ワンハンドレッドの絆
葛原桂
第1話 作家の日常
この世界には『小説家』という特別な仕事がある。彼らは様々な人々と関わり合いながら新しい物語を世に届けていく。その数は全世界で約60万人にのぼる。中でも【カクヨム】と呼ばれる小説投稿サイトは誰でも自由に小説を読んだり、自分の作品を投稿できる夢の舞台として多くのユーザーから愛されている。
高校生作家の【レモネード】もその一人だ。彼は金髪のショートヘアに無造作なセット、両耳にはチェーンピアスを揺らして胸元に赤いロゴが入った黒色の瞳が印象的。
墨色のジャケットの下には白いパーカーを着こなし、黒いパンツで全体を引き締めている。
学校帰り、いつものように小説をカクヨムに投稿するために急いでいると校門で同級生の【しゃしゃけ】と出会った。
しゃしゃけは黒髪のショートヘアで前髪が整っていて後ろはお団子で簪を差しており、頭の上に一房だけ跳ねた部分があるのが特徴的。緑色の瞳に赤いアイシャドウが映え、丸いフレームの金色の眼鏡が彼女の雰囲気を引き立てる。
緑色を基調とした和装風の上着に赤い帯を締め、ゆったりとした黒いパンツを合わせたスタイルはカジュアルさと和風が見事に調和している。
木製の下駄を履き、紫色の鼻緒が際立つデザインも彼女らしいアクセントであり耳には小さな飾りが揺れるピアスが付けられている。
そんな彼女が校門の壁に背中を預けていたがレモネードに気付くと手を小刻みに揺らす。
「ちと遅いんじゃないレモネード?」
「悪りぃ悪りぃ、ちょっと委員会の仕事が終わってなくて……」
しゃしゃけがムスっとした顔で腕を組んでいるのを見て、レモネードは軽く頭を掻きながら謝った。
「何やってんだよ全く。 今日何あるかわかってる?」
「確か……狂歌が喫茶店で話したい事があるんだっけ?」
「そうだよ、覚えてんじゃん! 速く行くよ!」
そう言うとレモネードは手を引かれ、無理矢理走らされることになった。二人の姿を目撃した他の生徒たちは呆然とその様子を見守っていた。何事かと思いながらもすぐに気にしなくなっていた
数分後、喫茶店の前に到着してようやく安堵の息をつく二人。
「ハァ、こんなに動かせたのレモネードのせいだから」
「何で俺のせいになるんだよ……」
息を切らしながらレモネードは喫茶店のドアに手を掛けた。店内に足を踏み入れたレモネードとしゃしゃけの目に飛び込んできたのは窓際で悠然と寛ぐ【
彼は糸目で左目の下にホクロがあり、そのシュッとした顔立ちはどこか洗練された雰囲気を醸し出している。体格は細身で黒のコートに黒のテーパードパンツ、そして黒とソール部分が白のスニーカーを身に着けていた。
両手には黒のレザー手袋をはめ、片手に持ったコーヒーカップを見つめながら、ぼんやりと何かを考え込んでいる様子だ。
店内は混み合っており、ほとんどの席が埋まっていたが、しゃしゃけとレモネードは狂歌の座る席に向かって進む。その途中、周囲の席に座る人々の視線がこちらを鋭く睨みつけていることにレモネードは気付いた。不穏な空気を感じながらも二人は狂歌のもとへと辿り着く。
目の前まで来ても狂歌は相変わらず遠い目をしていたのでしゃしゃけが迷わず彼の頭をバシッと叩いた。
「はッ! 僕としたことが、コーヒーに砂糖が入ってなくて飲めない余りに現実逃避を……って君達か」
ようやく我に返った狂歌は苦笑いを浮かべながらコーヒーカップをテーブルに置いた。しゃしゃけは溜め息をつきつつもレモネードの隣に座る。窓際の席に差し込む優しい日差しがどこか心地よい雰囲気を作り出していた。
椅子に腰を落ち着けたレモネード達のもとに、女性の店員が柔らかな笑顔を浮かべながら水を運んできた。
「お水です。 ご注文が決まりましたらお呼びくださいね」
