終章 『ダラーズ』閉幕
『ダラーズ』の話は、最初はネタに過ぎなかった。
情報が一人歩きを始めたところで、帝人達は調子に乗ってダラーズのサイトを作った。完全パスワード制で、『メンバーの書き込み』をサイト内に大量に用意した。その後はサイトのアドレスを
そんな調子で偽の組織を作り──HP上に『チームを名乗るのは自由。ルールも条件も無い』という
彼らはそんな状況に喜びながらも、次第にそれが薄ら寒い違和感へと変わっていく。
確かに、最初の頃はネタだったのだ。適当に盛り上がったら後は放置、軽い
虚構から始まった
一体誰の
自分達の管理を超えて、話が大きく広がっていく。今更ネタでしたと言うわけにもいかず、
だが、帝人だけはその『ネタ』を必死に演じ続けた。
この組織に確かに力がついてしまった以上──誰かが管理せねば危ないと考えたのだ。心の奥底では、自分が力を手に入れたという錯覚による高揚も確かにあったが、彼はそれをひた隠しながら──気が付けば、彼はダラーズのリーダーという存在になってしまっていた。
誰も姿を見た事が無い、ダラーズのトップ。まさかそれが当時中学生である事など誰も知らぬままに、組織は加速をしながら大きくなっていった。
そして今夜──虚構から生まれた筈の組織が、完全なる実体を具現化させたのだ。
「しかし、
祭りの後の状況を見て、
群集はまるで幻でもみたような感覚に陥って、それぞれの集団ごとに、それぞれの帰るべき道へと帰っていった。まるで今の集まりが夢であったかのように、恐ろしい程の引き
後に残されたのは、路上に停まる数台の車と──いつもと変わらない夜と
「今まで……本当にあれだけの人がいたのか?」
その内の一台であるバンから降りて来た
「お、ドタチン久しぶり。あー、この東京23区はね、人の数の割に驚くほど狭い。人口密度世界一は
二人がそんな会話をしていると、通りの入口にセルティが戻ってきた。
「それと
「見ただろう?
「見失ったみたいだな」
セルティの戦う姿を見た直後にも関わらず、臨也はいつもの調子で彼女に声をかける。
「まあ、ふっきれたみたいだな」
首の断面をさらしたままのセルティに、臨也が楽しそうに声をかけた。
──くそ、やはりこいつ、知ってたな。私に顔が無いという事を。
セルティの首を見ても、臨也は
その視線がウザったかったので、セルティは近くに転がっていた自分のヘルメットを拾い上げた。
「いやー、
臨也がからかうように言いながら、一つ気になったように付け加えた。
「そういや、結局誰も殺さなかったな。あの
その言葉を黙殺し、セルティは黙々とヘルメットの
今日使った鎌は、普段とは逆で
──これからずっとこの街で生きるつもりなのに、いきなり街の評判は落としたくない。
そんな貧乏
♂♀
別れ際に、臨也が
「正直、驚いているよ」
臨也は楽しそうに言うが、その顔には汗の一滴も垂れてはいなかった。そもそも、彼がこの集会の間に
そんな帝人の疑念を
「ネット上で、相当の人数が『ダラーズ』を名乗っているという事は
そこまで言った後で、
「ただ──
そう言われて気が付いた。今味わっているこの興奮が──同じ事を繰り返したとして──あるいは自分が完全に『ダラーズ』のトップに立ったとしたら、自分は一体どうなってしまうんだろうかと。今の生活に満足できない自分が、果たして新しい生活に永遠を求める事はできるのだろうか?
帝人の心を見
「そっち側にいる人間にとっては、それが日常なんだ。一度踏み込めば、多分3日でそれが『日常』になる。君みたいなタイプの人間は、それに耐えられないだろう?」
臨也の言葉は痛い程に理解できた。だが、どうしてこの男は──こんな事を言い出すのだろう。何かたくらんでいるような気がしてならないのだが、それが
「本当に日常から脱却したければ──常に進化を続けるしかないんだよ。目指すものが上だろうが下だろうがね」
そして最後に、帝人の肩をポンと
「日常を楽しみたまえ。ただ、君に敬意を表して──
それだけ言うと、あとは何も言わずにセルティの方に歩み去って行ってしまった。
帝人は何か
ところが──臨也は突然立ち止まってこちらを振り返ると、思い出したように付け加えた。
「
「!?」
どうしてその名前を──自分が一部のチャットでこっそりと使っているハンドルネームを────そういえば、先刻彼は
そして、彼がたった今言った事を思い出す。『ダラーズ』の創始者である自分を常に監視下に置き──ネット上でその姿を追い続けたのだと。
そして
──まさか──まさか──まさか!?
