第三章 魔道書は静かに微笑む "Forget_me_not." 3
布団やパジャマについたお粥はなかなか取れない事を身をもって教えられた上条と、ちょい涙目でドロドロのご飯粒と格闘しているインデックスはノックの音でドアの方を見た。
「こもえ、かな?」
「……つーかテメェ一言ぐらいゴメンなさい言いやがれ」
ちなみにお粥は冷めていて
あれー、うちの前で何やってるんですー? という声がドアの向こうから聞こえてきた。今までどっか出かけていた
じゃあ
「上条ちゃーん、何だか知らないけどお客さんみたいですー」
がちゃん、とドアが開く。
ビクン、と上条の肩が震えた。
小萌先生の後ろに、見慣れた魔術師が二人、立っていた。
二人はインデックスが普通に座っているのを見て、ほんの少し
上条は不審そうに
(……じゃあ、今さら何しに来たんだ?)
ゾッ、と。二人の魔術師の炎と刀の威力を思い出して、上条の筋肉が自然と
しかし、一方で上条はステイルや
だけど、それは
彼ら魔術師にしてみれば、上条に協力する必要もない。ぶっちゃけた話が、上条の首をこの場で切断してインデックスを連れ帰った所で何の問題もないのだ。
自然と体が強張る上条の顔を、ステイルは楽しそうに見ながら、
「ふうん。その体じゃ、簡単に逃げ出す事もできないみたいだね」
と言われて、上条は初めて『敵』の意図を知った。
インデックスは、一人なら魔術師から逃げ切れるのだ。これまでだって教会を相手にたった一人で一年近く逃げ回っていたのだから。たとえ無理矢理捕まえて、どこかへ閉じ込めたって簡単に抜け出されてしまうかもしれないのだ、彼女一人なら。
ところが、上条という『
だから魔術師は上条を殺さなかった。そして、インデックスの側へと帰した。彼女が上条の事を
インデックスを、より安全でより確実に『保護』するためだけに、彼らは悪に徹したのだ。
「帰って、魔術師」
そして、インデックスはそんな上条のために魔術師の前に立ち
立ち上がり、両手を広げ、まるで罪を背負う十字架のように。
まさしく魔術師の意図した通りに。
上条という足枷をはめられたインデックスは、逃げる事を
「……ッ」
ビクン、と。ステイルと
自分達が仕組んだ予想通りの展開であるはずなのに、それでも耐えられないという感じで。
インデックスは一体どんな顔をしてるんだ、と上条は思う。ちょうど彼女は上条に背を向けているため、上条からは表情が見えない。
だが、あれだけの魔術師達がその場で凍り付いていた。直接、感情を向けられていないはずの
一体、どんな気持ちなんだろう、と上条は思う。
自分が、人を殺してまで守ろうとしたモノに、そんな目で見られる事は。
「……ッ、や、めろ。インデックス、そいつらは、敵じゃ……ッ」
「帰って!!」
インデックスは聞いていない。
「おね、がいだから……。私ならどこへでも行くから、私なら何でもするから、もう何でも良いから、本当に、本当にお願いだから……、」
ボロボロと。
「お願いだから、もうとうまを傷つけないで」
それは。
それは、唯一無二の『仲間』だった魔術師にとって、一体どれだけのダメージだったのか。
二人の魔術師は一瞬、本当に一瞬、何かを
ガチン、と。スイッチが入ったように
インデックスという同じ仲間に対する視線ではなく、魔術師という凍える視線に。
残酷な
彼女の事を本当に大切だと思っているからこそ、『仲間』を捨てて敵になるという、
そんなものは、壊せない。
真実を伝える度胸がないなら、この最悪の
「リミットまで、残り十二時間と三八分」
ステイルは、『魔術師』の口調でそう告げた。
インデックスには、きっとリミットの意味は分からなかったはずだ。
「『その時』まで逃げ出さないかどうか、ちょっと『
演技に決まっていた。本当はインデックスが無事な事を、涙ぐんで喜びたいのだ。頭を
ステイルがインデックスの事を散々に言っていたのも、つまりそれだけ『演技』を
インデックスは、何も答えない。
二人の魔術師もまた、それ以上は何も───一言すら告げずに部屋を出て行った。
(どうして……、)
……こんな事になっちまってるんだ、と上条は奥歯を
「大丈夫、だよ?」
ようやく、インデックスは広げた両手を下ろしてゆっくりと上条の方を振り返った。
上条は思わず目を閉じた。見てられなかった。
涙と
「私が、『取り引き』すれば」
「……、」
……
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