さらわれたモモモ
海の字
第1話 さらわれたモモモ
ふと夜空を見上げる。
きらめく星々の只中、動く光がひときわ目立つ。
黒を切り裂き、線を描く。たとえそれが飛行機の光跡だと分かっていたとしても。
「UFOだったらいいな〜」
期待している自分がいる。
もしあの光がUFOで、僕を宇宙の彼方へ連れ去ってくれたのなら、僕は何だって差し出せるのに。
「宇宙、行ってみたいな」
ひとりごちる。
べつに世界が嫌いなわけでも。
現状に不満があるわけでもない。
ちょっとした憧れに過ぎない。
平穏無事の毎日が、心底つまらなく思えてしまうのだ。
だから宇宙だなんて、突拍子のないことを言ってしまう。
薄給の仕事は激務なわりに単調で、やりがいを持てない。
熱中できる趣味もなく。気心の許せる友達や恋人もいない。
つまらない。つまらない。
日々が僕を殺しにくる。
将来になんの展望もなく。夢や希望もことさらにない道端の小石。
なのに自殺してやれるほど生に絶望もしていない。
だというのに行動を起こせるほど、僕は自分に期待していない。
つまりはどこにでもいる、普通の人なわけです。
あぁ、なんてちっぽけな生涯か。
誰でもいい。
退屈な日常ごと、僕の停滞を噛み殺してはくれないか。
宇宙へさらってはくれないか。
以上、妄想でした。
「えへへ」
なにせ僕は年がらボッチのコミュ障だ。
程度のしれた妄想を、ニマニマ笑いながらしがちです。
ダサいポエムを作詞して、悦に浸ってんだわ。
恥ずかしいね……。
「ん?」
再度空を注視する。
光景に微かな違和を覚えた。
「え? まっすぐ飛んでいない?」
光が人工物なら、直線をなぞるのが本来だ。
だというのに粒は不規則な軌道を見せ。
あまつさえ——。
「ええ!? 近づいて——」
次の瞬間、風圧、衝撃、喫驚。
『ブヲン』という、ライトサーベルだか、ビームセーバーだかを振るったような、奇妙な音を立てて。
頭上に、巨大な——。
「はぁぁぁぁ!?!?」
クルクルと回転する滑らかな《円盤》が出現した。
今どき漫画でも忌避するだろう、ステレオタイプなUFO像だ。
下部につく半球から
僕は照射され。
ここまでくれば、誰でも次の展開を予想できるだろう。
——アブダクション。
途端、重力に逆らい体がふわりと浮かび上がった。
「まじか」
仰天だ。
光は本当にUFOだった。
僕は宇宙人にさらわれてしまったのだ。
日常がくるりと裏返る。
こびんをくすぐる、物語の予感——。
えへへ。
期待させてくれるじゃん。
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