♂♀
その後、60階通りにも
『ダラーズ』とは関係のない通行人や、カラオケや水商売の客引き達も先刻の騒ぎを見ていた
だが──警官が通り過ぎた後になっても、
まだ何か忘れている気がする──帝人がそう考えていると、ヘルメットをかぶり直したセルティが、自らの『首』が座っているバンの方に向かっていった。
セルティはもう自分の首に対する未練は
ドスリ。
バンの扉を開けたところで、背中に鈍い感覚が走る。続いて、少し上の部分にもその感触が。
──あれ? 確か昨日、
背中の方に視線を向けると、そこにはブレザー姿の長身な青年が立っていた。
その手には大型のメスが握られており、恐らくは研究所から拝借してきたものだろう。
「やっぱり死なないか。この程度じゃ」
刃の先に血が付かない事を確かめながら、
──おいおい。
セルティは背中を刺された事も瞬時に忘れ、突然の来訪者にどう対応すれば良いのか戸惑った。話を思い出す限り、今のが自分の首を追いかける矢霧とかいう
そして矢霧誠二はバンの中に足を踏み入れ────あまりにも堂々と、その場からヒロインを連れ去った。
「え……?」
遠目からその様子に気付いた
バンの中にブレザー姿の青年が入っていったかと思うと、
女の手を引いて、誠二はとても
バンの中にいた
誠二がバンの中で取った行動は実にシンプルであり──あまりにも、堂々としていた。
彼の姿を見て、狩沢は帝人の仲間かと思った。同じ高校の制服を着ていたし、その目には何の後ろめたさも気後れも無かったからだ。
そして──その純粋な瞳で首の女に手を差し伸べたのだった。
「迎えに来たよ。さあ、行こう」
これだけならば、狩沢やセルティも彼を止めただろうが──その次の瞬間、彼女達にとって全く予想外の展開が起きた。
「……はい」
なんと首の女が即座に言葉を返し、何の
首の女の行動がさも当然であるかのように、誠二は力強く
まるでそうなる事が生まれる前からの運命だとでも言わんばかりに、まるでこの夜の通りが二人のバージンロードだとでも言わんばかりに────
「え? あれ?」
その不自然な光景に、
やがて、首の女をつれて道を歩く誠二が、帝人の姿を見つけて自ら近づいて行った。
「やあ」
余りにも普通な、そしてそれ故に不気味な挨拶に対し、帝人は無言のままだった。
その様子を
「姉さんにも君にも感謝しなきゃ。姉さんがいなければ彼女の居場所は
淡々とした口調でそう告げると、堂々と帝人の横をすり抜けようとする。それを
そして帝人は、誠二を
「答えて欲しいんだけどさ……さっき君のお姉さんにカマかけてみたんだけど……」
「僕が誰かを殺したって事かい? ああ、そんな事もあったかもしれないな」
その言葉に、帝人は目の前の男にうすら寒い何かを感じた。
誠二は普通の表情をしたままで、目の前に立ちふさがる帝人に対してメスを構える。
「とにかく、どいてよ。僕があの女ストーカーを殺した事がばれたなら、
誠二の目は狂気に満ちているわけでも、
「だからって……」
「君に何が解る?
