Column6 「檄を飛ばす」の新しい意味

 今回は「檄を飛ばす」という慣用句について取り上げようと思います。


     ☆


 スポーツでは、選手を叱咤激励しったげきれいをするような場面もあるかと思います。それを見たとき「げきを飛ばす」と言い表すこともあるかもしれません。


 ——選手に檄を飛ばす。


 上記の例文のように使われた場合の「檄を飛ばす」の意味は、「(あらっぽく)はげます」とか「奮起させるために叱咤激励する」と解釈されそうです。

 しかし「檄を飛ばす」の元々の意味は、これではありません。『明鏡国語辞典 第三版』を調べると次のように記載されています。


**********

【檄を飛ばす】『明鏡国語辞典 第三版』

❶決起をうながすために、自分の主張を広く人々に知らせる。檄す。

**********


 上記の引用を見て分かる通り、「檄を飛ばす」には叱咤激励の意味がないのが分かります。


「檄を飛ばす」の「檄」には、「自分の主張などを強く訴え、多くの人々に賛同や決起をうながす文書」(『明鏡国語辞典 第三版』より)という意味があり、それを「飛ばす」ということですから、「自分の主張を多くの人々に知らせる」ことを示しています。


 しかし、近年「檄を飛ばす」が、冒頭の例文のように「激励する」「はげます」という意味として使われるようになってきたことから、少しずつ辞書でも容認されてきているようです。


 私が辞書を確認した限りでは次のようになっています。


●「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で捉えることを(新しい用法として)認めている辞書

 『明鏡国語辞典 第三版』

 『三省堂 現代新国語辞典 第七版』

 『岩波国語辞典 第八版』


●「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で捉えることを俗語として認めている辞書

 『三省堂国語辞典 第八版』


●「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で用いる場合があることを補足として書き記している辞書

 『デジタル大辞泉』


●「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で捉えることを認めていない辞書(⇒はっきりと誤りとしている辞書・本来は誤りとしている辞書)

 『新明解国語辞典 第八版』

 『新選国語国語辞典 第十版』

 『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』

 『精選版日本国語大辞典』

 『大辞林4.0』


●おそらく「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)見出しがない

 『旺文社国語辞典 第十二版』

 『旺文社 標準国語辞典 第八版』


 このようにしてみると、辞書によって考え方が違うのが分かりますね。

 本来は「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味で捉えることは誤りです。しかし、多くの人たちが使うようになっており、誤った意味が定着し、少しずつ認めている辞書が増えてきてもいるのも確かです。

 ゆえに「檄を飛ばす」を「(叱咤)激励」の意味として使いたいなと思った方はそのように使うこともあるでしょうし、元の意味を大切にしたいという方は「檄を飛ばす」を本来の意味でのみ使うようにしてよいのではないかなと、辞書の語釈を見る限り思います。


 皆さんは「檄を飛ばす」を「激励する」の意味で使うでしょうか。


<掲載元>

◇『ことば』 2023年10月Column3

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