第三章 魔道書は静かに微笑む "Forget_me_not." 2
上条は、
「とうま?」
驚く事に、窓の外から明るい日差しが
はっきり言って、あまりにも釈然としないため、素直に生きてる事を喜ぶ事もできない。
ただ、インデックスの側にあるちゃぶ台の上にお
「ったく、まるで……病人みてえだな」
一晩じゃないよ、と答えるインデックスはどこか鼻をぐずらせているようにも見える。
「?」と、上条が
「三日」
「みっか……って、え? 三日!? 何でそんなに眠ってたんだ
「知らないよ、そんなの!!」
突然インデックスが思いっきり叫んだ。
まるで八つ当たりみたいな声に上条が思わず息を詰まらせると、
「知らない。知らない、知らない! 私ホントに何も知らなかった! とうまの家の前にいた、あの炎の魔術師を
その言葉の刃は、上条に向けられているものではない。
自分自身を切り刻むような声色に、上条はますます威圧されて声が出せなくなる。
「とうま、道路の真ん中に倒れてたってこもえが言ってた。ボロボロになったとうまを担いでアパートまで連れてきたのもこもえだった。その
インデックスの言葉が、ピタリと止まる。
ゆっくりと、決定的な一言を告げるために空けた、息を吸い込むわずかな時間。
「……、私は、とうまを助けられなかった」
インデックスの小さな肩は震えていた。その下唇を
それでも、インデックスは、自分のための涙は見せない。
わずかな感傷や同情すらも許さないという、徹底した心の
だから、代わりに考える。
三日。
襲撃しようと思えばいくらでもできたはずだ。いや、そもそも三日前、上条が倒れた時点でインデックスは『回収』されていてもおかしくなかった。
じゃあ、何で?
……いや、それ以前に『三日』という言葉にはもっと深い意味があったような気がする。ざわざわと背筋に虫が
「? とうま、どうかした?」
が、ギョッとした上条をインデックスは不思議そうに見ただけだった。上条の事を覚えているという事は、まだ魔術師達は記憶の『消去』をしていないらしい。それでいて、この様子だとインデックスにはまだ自覚症状は現れていないようだった。
上条はホッとすると同時に、貴重な最後の三日間を無駄遣いした事に自分で自分を殺したくなった。だが、その事は胸の内に
「……、ちっくしょ。体が動かねえな。何だこりゃ、包帯でもぐるぐる巻いてあんのか」
「痛くない?」
「痛いって、あのな。そんなに痛かったらのた打ち回ってるっつの。何だよこの全身包帯、お前ちょっと
「……、」
インデックスは何も言わなかった。
それから、ついに耐えられなくなったという感じで、じわりと涙が
何かを叫ばれるよりも、それはよっぽど上条の中心に突き刺さった。そしてようやく知った、痛みを感じない方が危ない状態だという事に。
上条は、右手を見る。
包帯でグルグル巻きになって、壊れに壊れた右手。
「そういや、
「……、うん。『普通の人』と『超能力者』は回路が違うから使えないけど」少女は不安そうに、「一応、
「確かにそれもあるけどな。────けどま、魔術なんて使わなくっても大丈夫だろ」
「……、なんて」インデックスは上条の言葉にムスッと口を
そういう意味じゃねーよ、と上条は
「……できる事なら、お前が魔術語ってる時の顔ってあんま見たくねーからな」
上条は学生寮の通路で、ルーン魔術について『説明』していたインデックスの顔を思い出す。
まるで
バスガイドよりも丁寧で、それでいて銀行のATMより人間味に欠けた言葉。
魔道書図書館、
それが目の前の少女と同一だったとは、今でも信じる事ができない。
というより、信じたくなかった。
「? とうまって、説明嫌いな人?」
「は……? ってか、お前覚えてないのかよ? ステイルの前でルーンについてカクカク人形みてーにしゃべってたろ? お兄ちゃん正直アレは引きましたっつってんだけど」
「……えっと、────そっか。私……また、
「覚醒めた?」
それはまるで、あの操り人形みたいな姿の方が本物の彼女だと言っているようだった。
今ここにいる、優しい少女は偽りの姿だと言わんばかりに。
「うん。けど、覚醒めてた時の事はあんまり突っ込まないで欲しいかも」
何でだよ? と
聞くより先にインデックスが口を開いてしまったからだ。
「意識がない時の声って、寝言みたいで恥ずかしいからね」
それに、とインデックスは唇を動かして、
「────何だかどんどん冷たい機械になっていくみたいで、
インデックスは笑っていた。
本当に今にも崩れ落ちそうに、それでいて決して人に心配はかけないように。
それは断じて機械なんかに作る事のできない表情だった。
人間にしか作る事のできない、笑みだった。
「……ごめん」
「いいんだよ、
「いや食べるってこの手でどうやって食えって────」
と、言いかけて、上条はインデックスの右手がおハシをグーで握っている事に気づいた。
「……、あの、インデックスさん?」
「うん? 今さら気にしなくても良いんだよ? こうして食べさせてあげなきゃ三日の間に飢え死にしちゃってるんだから」
「……いや、いい。とりあえず深く考える時間をください神様」
「何で? 食欲ない?」インデックスはおハシを置いて、「じゃあ体、
「………………………………………………………………………………………………、あの?」
言いようのない感覚に
あれ、何だろう? このたとえようのない悪い予感はなんだろう? そう、例えばこの三日間の様子を映したビデオを見せられたら恥ずかしさのあまり迷わず爆死しかねないほど凶悪な不安は一体……?
「……とりあえず、悪意ゼロだと思うがそこに座りやがれインデックス」
「?」インデックスはちょっと黙って、「もう座ってるけど?」
「……、」
タオルを握っているインデックスは善意一〇〇%なんだろうが、『無邪気』という言葉がくっつくと何だか妙な気分になってしまうダメな上条だった。
「どうかした?」
「あー……、」何も言えなくなった上条はとっさにごまかそうと、「こうして
「変かな? 私はシスターさんなので看病ぐらいできるんだよ」
変じゃないと思う。真っ白い修道服とお母さんみたいな仕草は、(彼女には悪いが)何だか本物のシスターみたいに見える。
そして、それ以上に。
涙を流したせいで
が、何だかそれを口に出すのは(ホントに
「いや別に。鼻毛も銀髪なんだなーと」
「…………………………………………………………………………………………………………」
インデックスの笑顔がそのまんまフリーズドライした。
「とうま、とうま。私の右手には何があると思う?」
「何がって、お
直後、不幸にも
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