彼の目はどこまでも普通で、信念に満ちた目ですらある。これが、彼の選んだ日常という
「なにをやってるんだ?」
その状況に気付いたのだろう。
けわしい顔をした男達の前で、誠二は静かに首を振る。
「やだなぁ────愛の力は誰にも止められないんだよ?」
その状況でも、彼は常に普通の顔を装っていた。高く掲げたメスをクルリと回し、
「それに引き換えさ、お前はなんだよ? さっきも今も数にだけ頼って……自分じゃなんの努力もしない、まるで
「数を集める努力を知らない
帝人の言葉に苦笑すると、
それと同時に、後方から飛んできた黒い影が誠二の体を打ち据える。
「──ッ!」
それは背後から
「
場の雰囲気に全くそぐわない言葉を
誠二はナイフを強く握り締めたまま、そのまま横に大きくなぎ払う。前方にいる者を
「きかない」
「おい、こいつ何か薬キメてんのか?」
門田が微妙な表情になって誠二の方を見るが、彼の表情は強い
「きかないッ! 痛みはあるが──忘れる! 俺と、セルティの、彼女の生活に痛みは必要ない! だから、今この場で受ける痛みに痛みを感じない!」
「無茶苦茶だ!」
帝人の叫びを聞きながら、セルティは鎌を振り上げ、相手の腕の
──なんなのだこいつは、はやく止めないと危ない。……これが、こいつの言う愛の形なのか? こいつの価値観は一体なんだ? やはり──人間と私は価値観が違うのか? 私には、私には私には私には────
その思いを振り払うように、セルティは小さく
そして、腕を軽く
『やめてぇぇぇええええッ!』
その絶叫に、周囲の人間の動きが止まる。
ただ二人、
彼女が振り下ろそうとした
そして、誰もが不思議そうな顔でその女を見る。
セルティが
「
彼女の声は徐々に震え出し、涙を流しながら誠二の身体に向かって崩れ落ちた。
────まさか────まさかまさかまさか────
そして、デュラハンは気付く──
──違う──これは、私の首ではない────
それと全く同時に、
──この娘はデュラハンの首なんかじゃない──! この子の名前は──
「
「そうなんでしょう? あなたは、
「
その言葉を口にしたのは、矢霧誠二だった。彼女の声と名前を聞いた瞬間、彼の脳裏にまざまざと記憶が
「なあ、噓だろ?」
「……ごめんなさいッ! ごめんなさい、私ッ……ごめんなさい……」
「私……まだ死んでなかったんです! 一命は取り留めたんですけどッ……誠二さんのお姉さんが……誠二さんに好きになって欲しいかって……ッ! 私、誠二さんに殺されかけたけど、それでも誠二さんが好きで……! そしたら、そしたら、お医者さんが来てッ……少しだけ整形と化粧をすれば……あの首と……誠二さんの愛してる首とそっくりになるって!」
そこまで聞いて、セルティの身体がピクリと震えた。
「でも……そしたら、お医者さんは『君の名前はセルティだ。それが首の名前だからね』って……だから私は
恐らく誠二の姉は、生きている人間を『首』と混同させて、弟を『首』からすこしでも引き離したかったのだろう。だが、それが弟を真人間に戻すためなのか、それとも『首』に対する
それを聞いて、セルティの中で様々なピースが組み合わされ──やがて一つの絵図を形作る。
セルティの名を知っている人間は限られる。その中で、セルティがデュラハンである事を知る人間と言えば──。
──
それを元に考えれば──かつてセルティは、医療メーカーや大学などの研究施設に首の手がかりを求めていた時──新羅は自ら、
『
と言って調査を買って出た。結局疑わしい事は無かったと伝えられたのだが──恐らく彼は知っていたのだろう。『首』が最初から矢霧製薬にあるのだという事を。そして、それを隠す為に自ら調査を買って出たのだろう──
セルティは
それはこの夜の中で最も激しい叫びであり────まるで、
「
放心している誠二にトドメを刺すべく、悪人の影が忍び寄る。
「ま、君は本物と
「誠二さん!」
それを見て
少し考えてから二人の方に近づくと、
「ええと……君は
フォローするように告げると、帝人は
「僕は、
それに続く言葉は、まるで独り言のように。
「うん……結局は同じぐらい迷惑なんだろうけれど。ストーカーの行動原理は、結局は所有欲だと思うよ。でも──彼女は、
そして最後に余計な事を言って、帝人は夜の街を後にした。
「張間さんは──矢霧君と、凄く似てるんだと思う」
♂♀
鍵を回すと同時に、セルティは
「あ、お帰り」
居間でパソコンに向かう新羅が、いつも通りの笑顔を向けてくる。
セルティは『影』の集合体であるブーツを解除しようともせず、そのままズカズカと白衣の青年へと向かって歩み寄る。そして、
パソコンに文字を打つ気分ではないが、ただ
「どういうつもりだ、って言いたいんだろう?」
全く冷静な表情のままで、新羅がセルティの言葉を代弁する。
「君は次にこう言いたいんだ。『お前は知っていたんだな! 私の首があの研究所にある事を、20年前から! お前の
「……!!」
「ああ、誤解が無いように
その言葉を最後まで聞いて、セルティは
震えていた
──自分がもしも言葉を話せたならば──恐らくは、一字一句
完全に固まったセルティに、
「──『お前は私の考えている事が
セルティの返事を聞くことも無く、それが答えだという真実の元に、新羅は言葉を
「うん、解るよ。君の事が20年も好きだったんだ。これぐらいの事は解る」
「……」
「僕に言わせれば、人間は相手の感情を読み取る事に関して、表情にあまりにも頼りすぎてる。足音や筋肉の緊張の
──何を今更。ならば、
彼女がそう考えたのを見
「君が好きだから──だからこそ首のありかを黙ってた」
「……?」
「首を手に入れたら、君がどこかに行ってしまう。俺にはそれが耐えられなかったんだ」
つまりは自分の
「君の幸せの為なら
一見物
セルティはそこで幾分気を
セルティは
『私は、たとえ首が戻ってもお前の元から離れたりは──』
「たとえそれが君の意思だとしても──首の意思だとは限らない」
真剣な
「俺は考えたんだ。なぜこの広い世の中で、君だけが人間の前に姿を現しているのか? 君と
まるで自分で創作した悲劇を語るように、本当に悲しそうな顔をして言葉を閉める。
「ならば、首を手に入れて
セルティは、脇にあった
そして──何も動くことの無かった部屋の中に、キーボードを打つ音が響き始めた。
『お前は、私の言う事を信じるか?』
「俺は君を信じている。逆に言うと、君しか信じていない」
その答えを確認すると、セルティは少しずつ文字による告白を始めた。
『私も、怖いんだ』
『私は、死ぬのが怖いんだ』
『私は、自分が
それ以上は文字にしようとせず、
『お前は信じるか? 眼球も脳味噌も無いこの私が夢を見るんだ。その悪夢を見て恐怖に震える私を信じるか? それが怖いから、自分で自分の死を管理したいと思うから、そんな
モニター上に表れたデュラハンの独白を、
彼女の指が止まるのを待って、彼は即座に答えを出した。
「言っただろ────俺は、君しか信じない」
それだけ告げると、新羅は楽しそうに笑う。泣きそうな顔で、笑う。
「まさしく
『
デュラハンはゆっくりと立ち上がると、片手だけを使って、パソコンに短い文章を打ち込んでいく。
『なあ、新羅』
「何?」
『一発
「いいよ」
口から血を流し、新羅は
「じゃあ、こっちも一回殴らせてよ」
本来ならセルティに殴られるような言われは無いのだが──セルティは、あえてその言葉に
空のヘルメットが前に傾くのを確認し──
新羅は、力の無い
カコンという音と共に、セルティのヘルメットが床に転がった。
──?
新羅の取った意味の無い行動に、セルティは不思議そうに沈黙していたが──ヒリヒリする拳をさすりながら、
「ほらな、セルティは素顔が一番
何も無い空間を見つめながら、新羅は続けて言葉を
「今のパンチは、
その言葉を聞くと、セルティは新羅の胸の中に肩をうずめ──腹に鋭いパンチを入れた。
「ぐぼぇぁ」
そして、そのまま静かに新羅へと
左手でキーボードに『お前は、本当にバカだ』と打ち込みながら。
言葉が要らなくなった時の中で、新羅は静かにセルティの身体を
小刻みに震える彼女の身体を感じて──新羅は、彼女が泣いている事に気が付いた。
♂♀
正確に言えばそれは
そのどちらの姿も、彼女にとっては決して見たくないものだった。
『首』の主導権は常に自分の手に握っていなければならない。弟の目を自分に向けさせる、それが唯一の希望だったから。
だが──伯父を頼ろうとして携帯から電話を入れたところ──そこで彼女は信じられない事を耳にした。
緊急に開かれた重役会議によって、『ネブラ』への吸収合併がたった今決定したというのだ。今晩の騒ぎだけではなく、ここ数日の研究所関連のゴタゴタを、本社は、あるいは『ネブラ』はつぶさに観察していたのであろう。どちらから話を持ちかけたのかは知らないが、これ以上ボロの出る前に合併を進めるという形で合意したのだ。
当然ながら──『ネブラ』の要求は、デュラハンの首だった。
二度と会社に戻らぬ事を決意し、
暴力団関係は、この首を利用する理由が無いので期待できない。
絶望の
「直接会うのは初めてだよね? 不法入国者とかのリストは役に立った?」
そして今──首を持ち逃げした彼女は、
「しかしアンタも
臨也はそう呟きながら、オセロのコマを盤上にうつ。意識と言葉は正面に座る波江に向けられているものの、目は盤上から一瞬たりとも動かしていない。
「上は黙ってないんじゃないの? ネブラと言ったら外資系の大企業、いや、超企業じゃない。アメリカで
オセロのコマをもう一枚置いて、二枚の黒に
「はい、ナリっと」
そのまま歩をひっくり返し、何事も無かったかのように
「で、さあ。やばいんじゃないの? マフィアとか来ちゃうんじゃないの? もしくは
王将を一つ前に進め、対面の王将に王手をかける。
「王将同士の一騎打ちってルール、できないもんかね」
そこで初めて、臨也は波江の方に目を向ける。波江は
臨也は将棋版の横に置かれた特殊なケースを開き、その中にある首をまじまじと見つめる。
そして、波江に向かって奇妙な論を語り始める。
「きっと君の
「だけどね、確信したよ。俺も確信した。あの世はある。そういう事にしておこう」
「……?」
美しい女性の顔をした、セルティの首。その髪に指を
「デュラハンっていうのは──基本的に女性しかいないと言われてるんだ。なんでだか
「……いいえ。部下には神話を研究してたのもいたけど、私は
「合理主義者なんだねえ。まあ、それは置いておいて……世界中の神話には共通点や
──だからどうだというのだ。
波江には、臨也が何を言いたいのかさっぱり解らなかった。ただ、臨也の表情に張り付いた笑顔が、だんだん仮面の
「一説によると──そのヴァルキリー達が地上を
そこからは完全に彼の推論だったが、語り口はまるでそれが真実であるかの如く。
「この首が生きているのに目を覚まさないのは、ここが戦場じゃあないからさ。できる事ならば、俺もその戦士に選ばれたいな。だけど、これを
そして、何かに期待する少年のような声を上げて──彼の笑顔は、完全に他者と断絶された。
「死の後にヴァルハラというものが本当にあるのならば────俺はどうすればいい? 戦か、戦を起こすしか無いんだよなあ。だが、俺が中東とかにいって活躍できるとも思えん。ならば────俺にしかできない、俺にしか活躍できない戦を起こすまでだ。そうだろ?」
そして、臨也はオセロと
「だが──この
表情の無い笑顔で、誰よりも
「そんな……全部
「信じる者は救われるよ。それに、これは保険だって言ってるじゃないか。だから──俺はできるだけ『あの世』の保険をかけておく。そこが地獄だとしても──苦しみしかないとしても──そこに『俺』が存在するなら構わない。だがまあ、できる事なら天国の方がいいよなあ」
まるで食事にでも誘うような雰囲気で、臨也は波江に声をかける。
「ねえ、波江さん。みんなで天国に行こうよ」
臨也の仮面のような笑顔を見て、波江は気が付いた。自分は──最も渡してはならない人間に、この『天の使い』を手渡してしまったのだと。
そんな波江に、臨也は静かに笑いかける。
「この首は『ダラーズ』の一員として俺が預かる。灯台下暗し──まさかセルティも、自分の首が自分の所属する組織にあるなんて思わないだろうね」
ダラーズ? セルティが所属?
自分の知らない情報が、波江の意思を
「アンタもダラーズに入るといい。俺達のボスは『来るものは引きずり込む』って方針でね。もっとも──途中から人を集め始めたのは俺だけど」
その声は彼女を
「地上に
♂♀
南
これは、
「
白み始めた空の下、一組の男女が公園のベンチで
「だけど、お前を見ている限り俺は『彼女』への愛を、決意を忘れる事は無い。だから、俺はお前の愛を受け入れる。
そして──美香は静かに笑う。彼女のその笑顔には、静かな決意が込められていた。
──自分が本当に誠二に愛される為には──自分があの『首』となるしかない。だから──自分は
互いの恋が
どこまでもまっすぐなのに、とてつもなく
二人の姿は
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