めんどくさい…!

「っあぁもう!面倒くさい!」

 空中跳躍で加速しながら突き出された矛を受け流し、矛の柄を引っ張り、手繰り寄せた【纏矛パイカ―】の顔に目掛けて回し蹴りを食らわせる。

「ほんと、運がないなぁ…私」

 ………まぁ、でも、運がないはいつもの事かぁ…。気に病むだけ無駄だよね~。

 あと【纏矛パイカ―】の空中跳躍の扱いが地味に上手いんだよねぇ~。今も吹き飛んだ反動を上手く軽減しながら加速してきてるし…。

「【空中跳躍】」

 【纏矛パイカ―】の突きを避けた瞬間、すかさず上空に飛び上がる。

 【纏矛パイカ―】の空中跳躍の連続使用回数はこれで4回目。だから…。

「次の空中跳躍は着地してから…だね?」

 龍鱗剣を【纏矛パイカ―】の胴体に突き立てる。

「今まで防いだ分のお返し、しっかり味わってね。【剣術・フレアブレード】」

 龍鱗剣が蒼白い炎に包まれて、【纏矛パイカ―】の鎧が融解を始める。

「【空中跳躍】」

 更に地面に向かって空中跳躍を発動、さらに加速しながら地面に【纏矛パイカ―】を衝突させる。

 【てん装具そうぐ】シリーズは熱にも強い。だけど、龍鱗剣はフレアブレードと相性が良くて炎の温度が高い。

 それこそ、こうやってずっと当て続ければ【てん装具そうぐ】シリーズでさえ…。

 こうやって、容易く貫き通せるくらいには。

「…ふぅ…」

 ただ、柔らかくなるまでに多少時間がかかるからそんなに有効な手段って訳でもないんだよね…。剣で斬るだけの時間じゃここまで柔らかくはならないし。




「―――リリィさん、パ~ス」

「よっ…と」

 純白ちゃんが剣の腹で私の方に殴り飛ばしてきた【纏矛パイカ―】を、もう一回純白ちゃんに蹴り返す。

 1往復した【纏矛パイカ―】は綺麗に純白ちゃんの剣に串刺しになった。

「あれ、【てん装具そうぐ】ってそんなに脆かったっけ」

「いや、これが鋭いだけ。勢いさえあれば貫通くらいできる」

「まあ結構強いもんねその剣」

「あの…ふざけてないで、倒してっ…ください!」

 剣の打ち合いを続けるトキハちゃんが私たちにそうお小言を零す。

 でもなぁ~、【纏矛パイカ―】を倒したとて、まだ【纏盾シールダー】と【纏弓アーチャー】が残ってるし…。

「まあまあ、ゆっくり倒そうよ~」

 …って、それができたら苦労はしてないか…。

「…うーむ…、仕方ないなぁ。リリィさんがちょーっとだけ本気を出してあげよう」

 龍鱗剣を鞘に仕舞いまして~、取り出したるは龍鱗剣その二…じゃなくて雷刃剣。

「【剣術・超加速ヘヴィ・アクセラレート】」

 雷刃剣は速度特化。まあ勿論威力も高いんだけど…加速系はこっちの方が相性がいい。

「【剣術・フレアブレード】」

 龍鱗剣とは違ってオレンジっぽい色の炎が雷刃剣を包み込む。剣を包む炎が追い付かくなりそうなほど高速で流れる周囲の景色。長いけれど短い、その一瞬に—―—【纏矛パイカ―】の四肢を全て切り落とす。そして、胴体を真っ二つに切断する。

 そのまま【纏盾シールダー】の方に向かい、3体の盾を切り落として、真後ろにいる【纏弓アーチャー】目掛けて蹴りを入れて吹き飛ばす。拡散しやすいように【纏盾シールダー】の体をできる限り切り刻んでおいた。

 経過時間は0.1秒未満…だと思う。人間の反応速度の限界をさらっと超えているからこそ、防御や回避ができない連撃になる。【纏矛パイカ―】の反応速度は計測したことないけど。

「「―――」」

 トキハちゃんでも、何が起こったのか良く分かってないらしく、正しくポカンとした表情をしている。

「…今…何が…」

「いやぁ…あはは…」

 ちょっとばかりやりすぎた…かなぁ。

「と言うか二人、突っ立ってたら【纏弓アーチャー】の恰好の的だけど良いの?」

 なんて忠告をしている間に、吹き飛ばされた2体の【纏弓アーチャー】を除いたすべての【纏弓アーチャー】から矢が放たれた。

 ちなみに、この【纏弓アーチャー】達は【纏矛パイカ―】との戦闘が終わるまで律儀に待ってくれたいい子たち。まあ速度が速すぎて狙いが定まらなかっただけだろうけど。

「―――【刀剣術・疾風ハヤテ】!」

「―――【重力加速】!」

纏弓アーチャー】が放った矢を避け切った二人は、勢いそのままに【纏盾シールダー】の方に突っ込んでいく。

「…私は参戦しなくても良さそうかな?」

 2人だけでも十分優勢みたいだし。

 …まあ、そりゃ、飛び道具を使う兵士たちって基本的には近付かれない前提で運用されるしね…。弓兵が剣士に接近戦だと後れを取るのはそうだよね…。

 なんて事を考えながら、雷刃剣を収納して龍鱗剣に持ち替える。

 普段使いなら龍鱗剣の方が便利なんだよね~、単純に使ってた時間の違いなのかもしれないけど。

 …と、まあそれから10分もしないうちに、【纏盾シールダー】と【纏弓アーチャー】は全滅した。

「お疲れ様~二人とも~」

「「………」」

「え、二人とも何その目は…」

「「………」」

「な、なにか言ってくれないかな?」

「…さっきのあれ、なんなんですか?」

「…あれ?…あー、これの事?」

 そう言って雷刃剣を取り出してみる。

「それです。何ですかさっきの技」

「何を怒ってるか良く分からないんだけど…」

「なんで【剣術・超加速ヘヴィ・アクセラレート】であんな加速ができるの?」

「あぁ…なんて言えばいいんだろ…武器の相性と…熟練度?」

「さらっと格の違いを見せるのをやめてください!」

「いや…まあさ、分かってたよ?リリィさんが強いってことくらいはさ…けどあんなサラ~っと格の違いを見せつけられるこっちの身にもなってよ」

「い、いや…だってあれは…」

「「だってじゃないよ!」(です!)」

 えぇ…。


――――――――

作者's つぶやき:ねぇリリィさん、あなたさ、『神速』をさらっと超えて行くのやめなさいよ。

一応言っとくけど君ランク40なのよ?

…はい。まあ…もう、リリィさんのこの強さは案内人だからで済ましてしまうのが一番の解決方法です。深く考えてはなりません、案内人は強いのです()

では次回もお楽しみに。あと昨日投稿休んで申し訳ないです…。

――――――――

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