冬の日のある思ひ出を

るありも

#1 破綻

 死ぬ。幼いながらにそう思った。

吹雪の中、自分は友達と森の中にいた。ただひたすらに人の気配を求めて。

俺は淳一に呼びかける。

「見えたぞ」  と。

ただひたすらに雪の上を走る。俺たちは。




 淳一に手を引かれ、俺は森の中に連れこまれる。

8月、夏真っ盛りだ。年齢は12だった。

俺と淳一。そして洋二の3人はずっと仲が良く、一緒に遊んでいた。

"すごく仲のいい友達"であった俺たちはある夢物語を描いていた。

それは、"なんらかの組織"を立ち上げること。

時たま語り、構想した。

名前はどうする? それぞれのニックネームを決めよう。

役割は?

子供らしい。でもとても楽しい時間だった。

時折、"訓練"なんて名目で近所の森で遊ぶ。

まぁもちろん誰もその物語が実現するなんて思っていない。

その頃は…。




 森は赤く、黄色く、変色した。10月下旬。

俺たちの関係は破綻しかけていた。

洋二が、例の物語に終止符を打とうとしたのだ。

「現実的じゃない。馬鹿らしいだろ。いつまでこんなことやるんだ?」

その一言で俺たちはおかしくなった。

二つに分裂。「馬鹿らしい」一人。「楽しい」二人。

まぁ前者が正しいのだろう。ただ認めたくなかった。

この楽しさが終わることを。

辛く、静かで、沈んだような秋を、俺たちは過ごした。

ただ、終わることを待つように。俺たちができることは何もなかった。




 時は恐ろしい速さで進んだ。もう冬だ。この時間、俺たちは何をしていたんだろう。

 白い景色が眩しい。12月の半ば。俺たちは集まり話した。

「よくよく考えると確かに現実的ではない。だけど楽しかったじゃないか。」

淳一の言葉に俺も頷く。ただ

「"確かに"だぁ?現実的じゃないこと話して楽しい?ただの現実逃避じゃないか」

なんて言って洋二は譲らない。もちろん淳一も不服そうな顔をしている。

淳一と俺は"楽しい"派。話が進む気配がない。

2分ほどの沈黙が続く。実際は30秒くらいだったんだろう。

洋二は悩んだ顔をして、して、して、挙げ句の果てにこう言った。

「というか本当は思っていなかったんだ。大人になりたかった。でも俺は実際子供だった。いまもそう。ごめん。俺も実は楽しかったんだ。見栄を張りたかった。」

「それは俺らとの関係を取り戻すための嘘じゃなくて?」

俺は聞いてしまった。なにも考えずに。

「本当に違うんだってば!今言ったよね?見栄を張りたかっただけだって。」

やってしまった。俺はあんなに仲の良かった友達を疑ってしまったのだ。

いや、過去形ではないのかもしれない。

今、俺は洋二に対してどう思っているのか。自分でもわからない。


 その後も20分ほど無意義な時間が続いた後、俺たちは淳一の

「もう、森行こうぜ」

という一言によって和解した。

それを和解というのか。そんなのわからなくても、

俺たちは"今この現状"から逃避したかったのではないか。


 冬の間、俺たちはある 遊び、いや訓練を生み出した。

"スノーダイブ"だ。名前の通り、雪にダイブするだけ。

と言ってもただのダイブではない。高いのだ。

2,3mほどの崖から下に積もった雪に飛び降りる。

それが程よいスリルも相まって楽しすぎる。淳一が言うには、

「瞬発力, 着地のスキル, いろいろあって素晴らしいだろ」

…..らしい。

まぁあのことがあって以来あまり"組織"の話はしなくなったが、

みんな心のどこかに意識していたのだ。

 毎週のように集まり、俺たちは飛んでいた。

実際おそれもなくなり、怪我も少なくなり、

淳一が言っていたことは正しかったのかもしれない。



2月 15日。今日は飛ばなかった。時間があるので森を抜けてみたかったからだ。

これには3人ともノリノリ。

天気も良く、まさに探索日和だった。

3人で話していると、森はすぐに抜けられた。

「」

言葉を失った。そこには眩しいほどのまっさらな雪原が広がっていたのだ。

ところどころに動物たちの足跡がある。

でも人工物の気配は何も感じない。そこで俺らは冬の美しさを知った。

「どこまで行けるか試してみようぜ。」

洋二がつぶやくと、同意の声も何もなく、俺たちは歩き始めた。

しばらく歩いていると、天候が怪しくなってきた。

もうだいぶ進んでいたため、すぐに帰り始めた。

しかし時すでに遅し。暴風雪だ。

視界がほぼない。俺たちはありきたりの心もとないロープで体を結ぶ。

幸い歩いてきた道はまっすぐだったので急いで戻る。

ただし天候は悪くなる一方。ようやく森にたどり着いたが森に入ると道がわからない。

空と共に、心にまで暗雲がかかっていた。

希望という太陽は隠れ切っていたのだ。

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冬の日のある思ひ出を るありも @rualimo_fp

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