Episode5.それぞれの思惑『その壱』 ロバート・ガウルンの企み

 流哉の出て行った扉をフォンが見つめていると、


「皆様方! あやつの蛮行を許してよろしいのですか!?」


 ロバートがこの場に居る全員を見つめ息巻いているが、ロバートの様子に関心を示さない。

 その反応に納得がいかないのか、ロバートは立ち上がり、一人の男の前に立つ。


「魔法使いだからといって勝手が過ぎる!

 終始口を閉ざしておりましたレザリウス殿。

まさか中立をうたったのを忘れ、リュウヤに肩入れするのではないでしょうね?

私は知っているのですよ、あなたとあの魔法使いが遠縁であることを」


 一人『我関せず』の態度をとっていたレザリウス・ステインであったが、ロバートの言葉に鋭い眼光を放ち、黙らせる。


「ロバート・ガウルン。私が口を挟んだら君は『干渉だ』と、彼がいた場で声を荒げただろう。

 良かったな、リュウヤが居るときに口を滑らさなくて。余計に罵られずにすんだのだから。

 私は誰にも肩入れする気はない。リュウヤにも、もちろんロバート、君にも。

 あと、君は遠縁と言っているが、それは五百年以上も前のことだ。

君ほどの所だと五百年という時間はまだ遠縁と言うのかも知れないが、我々の間では既に縁は切れている。

あの裏切り者、レヴェリー・ステインがこの世を去った時からな」


 憎々にくにくしげに、縁者と言われた遠い先祖の名前を零している。

 レザリウスの言葉にロバートは固まっている。

 その様子を見かねた葛城カツラギが、最も若い重鎮へ言葉を投げる。


「ロバート、君は少しこの連盟という場所を誤解している。

 ここは神秘を守る組織であって、魔法使いを縛る組織ではない。

 君が勘違いをしている『魔法№マジックナンバー』は、元々我らの都合に魔法使いが合わせてくれているから成立しているもので、その事を我等は忘れてはならない。

 この連盟という組織は魔法使いの協力あってのものだということを。

 それから、君は連盟の重鎮に魔法使いがいないと言ったが、我々の中の一人は魔法使いだ。

 それが誰かは今の君に教えるのは早いようだから教えはしないがね」


 レザリウスは再び口を硬く閉ざし、ロバートは葛城カツラギの言葉に気後れし、黙る。

 しばしの沈黙、フォンはティーカップを鳴らす音でその重い時間は終わらせる。


「それに、リュウヤは我々との契約を全て完遂させてから出て行ったのだ。彼を留める権利は我々にはない」


 フォンは静かに告げ、ロバート以外の四人はフォンの言葉に肯く。

 納得のいかないロバートは言葉に隠れた矛盾をつく。


「しかし、あなた方は契約を果たしてと言いましたが、私は父から契約を果たしたとは聞いていません!」


 勝ち誇った顔で告げるロバートに溜息をつきつつ葛城重実カツラギシゲザネが口を開く。


「ロバート、それは君達ガウルンの家がリュウヤに対して求める契約に見合う対価を用意できなかったからだよ」

「シゲザネの言うとおりだ。ガウルンの家が提示した契約の対価はあまりにも正当性に欠けるものだった。

 内容を変えればリュウヤも引き受けてくれたかもしれない。それなのに癇癪かんしゃくを起こし、あのようなバカな真似さえしなければ、お前の父親はまだその席に座れて居ただろうにね」


 マリアは冷めた瞳でロバートの座る席を見つめている。

 マリアの瞳にロバートは新たに問いかけることを躊躇ちゅうちょしている様子だ。


「我々が、ガウルン家が奴に依頼した内容はなんですか!」


 ロバートは自身に降りかかる重圧から逃げるようにフォンへ問いかける。

 問いかけにフォンは少し間をおき、口を開く。


「ガウルンの家がリュウヤに依頼したのは火竜の瞳だ。

 それに対して提示した対価は正当性なんてあったものじゃなかった」


 ロバートは正当性が欠けていると指摘されるたことに理解が出来ず、分からず、考え込んでいる。

 ガウルンの家のように古くから続く魔術師の家系において、対価など常に支払うものではないからだ。


「いいかいロバート、魔術師や魔法使い、錬金術師等の間で交される依頼は一種の契約だ。

 契約を結ぶには正当性が最も重要な条件と言われている。

 そして、リュウヤは契約を軽んじる者を決して認めない。

 それを理解することが出来たなら、もう一度彼に話しかけてみるといい。

 今度は教えてくれるだろう。我ら連盟が何故『魔法』の文字を冠しているのかを」


 フォンはロバートにそう告げると、皆へ解散するよう伝えた。


 三人が立ち去り、部屋にはロバートとフォンだけが残っている。

 フォンも共に残っているのはガウルンが呼び止めたからだ。


「フォン。二つ教えていただきたいことがあるのですが」

「何かな?」

「リュウヤが言っていた『一人の魔法使い』とは誰のことなのですか?

 シゲザネが言っていた魔法使いの重鎮とは誰なのですか?」


 フォンは少し考えた後、頷くとロバート・ガウルンを見据える。


「一つ目の質問には答えよう。それは、彼の祖母にして最強と謳われた魔法使い。神代月夜ツクヨ・カミシロのことだよ。

 彼女は強く、美しく、そして何よりも恐ろしかった。

 二つ目は、残念ながら教えることは出来ない。シゲザネの言うとおり、今の君には早すぎるだろうからね」

「そう、ですか。教えていただきありがとうございます」


 四人の言っていた事が理解できず、フォンが話した一人の魔法使いのことも解らず、納得などできるはずもない。

 そして、ロバートの感情に黒い影を落とす。

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