第二章 奇術師は終焉を与える The_7th-Egde. 3
おっふろ♪ おっふろ♪ と上条の隣で、両手に洗面器を抱えたインデックスは歌っていた。
病人をやめました、と言わんばかりにパジャマから安全ピンだらけの修道服に着替えている。
一体どんなマジックを使ったのか、血染めの修道服はキッチリ洗濯されていた。ていうか、あんな安全ピンまみれの修道服、洗濯機に放り込んだら五秒でバラバラになると思う。まさか一度分解してパーツごとに洗ったんだろうか?
「何だよそんなに気にしてたのか? 正直、
「汗かいてるのが好きな人?」
「そういう意味じゃねえッ!!」
あれから三日
ちなみに
そんなこんなで、洗面器を抱えて夜の道を歩く若い男女が一組。
……一体いつの時代の日本文化なんでしょーねー、と銭湯システムの事を笑いながら説明していた小萌先生は、相変わらず何の事情も聞かずに
「とうま、とうま」
人のシャツの二の腕を甘く
「……何だよ?」
上条は
「何でもない。用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも」
たったそれだけで、インデックスはまるで初めて遊園地にきた子供みたいな顔をする。
インデックスの懐き方が尋常ではない。
まぁ、原因は三日前のアレだろうが……上条は
「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。コーヒー牛乳って何? カプチーノみたいなもの?」
「……んなエレガントなモン銭湯にはねえ」あんま期待を
「んー? ……その辺は良く分かんないかも」
インデックスは本当に良く分からないという感じで小さく首を
「私、気がついたら
「……ふうん。何だ、どうりで日本語ぺらぺらなはずだぜ。ガキの
それだと、『イギリス教会まで逃げ込めば安全』という言葉の方が微妙になってくる。てっきり地元に帰るのかと思いきや、実はまだ見た事もない異国に出かける訳だ。
「あ、ううん。そういう意味じゃないんだよ」
と、インデックスは長い銀髪を左右に流すように首を振って否定した。
「私、生まれはロンドンで
「らしい?」
「うん。
インデックスは、笑っていた。
本当に、生まれて初めて遊園地にやってきた子供のように。
その笑顔が
「最初に路地裏で目を覚ました時は、自分の事も分からなかった。だけど、とにかく逃げなきゃって思った。昨日の晩ご飯も思い出せないのに、魔術師とか
「……じゃあ。どうして記憶をなくしちまったかも分かんねーって訳か」
うん、という答え。上条だって心理学はサッパリ分からないが、ゲームやドラマじゃ記憶喪失の原因なんて大体二つに限られてくる。
記憶を失うほど頭にダメージを受けたか、心の方が耐えられない記憶を封印しているか。
「くそったれが……」
上条は夜空を見上げて思わず
インデックスが異常に上条を
上条は、それを
「むむ? とうま、なんか怒ってる?」
「怒ってねーよ」ギクリとしたが、上条はシラを切った。
「なんか気に障ったなら謝るかも。とうま、なにキレてるの? 思春期ちゃん?」
「……その
「む。何なのかなそれ。やっぱり怒ってるように見えるけど。それともあれなの、とうまは怒ってるふりして私を困らせてる? とうまのそういう所は嫌いかも」
「あのな、元から好きでもねーくせにそんな
「……、」
「て、アレ? ……何で上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫?」
「……、」
超強引にギャグに持ってこうとしてもインデックスはまるで反応してくれない。
おかしい、なんか変だ。何でインデックスは胸の前で両手を組んで、上目遣いの
「とうま」
はい、と
とてつもなく不幸な予感がした。
「だいっきらい」
瞬間、上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされるというレアな経験値を手に入れた。
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