第20話 オオキャミーの戦略
「さぁ、もっと上がってこーぜ!! 嬢ちゃん!!」
角光の雄叫びと同時に、高層ビルの一角が轟音と共に爆ぜ飛んだ。砕けた鉄骨と、ガラス片が雨のように降り注ぎ、火花と黒煙が夜空を赤く染める。煙の裂け目から飛び出したのは、巨大なヴェルクスマッシャーを振りかぶる姫百合と、それを正面から受け止めようと構える角光。
二人はそのまま道路へと叩き落ち、アスファルトが波打つほどの爆音と衝撃が街を揺らした。
「おぉ、これまた派手に暴れていますねぇ」
線路上に立つオリバーが、まるで観劇でもしているように愉快げに手を叩く。
「どこ見てんだよ、おじさん!!」
咆哮と共にオオキャミーが飛びかかる。両手のクロ―が獰猛な獣の爪のように閃くが、それをオリバーは、涼しい顔で杖の十字部分に絡め取り、鋭利な先端をレイピアのように突き込んだ。
「ぐッ!」
オオキャミーの腹部に連続で突きが刺さり、線路に血飛沫と火花が散る。身を捻る暇も与えられず、彼女は押し込まれ続け、息が詰まる。
オリバーの突きは人間業を超えた速度で、演奏のリズムのように規則正しく、無慈悲だった。
「まるで獣のように荒々しい……しかし、洗練されていない。トレビア~ンではないですねぇ!」
追撃を止めたオリバーは一歩下がり、杖の先を誇らしげに掲げて嘲笑う。その視線は道路で地響きを起こす姫百合と角光の戦いへと流れた。
「見なさい!あちらのレディは地形を利用し、攻撃の重さも巧みに制御している。まるで力と技を兼ね備えた芸術品!あなたとは大違いです」
彼の一言に、線路へ崩れたオオキャミーの肩が震えた。ゆっくりと立ち上がると、服に積もった煤と埃を払う仕草は妙に丁寧だった。
「……はぁ、最悪。服は汚れるし、赤井ちゃんと歩くために決めてきたセンター分けも台無し」
次の瞬間、オオキャミーは顔を上げた。怒りに染まりながらも笑うその表情は、さっきまでの軽薄さを脱ぎ捨てた本性のそれだった。
「何より――ウチが姫百合ちゃんより下に見られてるのが心底気に入らない!!」
彼女は断言すると、両手のクロ―を投げ捨て、パーカーの内から鈍い光を放つ籠手を取り出す。金属が噛み合う音と共に装着されると、拳から赤い電流が走り、空気が焼けるような匂いを漂わせた。
「おやおや、武器を変えただけですか?なんとダサい!
嘲るオリバーに対し、オオキャミーの笑みは深まり、瞳に獣じみた光が宿る。その瞬間、線路を固定するネジが拳の熱でじりじりと溶け出した。
線路を固定していたネジが外れ、わずかに傾いだ瞬間――オオキャミーは視線を直 線の先へと走らせた。そこには、余裕たっぷりに杖を構えたオリバーの姿があった。
「……今だ!」
オオキャミーは、ポケットから小さなカプセルを取り出すと、躊躇なく投げ放つ。
飛来物を認識したオリバーは眉をひそめ、即座に杖を横薙ぎに振る。だがその一瞬の間に、脳裏に閃光のような直感が走った。
カプセルトレイ!? 中に何か――!
警戒はしたものの遅すぎた。杖の一撃でカプセルは砕け、中から黒い粉末が弾け飛ぶ。空気を切り裂くように舞い散り、オリバーの視界を一瞬で覆った。
「ぐッ――!!」
粉が目に入った刹那、激痛がオリバーを襲う。反射的に顔を覆うが、鼻孔から肺へと入り込んだ匂いが、答えを教えた。
「こ、コレは……胡椒!? 調味料を戦場に持ち込むなど、なんと無粋なレディだ!!」
目を擦りながら、必死に後退するオリバー。だがその視界の隙間から、異様な光景が飛び込んできた。
オオキャミーが両腕の籠手に力を込め、目の前のレールを軋ませながら引き剝がしているのだ。金属の悲鳴が周囲に響き渡り、彼女の行動に思わずオリバーは鼻水を垂らした。
「姫百合ちゃんが地形を使うって言うなら! ウチはありとあらゆる物を武器にしてやるッ!!」
オオキャミーの叫びと同時に、振り上げられたレールが鞭のようにしなり、オリバーへ襲い掛かる。
「くっ……馬鹿な……ッ!」
粉で霞む視界の中、オリバーは杖で必死に防御を試みる。しかし次の瞬間、レールの湾曲が彼の体を絡め取り、蛇のように巻き付いた。
金属が唸りを上げながら彼を締め上げ、動きを封じていく。オリバーの顔が苦痛に歪むのを、オオキャミーはニヤリと企み顔をしながら見上げていた。
「どうよ? 獲物を捕まえるのは、獣の本能……そしてぇ!!」
空中で拘束されたオリバーは、視界がぼんやりしたままでも両腕に力を込める。すると、ミシミシと金属が悲鳴を上げ、レールがねじ曲がっていく。
「え、マジで引き千切っちゃう感じィ?」
オオキャミーがドン引きしながら見上げていた瞬間、オリバーは怪力でレールを引き裂いたのだ。破片が弾丸のように四方へ飛び散り、近くの信号機を粉砕し、線路脇の鉄柵をなぎ倒す。
「どこ行った!! 出てこい!!」
怒声をあげた彼の周囲には、飛散したレール片や崩れた架線が散乱し、辺りは混乱の戦場と化していた。だが、オオキャミーの姿はどこにもない。
次の瞬間――影が彼の頭上を覆った。
「なッ!?」
見上げた瞬間、空にいたオオキャミーの姿が逆光に浮かぶ。両腕を組み合わせ、ハンマーの形を作り出し、落下の勢いを利用して振り下ろそうと構えていたのだ。
「貴様のような無礼者には躾が必要だ!! この私が礼儀ってものを――!!」
「アンタの躾なんざ誰が受けるんだよ!!」
「ちょ、まだ話を――!」
彼の話しに聞く耳を持たず、オオキャミーの振り下ろされた一撃は、オリバーの杖を真っ二つに砕き、直撃の衝撃が彼の身体を貫いた。
「ぐァァァァァァァッ!!!」
そのまま彼は、陸橋を突き破って道路に激突する。粉塵と瓦礫が舞い上がり、周囲の逃げ遅れた人々が悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑った。
オオキャミーは落下の煙を見下ろしながら、口の端を釣り上げる。
「これがウチなりの戦略だ、分かったかおしゃれおじさん!」
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