そう言って軽くお辞儀をして去って行った。その姿を見送った後、しゃしゃけが口を開く。
「さて、狂歌。 話したいことって何?」
興味深げに狂歌を見つめるしゃしゃけにレモネードも目線を彼へと向ける。狂歌はポケットからスマホを取り出し、何かを調べ始めた。
「実はカクヨム公式からこんなメールが……とゆっくり話したいが――」
言葉が終わる間もなく、周囲に座っていた客が一斉に立ち上がると拳銃が向けられた。そして瞬きする間もなく銃弾がレモネード達に向かって放たれた。
「!? しゃけ――!!?」
咄嗟にしゃしゃけを庇おうとするレモネード。しかし、放たれた数多の銃弾は一瞬にして目の前から消えた。
「しゃけのことは守るのに僕のことはほったらかしなんだね、まぁ良いけどさ。 お陰で全弾全て弾き返せたよ」
さっきまで座っていた狂歌はいつの間にか立ち上がっており、手にはフォークが握られていた。その冷静な姿に感心するレモネードとしゃしゃけ。
「ま、まさか! 銃弾をフォークで全部塞いだのか!?」
拳銃を構えたまま冷汗をかく一人の男。
「さ、仕事だよ二人とも」
狂歌が再び椅子に腰掛け、穏やかな表情で言い放つ。しゃしゃけとレモネードはすぐに椅子から立ち上がって周囲の客人達を鋭く睨みつけた。
「……なるほどねぇ」
しゃしゃけが状況を整理してる中、レモネードが声を荒げる。その問いに狂歌は淡々と応じる。
「ちょっと狂歌!? どうなってんだよ!!」
「後で細かいことは話すから、頑張って~」
軽く二人の背中を押すと待ち構えていた客人達が一斉に武器を構え、襲いかかって来た。しかし、しゃしゃけは楽しそうな笑みを浮かべながら懐に手を入れるとライムグリーン色のメリケンサックを取り出して素早く両手に取り付ける。
「オラァ!! 死ねクソガキ共ォ!!」
巨漢の男が
「うっさい!」
「ぶッッ!!」
骨が折れる音が店内に響き渡り、巨漢男が後方へ吹き飛ぶ。その勢いで後ろにいた客人達も巻き込まれ、次々と倒れ込む。
レモネードもすぐに動き出すと襲いかかって来る他の客人を次々と殴り倒していく。
「コイツら強い!!」
客人達は後退し始めるがレモネードとしゃしゃけの猛攻は止まらず、あっという間に全員を制圧した。
「ふぅ~これで終わったか」
レモネードが息を整えながら言うとしゃしゃけは不満そうに笑う。
「まだ遊び足りないなぁ~」
メリケンサックを懐に戻しながらしゃしゃけも肩を回している。その時、店内に男の怒号が響き渡る。
「お前らァァァ!! 大人しくしろォォォォ!!」
三人が振り向くとさっき水を運んでくれた女性店員がレジの前で男に捕まっていた。男は片手に拳銃を持ち、その銃口を女性店員の首元に押し当てている。
「人質かよ……汚ねぇ真似しやがってッ!!」
「これじゃ
レモネードとしゃしゃけは困惑の表情を浮かべ、無理に刺激しないようにその場で留まる。
「ガキ共、動くんじゃねぇぞ!! 動いたらこの女の首はトぶからなァ!!」
男の声に緊張が走る。その時、狂歌が静かに椅子から立ち上がった。その目がゆっくりと開くと瞳の奥には深い憎悪が宿り、店内に圧倒的な威圧感が漂う。
男はその雰囲気に飲まれ、一瞬判断を誤った。
次の瞬間、狂歌が手に取っていたフォークが目にも留まらぬ速さで投げられ、男の握っていた拳銃を粉々に砕いた。
「何ッ!?」
「それが
狂歌は瞬間移動したかのように男の目の前に現れると迷いもなく頭を掴んで引き寄せると、膝蹴りを男の顔面に炸裂させた。
鼻血が飛び散り、骨が砕かれた音と共に男はそのまま床に倒れ込む。
女性店員は恐怖で震えていたが狂歌が優しく彼女に微笑みかけると少しずつ落ち着きを取り戻していった。
狂歌がニコニコと女性店員に話しかけると彼女は慌てて首を振り、狂歌の申し出を必死に拒否した。
