案内人のすゝめ:1

 ダンジョン選択のホログラム…もとい掲示板でダンジョンを選択すると、そこから自動的にテレポートする仕様になっている。

「…ここが…?」

「そう、ここが公式がチュートリアル用にって出してるダンジョンだよ」

 初心者でも倒しやすい敵、それなりに美味しい報酬、スタートダッシュには申し分ない…かもね。

 まあ見た目はいかにもなダンジョンって感じ。所々草の生えたグレーの煉瓦にランプが取り付けられて、辺りを少し照らし出している。

 ここは案内人のお仕事の基本も基本、ここのマップは頭に入れてないと話にならないからね~。

「ついて来てね~、逸れちゃだめだぞ~」

「あ、はい!」


 一番初めの部屋から、3つに分かれる通路を左に進んだところ。ここには宝箱と敵が数体いる。

 ここの宝箱には…確かランク3のダンジョンくらいまで普通に使える剣がある。

「気を付けてねヌートラくん。ここから戦闘だよ」

「は、はい!」

 ヌートラくんが初期装備の剣を鞘から抜き取って、構える。

 ここの敵は【ウルフ】。体力、攻撃力、防御力は低めに設定されていて、倒しやすい。

 …ただ、ウルフ系の強い点は素早さ。

「うわっ!速い!」

「気を付けてね~。…よっと」

 ヌートラくんが本当にやばくなるまで手は出さない。そうじゃないと本人が成長しないからね。

「―――くっ…!とりゃぁ!」

 お、適応が早い。突進三回でこの速さに対応できるなんて、ヌートラくん、もしや結構すごい人?


「これで―――最後だぁっ!」

「ヌートラくんすごいね~、【ウルフ】の速さにあんなに速く適応できるなんて」

「あはは…ちょっと格ゲーを齧ってて…動体視力には少し自信があるんです」

「そうなんだ。やっぱフレーム単位の動きがいるから?」

「ですね…」

「でも、動体視力が良くたって過信しすぎは良くないぞ~。レバガチャと実際に体を動かすのとじゃ、全然違うからね」

「それはそうですね…自信過剰にならないようにします」

「自信過剰なのはよろしくないけど、自信があるのは良い事だね。動体視力、このゲームやってたらもっと良くなるんじゃないかな?」

「そ、そうですかね…」

「うん、きっとね。…さて、それじゃあお宝ボックスを開けてみようか」

「はい!」

 部屋の奥に堂々と鎮座する宝箱にヌートラくんが近寄って、宝箱を開ける。

 …まあ、チュートリアルのダンジョンだから良いけど…。他のダンジョンだとトラップが仕掛けられてたりするから、あんまり迂闊に近付かないほうが良いんだけど…、まあ、それは実際に体験したら嫌と言うほど分かる筈だから、ここではあえて言わないことにした。

「見てくださいリリィさん!この剣すっごく強いです!」

「そっか、良かったね。…さて、それじゃあ残りの部屋もさっさと片付けちゃおうか」

「…なんかもうちょっとこう…反応してくれないんですか…?」

「いやぁ、私もできるならそうしたいんだけどねぇ~。残念ながら、正直もう何百回も見た光景に今更ハイテンションになる気も起きなくて」



 ここにいるのは属性付きの魔物達、中でも結構厄介なのが【ファイアバット】だ。すばしっこいし、的がちょっと小さい。空を飛んでいるのもあるし、かなり攻撃を当てにくい。

 …けど、そんなファイアバットにもちゃんと攻撃を当てていくヌートラくんはかなり戦えると思う。…多分、実際にリアルで運動とかをやっていたんだと思う。…けど。

「ヌートラくん、ちょっと踏み込みが浅いかな。それだと刃が上手く入らないよ」

「え…でも、じゃあどうすれば…」

「簡単、もっと足を前に出すだけでいいよ」

「おりゃぁっ!」

「ほら、手応えが違うでしょ?」

「本当だ…すごい」

「さてさて、それじゃあ次の部屋に行こっか」


 それから各部屋ごとに出現する敵を倒し、時々設置されているトラップを躱しながら、いよいよ最後の部屋の前。…まあつまり、このダンジョンの主が鎮座する部屋の前。私たちの目の前には、とても大きな扉がある。

 …まあ、私は見慣れてるんだけど、ヌートラくんはすごく圧巻されてたね。

「…。さてヌートラくん、体力とかは大丈夫?」

「はい」

「それじゃ、行くよ!」

 大きな扉を押すと、ギィっと音を立ててゆっくりと開きだす。

「さて、それじゃ、『案内人からのすゝめ』その1。ボスには気を付けるべし。がんばってね~ヌートラくん」

「え、あの手伝ってくれたりとかは…」

「私はあくまで案内人だからね~。ヌートラくんがヤバくなったら加勢するよ~」

 案内人のすゝめ、その1。過度に目立たず。

 あくまで私は案内人。だから、攻略するプレイヤー達よりも目立ってはいけない。表立って敵を倒したり、余程の事がない限りは、誰かに回復ポーションを掛けたりもしない。

 まあほとんど都合のいいカーナビみたいなものだ。

 まあただ、右も左も分かりっこないヌートラくんみたいな初心者には、手助けすることもあるけどね。

 それに関しては案内人というよりもアドバイザーとしての一面もあるのかもね。


――――――――

作者's つぶやき:みなさん、案内人ってどう読んでます?シンプルに『あんないにん』ですか?それとも『あんないびと』ですか?まあどちらでも良いんですが。案内人のすゝめと案内人のすゝめは違いますからね。

案内人のすゝめは自分に対して、案内人からのすゝめは、自分から誰かに対してのアドバイスです。

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