンを堪能しようと薫の引き出しを開けた。
「ひゃ~楽しみラパ~…!」
そう言って引き出しの中を見ると、そこにはパンは無く。ただ薫の手帳や筆記用具があるだけだった。
「ら、ラパぁ!?ど、どこラパ?ラパンのとっておき!今日のお楽しみはどこラパ!?」
引き出しの中をガサゴソと探し回るもパンは無い。だがパンくずと妖精の毛があった。
毛の色は黄色。黄色の毛の妖精で、今動けるのは……。
「え、え、エポーン!ラパンのジャムパン勝手に食べたラパぁ!?」
「えぇ~……食べたけどエポぉ~」
「なぁにしてるラパぁ!今日の朝ご飯のとっておき…家の中が落ち着いてから食べるつもりだったのにぃラパぁ!」
「だってぇ~全然食べようとしないから、要らないと思ったんだもんエポぉ~」
エポンの何とものんびりした答えに、ラパンの怒りは爆発した。ラパンは引き出しからカーペットの上でゴロゴロしていたエポンに飛び掛かった。
踏み切った時に引き出しがガタンと大きな音をたて、エポンの上に着地した時にもドスンとこれまた大きな音をたてて着地した。
「やめてぇエポぉ~」
「やめて欲しいかったらラパンのジャムパン返すラパ!あれは絶対に美味しかったはずなんだラパぁ!」
「確かにぃ~甘酸っぱくて美味しかったぁエポぉ~」
「きぃぃいいい!!!」
もはや語尾のラパすら忘れる程怒り狂ったラパンは鯱の妖精であるエポンのヒレを引っ張ったり等、考えられる限りの仕返しを行った。
するとミランが、二人もの元に下りてきて、焦り気味に声をかけた。
「人が階段を上ってくる音がするミラ!早く隠れるミラ!」
慌てながらもエポンの首根っこを掴み、大急ぎで段ボールハウスの中に避難した。
全員が段ボールハウスに入った数秒後に、ガチャリと薫の部屋のドアが開いた。入って来たのは薫の母親、花子だ。
彼女は現在休職中で家にいるのだが、さっきからラパンたちが大騒ぎしていたので、気になって見に来てしまった。
花子は、誰かいるのかと不審そうな顔で部屋の中を見渡す。
「おかしいわねぇ…確かにドタバタ音がしてたんだけど……ネズミ…?いやだもう…誠伯父さんに聞こうっと」
部屋の中に誰もおらず、動物らしき姿も見えなかったため、聞き間違いだったと部屋を出て行った。
バタンと部屋の扉が閉じ、階段をパタパタと下りていく音が扉の向こうから響いてくる。
そしてもう聞こえなくなっただろうと、花子襲来から二分程の沈黙の後、ラパンはぐったりとして表情で、「も、もうジャムパンはいいラパ…はぁ…そういえばママさんいたラパ…」と小声で呟いた。
ちなみにパンを横取りしたエポンは、昼寝を始めていた。
そのマイペースさにラパンは、大きくため息をつく。
すると、ミランがラパンの肩をくちばしで、ちょんちょんと突いてきた。
一体どうしたんだと、ラパンが振り向くとミランは何故かモジモジとしている。ラパンは素直な気持ちで、「え、キモ…」と声に出していた。
辛辣すぎる。
「な、何を言うミラ…!み、ミランはただ、”星の輝き”を貸して欲しいと伝えたかっただけミラ」
小声で反論をするミラン。彼が借りたいと言った”星の輝き”とは、ラパンが自分と薫のアンジェストロとしての相性を確かめた石である。
アンジェストロの才能があるかつ、石を持っている者と相性が良い妖精もしくは人間に近づくと、強く輝くという妖精界に伝わる秘宝なのだ。そんなものを何故ラパンが持っていたかというと、妖精界から人間界へ逃げる際に女王から渡されたのである。
だが、ラパンも自分が薫と出会った後は、特に触っておらず、何ならバタバタとしていたため自分でもどこにあるか忘れていた。
「ええっと……”星の輝き”ラパよね。……どこにしまったラパ…?」
「う、噓ミラ……無くしたミラ…?!」
「そんなわけないラパ。ラパンの毛の内側にはそこまで大きくない物ならしまい込めるスペースがあるラパよ…えっと…」
自分の身体をゴソゴソとまさぐりながら、石を探すラパン。「おっ」と言って、お腹の辺りの毛の中から黄色い反射をしない石を取り出した。
これは正しく、”星の輝き”であった。
「あったあったラパ。はいこれ……それにしてもこれ使ってどうするつもりラパ?」
ラパンから石を受け取り、ミラン自身も身体の羽毛の中にしまい込んだ。
そしてラパンからの質問には、「何を言っているミラ」と、何をするかは自明だと話す。
「もう一人、新しいアンジェストロを…ミランのバディを探すミラ!」
――――勇敢な妖精ミランの大冒険が、今始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます