10章 『ダラーズ』開幕
第六研の会議室の中──隅の席に座って、
「大丈夫よ、私達に任せて。絶対に彼女を取り戻してみせるから……だから、安心しなさい」
──もしかしたら、異様に早く迎えに来た姉が何か裏で手を回してくれたのかもしれない。
誠二はそう考えたが、それならそれで構わないとも思う。
──姉が、自分に
──そのためならば、自分へ向けられる愛の
そう考える
部下の目も
そして、その様子に戸惑いながらも、部下の一人が波江の事を呼び出した。
「
それだけ告げて、姉は静かに会議室を後にした。
「で、
「はい、誠二さんの言っていた
会議室から少し離れた廊下で、波江は部下の報告に耳を傾ける。誠二に対しても「さん」という敬称をつけて呼んでいる事が、この会社における
会議室の中とはうって変わって、氷の
「それなら、とっとと『下』の連中を使って回収しなさい」
「昼間からですと、あの辺りは周囲の目が──」
「関係ないわ」
ピシャリと言い放ち、それ以上の反論を許さない。
──夕方まで待ったら、弟が自分でその竜ヶ峰って奴の後をつけるとか言い出すじゃないの。
状況的な危険よりも、弟の安全を優先させる波江。無論、弟のいない場所ではそんな様子は
「いい、『下』の連中全員に、すぐに連絡を回して。誰でも構わないし──生死は問わないわ。場合によっては、そのまま処理してしまいなさい」
その瞳には微塵の情も見当たらず、部下の背中に大量の汗を
♂♀
特に問題になるような事は起こらず、記念すべき1日が過ぎていく。
胸騒ぎと言えば、家にいる記憶
今朝になっても彼女の記憶は戻る事なく、病院も
「あの……私の事は大丈夫です! ここで
そう言った彼女の様子は昨日よりもだいぶ落ち着いており、記憶を失っているとは思えないほどにしっかりとした様子を見せていた。
とりあえずは安心し、こうして学校に来てみたのは良いが、これからどうするべきなのか、それがさっぱり
これからどうするべきか、そんな事ばかり考えいるうちに、あっという間に放課後になってしまった。
クラス委員同士の顔合わせも何事も無く終わり、その後の張間美香の様子を聞こうと、杏里と共に外に向かう事にした。
「あれから連絡あった?」
これといった話題も無かったが、何も話さないと気まずいので、とりあえず美香について聞いてみる事にした。
「それが──昨日の昼から全然連絡が無いんです……」
「そうなんだ……」
どうやら
こんな時に正臣がいれば助かるのだが──聞いた話によると、風紀委員の顔合わせはまだ終わりそうにないらしい。なんでも、正臣と自分のクラスの風紀委員が激しい論争を行っているらしく、周囲の者も止めるに止められない状態らしい。
取り合えず今日はまっすぐ帰ろうと思い、校門のところで杏里と別れようと思っていたのだが────西洋風の
「あ! タカシ! こいつだよ、こいつ!」
どうやら昨日
「お前、
「知り合いって程では」
──ああいう事は、彼氏じゃなくて
横にいる
「で、どこよ、
単刀直入。男は
弱肉強食。
悪逆無道。そのまま臨也は、男の背中で何度も何度も飛び
電光
「ありがとう」
放心する
「君は──俺が女の子を
物
臨也は早くもその女の顔を忘れながら、
「や、昨日は
ニコニコと笑いながら帝人を見るが、帝人には
そんな帝人の様子を知ってか知らずか、臨也は実に不思議そうに首を傾げた。
「ところでさ、なんで黒バイがいるの?」
──それはこっちの
眼前にいるのは確かに昨日『首』を連れて逃げた学生だ。彼が
臨也が表の人間、しかも
この少年は、実は大物政治家の
しかし、この少年がどんな人物であれ、今のセルティには関係無い。
重要なのは、彼が『首』の居場所を知っているかどうかなのだ。
自分以上に
「じゃ、じゃあ
「え……あ、は、はい」
しどろもどろな別れの挨拶を交わし、帝人はさっさとその場を離れる事にした。だが、彼の後ろには案の定『影』と『悪人』がついてくる。校門からしばらく離れたところで恐る恐る振り返り、取り合えず話が通じそうな臨也に声をかける。
「あ、あの……何がなんだか解りませんが……とりあえず、私の家に行きませ……」
そこまで言って、帝人はハッと息を
「いや……その、ええと、黒バイクの人にお尋ねしたいんですけれど……」
それを聞くと、セルティは『影』で作ったライダースーツのポケットから一台のPDAを取り出し、その画面上に『なんだ?』と打ち込んだ。
どうやら意思の
──なんだか、泣きたくなってきた。
♂♀
駅から数分の距離にあるその建築物は、
その古びたアパートが見えてきたところで、帝人が立ち止まって声をあげる。
「ええと、僕の部屋はここの一階にありますけど……いい加減に説明して下さい。
セルティは『首』や自分の正体については触れず、ただ、『
だが──そんな
そして、意を決してPDAに文字を打ち込み始める。
『君は、私の事をどれだけ知っている?』
小さな液晶画面を見せられて、帝人は少し考えると、恐る恐る言葉を
「……あの……
その後は一瞬
「──貴方には、首が無いと」
その答えを聞いて、セルティは続けて文字を打つ。
『君は、それを信じているのか?』
見せてから、
──え?
「あの……見せてくれませんか、そのヘルメットの中を────」
核心を付いた頼みに、セルティは相手の顔をマジマジと見る。
──ああ、昨日と同じだ。
不安と期待、そして絶望と喜びが入り混じったような微妙な表情。そんな奇妙な目をしながら、目の前の学生は自分に素顔を
『絶対に悲鳴をあげたりしないか?』
自分がマヌケな事を伝えていると思いながらも、セルティは確認せずにはいられなかった。この20年間、セルティは
だが、目の前にいる帝人という男は、自分からその恐怖に踏み込もうとしている。セルティの
そう考えるセルティの前で、帝人は予想通りの反応を見せる。
青年の首が力強く
──ああ、無い、確かに無い。何かのトリックの
帝人の目は一瞬だけ恐怖にとらわれ、だが、それを悲鳴に変える事無く心中に
「ありがとう……ございます」
何に対する感謝なのか、よく
その
感謝される事が、それ以前に『首無し』である事を受け入れられる事自体が珍しい事である彼女にとっては、この状況は実に不可解なものであり──だが、決して気持ちの悪いものでは無かった。
その後、セルティが一通りの事情を話すと──帝人は快く『首の女』に会う事を承諾した。
帝人が彼女が記憶を失っている事を伝えると、セルティはしばらく押し黙っていたが──どうしても会いたいので、なんとか誤解を解いてくれないかと頼み込む。
その時点で
「解りました……とにかく、ここで待っていて下さい。事情を説明するより先にセルティさんの姿を見られて、私があの人に裏切り者だと思われるのは
『
帝人とセルティのやりとりを眺めながら、臨也がからかうように
「
そのまま、アパートの側の通りで帝人を待つ事にする二人。その最中に、臨也がセルティに声をかける。
「運び屋、
ニヤニヤしながら言う臨也。その表情を見る限りでは、恐らく元から知っていたのだろう。今の言葉は、これまで教えてくれなかったセルティに対する
それが解っているので、セルティはあえて無視する事にした。もしかしたら、
そもそも、まともな人間ならば黒バイクが『人外』であるなどとは想像すまい。だが、
「それにしても、ちょっと遅くないかい?」
確かに、もう5分以上
「ちょっと見て来ようか」
静か過ぎるアパートを前に、セルティは何か
アパートの横に停まっている一台の清掃業者のバンが、その不安を余計に
──このボロアパートに清掃業者? まさか……
そして、その予感は的中していた。
「だからよ……兄さんが
「女物の髪の毛が君の
どうやら『首の女』を探しに来たようだが、それは帝人の方が聞きたい事だった。彼ら以外の人間に
「し、知りません! か、
「おい、顔を見られてるからよ、この場で始末してやってもいいんだぞ」
お決まりの
己の
「誰か来ました!」
その声に、男達は我先にと外へ飛び出し、少し後に自動車のエンジン音が掛かり始めた。
「た……たたた、助かった……」
帝人は恐怖の涙は耐え忍べたが、続いて
ドアの前に
「あの連中は多分、
走り去る車を見送りながら、情報屋が無料でネタを口走る。
「
「そ。最近落ち目で、外資系に吸収される寸前の
その名前を確認して、
目の奥に涙が
いなくなった首の女。デュラハン。矢霧。製薬会社。
帝人の頭の中に様々な『断片』が思い浮かんでは消えていく。そして、ある推論に到達する。
静かになった状態の部屋で、帝人はすぐにパソコンを立ち上げた。
システムの起動を待つ間、学校内で切っていた携帯の電源を入れて、即座にメールをチェックする。
何をするつもりなのかとセルティが不思議そうに見守っているその横で──
「正直、疑い半分だったんだが──」
臨也がそこまで言ったところで、帝人は立ち上がったばかりのパソコンから即座にネットに接続、物
そのページをしばらく見て、帝人は二人の方を振り向いた。
セルティは思わず身震いする。それは、先刻まで周囲の環境に振り回されっぱなしだった人間の目つきではなかった。今の帝人はまるで
とてもさっきまでの気弱な学生と同一人物だと思えず、セルティは混乱する。
「お願いです。少しの間だけ──私に協力してください」
「
新しい
「──大当たりだ」
臨也が何を言っているのか
何があったのかは知らないが、臨也が今まで見せた事の無いぐらい興奮しているのが解る。
だが──この場で最も興奮していたのは、
ただでさえ幼さの残るその顔に、玩具を与えられた子供のような目を光らせている。先刻まで恐怖に涙を浮かべていたようには見えず、強い意志で歓喜に
──ここ数日に──自分が
退屈な日常。見慣れた風景。何者にもなれない自分。
その
そして、その全てから解き放たれる自分を、彼は今確かに感じている。
それと同時に、彼の生活を、時には命を
今の浮かれきった帝人にとって、その『敵』を排除する事に、何の
そして──彼は言葉を
♂♀
「いなかった……ってどういう事なの?」
「それが……『下』の連中が行った時には、なんかもう鍵をコジ開けられた跡があったみたいで……中に女はいなかったそうです」
「つまり、誰かが先にその部屋に忍び込んだって事?」
「ボロアパートですから、
部下の報告を聞いて、
学生が連れ出したのだとすれば、いちいち鍵をコジ開ける理由が
「その部屋の学生は?」
「いや……戻って来た時に話を聞いて、場合によっては同行してもらおうとしたらしいのですが……どうも連れがいたようで」
「その連れごと来てもらえば良かったでしょう。使えないわね……」
波江が
「もしもし」
『あの、矢霧
若い声だ。中学生の男子ぐらいの声に感じられる。
「そうですが、
『私は、
「────!」
波江の心臓が静かに
様々な疑念が
『あの──、実は私達、ある女性を
一瞬の間を置いて、電話が信じられないような声を弾きだした。
その声には緊張感の
『──取引、しませんか?』
♂♀
同日 午後11時
夜も
街灯の柱に寄りかかりながら、バーテン服の青年が黒人の巨漢に話しかけた。
「人生って何だ? 人は何の為に生きている?
「ソウダヨ!」
「いや、自分の人生について考えるのは自由だし否定はしねえ。だけどよ、その答えを他人に求めてどうするってんだよ。んで、俺は瞳孔が開きかけてるそいつに『これが
「ソウダヨ!」
「……サイモンさんよぉ、俺の言ってる事よくわかってないだろ」
「ソウダヨ!」
そんな光景すらも、何事も無かったかのように街の風景に
池袋の街は夜を迎え、昼とは全く違った空気を
駅に近い通りではカラオケの客引きが引っ切り無しに動きまわり、学生や社会人の新歓コンパの集団に必死に喰らい付いている。そうした集団も大方二次会の予定が決まったようで、次第にその姿を通りから消していった。
通りには居酒屋などからの帰りの客が行き交い、あるいは夜通し遊び歩く若者の
だが──
大通りと交錯する東急ハンズの前で、そうした雑踏から浮いている存在が二つあった。
一人はブレザーを着た学生。もう一人は、女性用のビジネススーツを身に
スーツの女──
「
静かな声。それでいて、果てしない冷たさを感じる。
対する帝人は、
対照的に街から浮いている二人の間に、静かな緊張が
「それで──取引って何かしら?」
ここまで自分をひっぱりだしてきたのだ。相手も
「簡単です。ええとですね、電話でも言いましたけれど……私は貴方の探している人を、ちょっと預かっています」
その言葉を聞いても、波江は
恐らくこの60階通りを取引場所に指定してきたのも、人ごみの中なら自分達が
だが──当然ながら、こちらも自分一人で来たわけではない。人ごみに紛れさせるように、サラリーマン等の格好をした会社の連中──研究室の警備を任せる為に呼んだ、本社のセキュリティ専門の集団だ。会社に立場をしっかりと握られており、忠誠心の強いタイプの人間を十人程、スタンロッドを装備させて配置している。また、念の為にこの通りから横に入っていった路地や──あるいはこの60階通りに直接停車している車の中に、その
たかが少年一人、などとは考えていない。こんな取引を持ちかけるという事は、当然ながら仲間がいるのだろう。だからこそ、この万全の人数を集めたのだ。
だが
「それで、いくら欲しいのかしら?」
単純にそう切り出した。この手の
彼女はそう考えたのだが──
「いえ、お金はどうでもいいんです」
「? じゃあ、何を取引しようっていうのかしら?」
「
──何を言っているのかしら?
本気で理解ができていないような彼女に、
「
「────────ッッッ!」
春の暖かい空気が、瞬時にして真冬のそれへと変化する。
「今……なんて言ったのかしら……?」
「貴方の弟が、
淡々と
「あの、そうすれば、会社の方の被害は最低限に抑えられると思います」
「嗚呼……あなた、そうなんだ……金なんてどうでもいいのね。ただ──うちの研究所自体を
「あの『首』さんを解放するには……というか、直接部屋にまで乗り込まれてしまった私が身の安全を確保するには、もうどうやらそれしか無さそうですので。ええと、アナタが勇退すれば、恐らく会社自体は残りますよ」
淡々と状況を説明するが、その途中から、
「あぁ……あぁ……残念ねぇ……私にとって、会社なんてどうでもいいの」
笑っているのか泣いているのか、全く判断のつかない眼が帝人の瞳を
それを何とか受け止めながら、相手の次の
これがさっきまで冷静だった女かというぐらいに変化した彼女は──逆に冷静になってこう言った。
「
単純な答えだった。それを聞いて、帝人はどこかすっきりしたように目を細める。
──ああ、そうか、この人はそういう人なのか。道理で、会社の利益を越えた事を平気でやってくると思った。
女が手に力を
──そんな理由か──
帝人は相手の弟に対する異常な
──人が一人死んで、その死体を使って身勝手に『人格』を一つ作り上げて──その上僕まで殺されそうになってる。ああ、最後のが一番腹立たしい理由だ。ああ、僕は自分が一番
少年の中に、徐々に怒りが込み上げてくる。彼は
そして、
「……
「……今更何を言ってるの? その年になって、こんな世界に足を突っ込んで、今更そんなありふれた事しか言えないのなら、その不快な口を閉じなさい!」
帝人に向かって一歩間合いを詰めると、波江は
だが、引かない。
「ああ、僕は
相手の視線を
「ドラマの見すぎよ。それも少し古い、お約束の予定調和ばかりなものばかり! ここを、この街を
更に一歩、互いに歩を進めあう。
「ああ、
ヤケになって相手を挑発していたわけではなく──相手の注意を、ぎりぎりまで自分ひとりに引き付けておきたかったのだ。
そろそろ
──これを押せば、もう戻れない。踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまう事になる。
それだけはなんとしても避けたかったが────だが、今の相手の様子を見ては仕方がない。
──理屈が通じない相手に挑む力も知恵も自分には無い。だけど、努力する時間も与えられず、今、この場でどうしてもこの危機を乗り越えなければならない。
帝人は
──だから僕は────数に頼る!
「下らない問答は終わりね」
「仲間がいても関係無いわ、自白剤なんていくらでも用意できるもの──」
手を挙げきったところで、彼女の顔にはとても
その様子を見ていた、波江の部下の数人は──
「おい、行くぞ。あのガキを
「ちょッ……待ってください、もし、あのガキが
「今更そんな事言ってる場合か。あの主任も何だかんだ言って周りが見えてねえんだよ。警察結構。とことんまでやりあって、後はあの女に全部ケツモチしてもらおうじゃねえか」
「あ……?」
そこである事に気付き、
「今……もう夜の11時過ぎてるよな?」
「ええ」
それを確認して、彼はどこか薄ら寒いものを感じた。
「……なんか、人がよ…………増えてねえか?」
人ごみから最初の男が飛び出し、
ピピピ ピピピ
それは、携帯のメールが着信する音だった。
思わず自分の物を想像するが、飛び出した男は携帯を所持していない事に気が付いた。それは、自分の周囲から聞こえるだけの、単なる他人の呼び出し音だったのだが────
その呼び出し音のした方に目を向けると──そこには、身長2メートルを超える黒人が立っていた。──サイモン。この通りで有名な『巨人』だ。男は思わず目を
その時──電子音に続いて、着メロが流れ始める。
音のした方に振り向くと──そこにはサングラスをかけたバーテンダーの姿がある。──
さらに別の方を振り向くと、更に別の種類の人間が複数おり、皆一様に携帯のメールを眺め始めている。
「……!?」
そこで、『彼ら』は気が付いた。数曲の着メロが流れている間に
ピピピピ ピピピピ
更に着信音。これは四方十箇所ぐらいから同時に聞こえて来た。
「!?」
そこでようやく、男達も
そして──
気付いた瞬間には
音 音 音。 メロディが 音が 電子音から 和音が 音が ハーモニーを
音音音音音音音メロディメロディメロディ電子電子電子音和音和音音音ハーモニーハーモニー
音音音メロ音ディ音メロ音音音メロ音電子音音電音音子和和音和ハーモ和音ニー音和ハーモニ
メロ音メ音ディ音電子メロ和和ハーモ電子ニー音和電子音メロディ音音ニー音電子和ーモ音和
音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音 音音音音音音 音音音音音音音音音 音音音音音音音音音音音音 音音音音 音音音 音音音音音 音音音音音音 音音音音 音音音 音音音音音 音音 音音音 音音音音 音音音 音音音音 音音音 音音 音音音音音音音音音音 音音音音音音音音音音音音音音 音音音
音 音音 音 音 音音音 音 音音音 音音音 音 音音 音音音 音音 音音
そして、着信音が徐々に収まる中──彼らは、視線の中にいた。
視線。ただそれだけが彼らの周囲に浮き彫りになった。
周囲に群がった数十、
「何……これ……? 何なのよ……何なのよこいつらぁぁあッ!」
自分の予測どころか、常識を
だが、視線は留まる事を知らず、世界を敵に回したような錯覚が彼女達を襲った。
そして、波江達は気が付いていなかった。自分と交渉していた
ダラーズの創始者は、誰にも気付かれぬまま、自らもまた群集の一人と化したのだ。
♂♀
「あれ! メッズラシーわね!
路上に停められたバンの中で、
「いや、静雄さんは気付いてないだけでしょ。いやいやいや、しかし
60階通りに停められた車の内一台は、
彼女は──門田達が
チンピラ達を
チンピラに無理矢理解読させたところ──それには、ある住所が書かれており、『首に傷のある
門田が『扉』の意味をチンピラ達に問いただすと────それは、ドア──DOA──デッドオアアライブ、生死問わずという単純な意味なのだそうだ。
それを聞いた門田達は、先にそのアパートに回りこんでドアをピッキングし、彼女を先に救い出したのだ。
後ろでカタカタと震えている少女が何者なのかは知らないが──門田はこの事を、いつものように『ダラーズ』のHPにある『報告書』のフォームに連絡した。『ダラーズ』同士でのイザコザを防ぐ為のものらしいが、実際に『ダラーズ』同士が街で
あったとしても、せいぜい狩沢達が不法入国者のカズターノと仲良くなったぐらいで、サイモンや
不法入国者がネットなどと思ったが──彼は実社会で『口コミ』で勧誘を受けたらしい。どうやら『ダラーズ』というのはネットに留まらず、様々な
──そして、それが今日のこの『初集会』の結果に表れているのだ。
「いやいやいや、何人いるんだこれ。あー、これギャングとかの集会っていうより、絶対大手掲示板のオフ会のノリだよな。来てる連中」
「ダラーズ自体カラーギャングってノリじゃないしね。なんせチームカラーが『保護色』だし」
「ところで、リーダーってどの人なの?」
「さあ……」
「おい……これがダラーズかよ……すげえな、なんだよこれ……」
自分は、これほど不可解なものに所属していたのか? そう思いながらも、この光景には圧倒させられた。これは──普通のカラーギャング等の集会で集まる人数を
♂♀
それは──一見して、何かの集会には見えなかった。それぞれの人間がそれぞれの服装で、何かの
それは、あるいはサラリーマンであり──あるいは制服姿の女子高生であり────あるいはこれと言った特徴の無い大学生であり──あるいは外国人であり────あるいは典型的なカラーギャングといった者達であり────あるいは主婦であり────あるいは──あるいは──あるいは──
そういった集団が集まっているだけだ。
ただ一通、次のようなメールが届く瞬間までは。
『今、携帯のメールを見ていない
♂♀
すっかりその姿を浮き彫りにされ、総崩れになった
その様子を、一人のデュラハンは高所より見下ろしていた。
誰が敵で、誰が味方なのかを見極める為に。
『彼ら』の視線に
この作戦に協力する代わりに──夕方の内に、『首』と思しき
首の周囲を
「──セルティ──」
──ふっきれた。
その言葉を確認したセルティは、深い絶望と共に、何かの
完全に人ごみから分離した波江の兵隊を見て──セルティは己の存在を
それまで完全に波江達を向いていたダラーズの群集が、
それに満足したように両手を広げると──
ビルの屋上から、その壁面を垂直に落下した。
地面から悲鳴が上がるその寸前──彼女を
その『影』はやがてバイクを覆い──タイヤと壁の間に影が
60階通りに集まったダラーズ達と
そのまま地上に飛び
まるで映画のようなその光景に、ある者は息を
そして──人の眼前であるにも
恐怖に戦いた波江の部下の一人が後ろから迫り、セルティの首筋に特殊
その首からヘルメットが弾け飛び、何も無い空間が
どよめきと悲鳴が上がり、後ろの方の人間は何が起こったのか見えておらず、にわかに集団がパニックに包まれかけた。
だが──今のセルティには
ああ、私には首が無い。私は
だが、どうした。
それがどうしたというのだ。
私はここにいる。確かにここに存在する。目が無いというのならば我が
私はここだ。ここにいる、ここにいるのだ。
私は
私は今ここに生まれた。私の存在をこの街の中に刻み付ける為に────
そして、彼らは聞いた。その光景が、彼らの脳内で激しい音に変わるのだ。
聞こえる
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