祭りのあと《甲》

カニカマもどき

本編

 木枯らしが吹いていた。


 つい最近まで暑い暑いと言っていたのに、いつの間にやら秋である。

 涼しいを通り越して、もう寒い。

 そしてこの季節は、何故か、なんとなく寂しい。


 夜のコンビニを独りで訪れているというこの状況も、寂しさを加速させている要因であろう。

 ここは何か、ホットなフードを買い食いして、腹と心を満たさなければなるまい。

 肉まんがいいかな。肉まんがいいな。


 レジ横の肉まんをチェックしていると、入り口のドアが開き、親子連れと思しき二人組が来店した。

「お祭り、終わっちゃったねえ」

 小学校3~4年生くらいの男児に、母親はそう語りかけていた。

 これまた、環をかけて寂しいワードである。

 一体この世に、祭りのあとほど寂しいものがあるだろうか。

 お祭り騒ぎが楽しければ楽しいほど、その後にやってくる寂しさはひとしおだ。

 男の子の心中をお察しする。


 などと勝手にお察ししたところで、ふと我に帰った。

 今夜、この辺りで祭りなどあっただろうか。

 夏祭りシーズンをとっくに過ぎた、この11月にである。

 まあ、私はお祭りマイスターではないので、私の知らない祭りがあっても全く不思議ではないのだが。

 秋は秋で、豊穣を祝う祭りとか、そういうものもあるのだろうとは思うが。

 一体彼らは、何の祭りに参加してきたのだろうか。


 あるいは、あの母親の言った祭りというのは、出店が並ぶような、いわゆる夏祭り的なやつではないのかもしれない。

 考えてみれば、あの男の子は、祭り帰りらしい服装も持ち物も、何も身に付けてはいないようであった。

 浴衣とか、お面とか、金魚とか、ヨーヨー釣りのヨーヨーとか、息を吹き込むとピューと三方向に伸びるやつとか、振ると伸びるやつとか、何か光るやつとか。

 あれか。

 祭りといえば、文化祭とか体育祭という線もある。

 ……いや、それにしては帰りの時間が遅すぎるし、男の子は体操服を着てもいなかったようだ。


 そのとき再度、母親の声が聞こえてきた。

「最初は怖がってたけどねえ」

 怖がる?

 怖い祭りか。

 そんな祭りがあるだろうか。

 ……ハロウィンだろうか。

 ハロウィンならば、お化けの仮装とか、ジャック・オー・ランタンとか、怖いといえば怖い。

 いやしかし、ハロウィンを祝う者が、この日本にそうそう居るものだろうか。

 居たら「欧米か!」と言ってしまいそうだ。

 だいたい、二人とも仮装などはしていなかったようであるし、10月31日はとっくに過ぎている。



 答えは突然もたらされた。

 母親が、次のような発言をしたのである。

「フレディも、ジェイソンもねえ」

 これは。

 ハロウィンの仮装の話、ではない。

 私には分かった。

 祭りとは、何を隠そう、『サーズデー洋画劇場』特別企画"闘魂祭4番勝負"のことであったのだ。

 あの親子は今夜、"闘魂祭"最終日の『フレディVSジェイソン』を観たのであろう。

 その余韻に浸りながら、ふらりとコンビニへやって来たのだ。


 あれだな。

 サーズデー洋画劇場なら来週も放送されるから、祭りが終わったからといって、特に寂しくはないな。


  *


 当時――西暦2005年の私は、そのようなことを思ったものである。

 しかし、サーズデー洋画劇場の放送が終了してしまった今となっては、こんなエピソードでも、思い出すとなんだか寂しい。


 窓の外では、木枯らしが吹いている。

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