甘いあまーい毒入りお菓子の身体

青瓢箪

第1話 そもそもの始まり

 な、何故こんな事に……。


 あたしは自分の身体の状況が信じられないでいた。

 だって、あたしは肌着一枚の格好で。

 板一枚の上に転がされて。

 両手首はご丁寧に頭の上で板に打ち付けた鎖で繋がれている。


 魔女の尋問? 今からあの人が?


 混乱する頭であたしは昨夜のことを思い出した。



 * * *


 あたしは田舎村の菓子屋のひとり娘、フランチェスカこと、フラン。

 じっちゃんの代から村の焼き菓子を作ってきたおとうちゃんをおかあちゃんと手伝って暮らしてた。

 甘い匂いが自分の身体からするのは、始終砂糖と蜂蜜にまみれてるせいだからだって、あたしも周りのみんなも思ってた。

 でも、突然村に来た「異端審問官」と名乗る偉そうなジジイが。

 魅惑の香りを放つ身体の女子は魔女だって、あたしのことを教会に言いつけた。

 残念ながらあたしの髪が燃えるような赤毛だったってことも災いした。

 あれよあれよという間にあたしは魔女に仕立てられて。

 教会に連れてこられて、暗くて冷たい地下室に閉じ込められ。それからずっと水も食べ物もなし。


 ひどい。あたしが何したっていうのさ。


 魔女に仕立てられた女の末路は聞いてる。

 教会の奴らにゴーモンされてゴーカンされて挙句に火あぶりか水に沈められるんだ。ゴーモンに耐えかねて魔女だとうそぶけば火刑だし。魔女じゃないって潔白を証明するには、椅子に括り付けられたまま水に沈められて溺死するしかない。

 どっちにしたって、あたしの人生が終わったのは確定。

 恐怖と怒りと悔しさで蒼白になって真っ赤になって、卒倒しそうになって身体がおののいて訳がわからなくなっていたあたしの前に。

 あの悪魔が突然現れたんだ。


「はーい、貴女、今此の世の全てのものを憎んでいますねえ?」


 のんびりした声で登場したのはコウモリの翼が背中に生えた黒猫だった。

 本当に突然ボウン、と紫の煙とともに目の前に奴が現れて、あたしはびっくらこいた。


「自分を魔女だと決めつけた奴らに復讐したい。そうドス黒い感情でいっぱいですねえ? わかります、わかります」


 緑の目の愛らしい顔の黒猫だったけど、あたしはそいつが悪魔だってすぐ分かった。

 だって、すんごい臭いだったから。悪魔はものすごくクッサイって神父さんが言ってたもの。

 鼻がひん曲がりそうな臭いを放ちながら、その猫悪魔は続けてあたしに言った。


「なら、貴女のその願い叶えてみましょうよ。一息に、そら。あちきにお願いしてみやんせ」


 あたしは嫌だと言った。

 あたしは魔女じゃない。

 そんなこと願ったらそれこそ魔女になってしまう。

 そうしたら、猫悪魔は笑いだしたんだ。


 貴女には魔女の素質があるんですよ。言うなれば未開発の魔女だった。いずれ確実に魔女になったはずなんです。魔女に仕立てられた女たちはハズレばかりですが、貴女は大当たりでした。貴女は特別な才能のある女性です。あたしとさっさと契約して魔女におなりなさいな。魔女の力を得れば、こんなところからさっさと逃げ出せるはず。さあ。さあさあさあ。


 たたみかけるように猫悪魔はあたしに迫るものだからあたしは承諾してしまった。

 だって、教会にとっ捕まって魔女の疑いをかけられたらその時点で終わり。死ぬしかないんだもの。魔女であろうとなかろうと死ぬのなら、魔女になってしまえ、ってあたしはとうとうそう考えてしまったんだ。

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