第24話:ちょっとアレな冒険者たち

 マナールがジグラトと対面した少し後くらい。

 工房内に、二人の冒険者の姿があった。剣と槍で武装した男女。テッドの父親を探していた、二人組である。

 イロナに止められることがなかった彼らは、順調にジグラトの工房内に侵入していた。

 二人にとっても意外なことだった。マナールの話を聞き、テッドの父親を最後に見た場所まで来たら、そこに巨大な建物があったのだから。

 

 これは、マナールが工房に侵入してジグラトと戦った影響で数々の魔術が解除されたことによるものだが、彼らは知るよしもない。


「……よし、大丈夫だ。くそ、これって魔術師の工房だよな。おっかねぇ」

「まさか本当に引き当てるとはね。トニーがいるなら早く見つけないと」


 トニーというのはテッドの父の名前である。ミュカレーでも腕利きの魔剣士で面倒見の良い男だ。二人とも、駆け出しから一人前になった最近まで世話になっている。

 まだ未熟な二人にとって魔術師の工房内を探索するのは非常に危険な行為だが、見つけてしまった以上、中を行くしか無い。


「なあ、ここって魔術師の造った魔獣がいるかもしれないんだよな。出会ったらどうする?」

「大丈夫だよ。そんな番犬がいるなら、とっくに私達に襲いかかってる」


 おっかなびっくり、工房内を歩んでいく。槍や剣で足元を叩いたり、ドアを見たら聞き耳を立てたりと、一見慎重に見えるが雑な動作でゆっくりと進む。


 ヴェオース大樹境を探索する冒険者の多くは、魔術師の遺跡探索にそれほど慣れていない。ある程度の実力にならない限り、魔術師の遺跡に足を踏み入れることはまずないからだ。

 大樹境内の仕事で実力をつけ、冒険者組合と魔術師組合から指定された訓練を受けた上、魔術師と組めた場合のみ、遺跡探索可能な冒険者になれる。


 この二人はようやく一人前。魔術師の工房内における動きなど知るよしもない。

 それでも前に進めるのは、先に入ったマナールのおかげである。


 自分たちは運がいい。そう感じつつ、探索すること一時間ほど……。


 二人はついに、大きな部屋に出た。


「なんだここ? 訓練所か?」

「似てるね。組合にあるやつに」


 突如現れた広い空間は、ちょっとした運動ができるくらいの広さがあった。魔術で作られた広場は小さな観客席や、休憩のためらしい空間まで存在する。


「なあ、魔獣を造った魔術師って、ここで実験してたんじゃないか?」

「だ、だよね……。でも大丈夫。ここにはなにも……」


 怯えながらそう話した直後だった。正面の石の壁が上に上がり、二足歩行する魔獣が一体現れたのは。


「ヒッ! やべぇ! 逃げるぞ!」

「だめ! 道が塞がってる!」

「なんだって! おい! 魔術師! 俺達だ! 攻撃はやめてくれ!」

「お願い! わかってるんでしょ!」


 何もない天井に向かって叫びだす二人組。

 現れたキメラは、ゆっくりと二人に向かって歩みを進める。


「や、やめろ……来るな」

「く……来ないで! どういうことよ! 話が違うでしょ!」


 震える手で武器を構える二人組。

 いよいよキメラが一足の距離に接近する。

 眼の前の化け物には絶対に勝てない。なまじ、半端に腕があるため、その絶望がわかってしまう二人が、涙目で武器を構えたその時。

 魔獣が現れた入り口が再び上がった。


「やあ、二人共。大分驚いてくれたみたいだね」


 現れたのは、紺色のローブをまとった魔術師だ。


「マナール先生! こいつを倒してくれ! あんたならできるだろう!」

「お願い! まだ死にたくない!」

「ご心配なく。そのキメラはもう止まっているよ」

「へ?」


 武器を構え取り乱す冒険者の前で、キメラは停止していた。


「…………」


 無言でその場に腰を落とし、放心する二人組。

 それを見て、マナールは静かかつ穏やかな口調で告げる。


「話はすんでるんだ。全て聞いているよ」


 そういうマナールの隣には、粗末な服に身を包んだ男が一人立っていた。

 髭が伸び、薄汚れているも、強い意志を感じさせる瞳の輝きだけは失っていない。野生を感じさせる筋肉質な男性。

 

 テッドの父、トニーだ。


「君達、ここの魔術師と組んで、こちらのトニー氏を陥れたんだね」


 マナールのその言葉を聞いて、冒険者二人組は、自分たちが本当の意味で終わってしまったことを確信した。

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