「こんなに散らかしてしまってすみません、賠償金はいくらですか?」
「とんでもないです!?助けて頂き、ありがとうございます!!」
「そう? なら会計しても良いかな?」
「も、勿論です!」
狂歌が会計を始める姿を見つめるレモネードとしゃしゃけ。彼らは改めて狂歌の恐ろしさを感じ、会計が終わるとすぐに外へ出た。
「店の中、地獄絵図だけど大丈夫かな?」
しゃしゃけが不安そうに呟くが狂歌は変わらぬ笑顔で軽く返した。
「大丈夫大丈夫」
その時、狂歌は思い出したかのようにスマホを取り出すとカクヨム公式から届いたメッセージを二人に見せた。その内容に二人の表情は徐々に曇っていく。
〖カクヨム作家の皆さんに報告です。 先日から何者かによって作家の皆さんの命が狙われるようになり、皆さんそれぞれに懸賞金が付いています。 くれぐれも気を付けて下さい〗
「……んだよコレェ?」
「わぁ、なんか退屈な毎日じゃなくなりそう」
二人の反応は対照的だった。狂歌は再びスマホを操作し、二人にアカウントの懸賞金情報を確認させた。
「で、二人のアカウントに自分の懸賞額が載ってる筈だよ」
「まさかそんな訳――」
レモネードは半笑いで自分のスマホを開く。次の瞬間、彼は言葉を失ってしまい声にならない悲鳴を上げた。
〖レモネードさん。 懸賞額55億〗
「漫画でしか見たことねぇよ……」
「あ、僕の方が5億高い~」
〖しゃしゃけさん。 懸賞額60億〗
しゃしゃけは謎の喜びを見せるがレモネードはその場で絶句した。
「序に僕は200億以上だから」
「「え??」」
驚愕する二人を前に狂歌は相変わらずの笑顔を浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふーん、野々宮さんは170億ねぇ~」
〖
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
別の場所では大量の人間が倒されていて、その残骸が山のように積み上がっていた。その頂上には伸び切った長髪に着崩した着物を纏い、片手に木刀を握る男が立っていた。彼もまたスマホを見ながら冷笑を浮かべていた。
「ハッ! 俺が60億の首になっちまうなんてこれはレモネード達に伝えないとな!!」
〖
少年はそう言い放ち、スマホをしまうと視線を遠くへと向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
また別の場所では灰色のパーカーを深く被り、目元が隠れた少年が椅子に座っていた。彼は黒いワイドパンツにエアジョーダンを履き、気だるそうな表情を浮かべている。
その隣には黒髪ロングで黒目の少女が高校のジャージを着て座っていた。彼女は少し童顔だが身長は平均より高めで落ち着いた雰囲気を持っている。
更にもう一人、茶色いぼさぼさヘアにオッドアイの少年がいて、彼は中学生くらいの見た目で目の下には
三人は机を囲みながらタブレットを見つめていた。
「え、ぼくちんなんでこんな懸賞金あるのぉ~」
灰色のパーカーを深々と被った少年が嘆いた。
「でもあばにらさん強いし、大丈夫ですよ! 狛さんはどれくらいでしたか?」
黒髪ロングの少女が励ますように話しかけ、その視線はもう一人の少年にも向く。
「ボクは芽乃っちより低いよ、多分ね」
茶色いぼさぼさヘアの少年が軽く返す。三人が持っているタブレットの画面には衝撃的な数字が書かれていた。
〖あばにらさん、
三人の表情にはそれぞれの思惑が浮かんでいる。これからの展開に対する不安と期待が交錯する中、彼らは静かに次の行動を考えていた。
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