第18話 メインクエスト
九体九の、頂上決戦?
それは……
「できる気がしない……。それに、配信なんてこの前久々に観たけどパフォーマンスがメインになっててそんなの受けるのって思っちゃう」
『それは魔族がふがいない……ごめんなさい、私の悪い癖だわ』
「べつにいいよ。実際魔族側が劣勢になってるのは事実だし」
『そういうんじゃなくて……』
フランさんは必死にフォローしてくれる。
けど実際、S級の魔王の上位陣の大半はセインの手垢がついた――敗北した『魔王』だ。
お父さんが開いた同窓会のとき、顔を合わせたことはある。
癖はある魔族ばかりだったけど、わたしに優しく接してくれた。
そして、乾杯しながら談笑していた。
――最強の『勇者』には勝てないと言いながら、笑っていたのだ。
わたしはそれを傍から見て、分かってしまったのだ。
もうこの人たちは、諦めてしまったんだと。
「だから、魔族がふがいないっていうのは正しいよ」
『でも、そうだとしても。……貴方は、セイン様に勝ちたいんでしょ?』
「そうだね。勝ちたい。だけどその過程が描けてない。今日、ウイガルさんにそう言われたよ」
『『獣王』ね。確かに、厄介な敵だった。私を倒すために対策を弄し、事実私は追いつめられた。あの獣人は確固たる筋道を作って、私を打ち倒しにきた。本当に、凄い敵だったわ』
フランさんは話を戻す。
というか、仮定の話として条件を限定する。
『もしその決戦が叶えば、人は必ず目にしたいと思う。そして、そこでセイン様に一矢報いることができたなら、貴方の名は必ず世界に轟くわ』
「わたしの……名が」
『そうよ』
「そういえばさ、名前のことなんだけどさ」
『?』
「フランさん。貴方とかじゃなくて、名前で呼んでよ」
『うん?』
今度は、フランさんがコントローラーを落とした。
ゲーム内でのキャラクターが、スティックに合わせてぐるぐる回る。
それはフランさんの心情を表しているようだった。
でも、こういうのはきっちりしとかないと、後々引きずる気がする。
『「貴方」じゃ、だめなの?』
「セインは様付けでも名前で呼んでるじゃん」
『それは、最初からそう呼んでたから……』
「ならわたしには、呼んでくれないの?」
静寂が訪れる。
レイドボスまで、あと五分と表示される。
けれど今は、レイドボスより重要なことがある。
『そうよね。わ、わかったわ……』
でも、と付け加える。
『貴方も、私のことを名前で呼んで』
「え? どういう、ことでしょうか」
『ありのままの名前で、呼んで?』
消え去るような甘い声が、ヘッドホン越しに耳朶を打つ。
どきりと、心臓が脈を打つ。
「は、はい……じゃ、じゃあお互いに。名前で、呼びましょうか……」
『うん。と、友達だものね?』
自覚はないんだろうけど、その猫なで声はやめて欲しい。
寿命が減るくらい、ドキドキしてしまう。
「ええと、フラ」
『――ミラ?』
「……っ!!!」
や、やばい。
その嬌声が、全身に響く。
わたしは大ダメージを食らった。
「さすが、『勇者』だね」
『な、なにが!?』
名前を呼ぶだけでノックダウンするとこだった。
強敵だと、改めて認識する。
「次は、わたしのターンだよ」
『ターン制なのがよくわからないけど、頼むわね』
息を吸って吐く。息を吸って吐く。息を――
ってこれこの前もやった気がするな。
覚悟を決めろ、ミラ・フィーベル!!
「……(フラン)?」
『聞こえない。もう一回』
くそ雑魚ですみません。
そうだよね。フランさん……フランは勇気を出してくれたんだ。
わたしも、応えなければいけない。
「フラン?」
『……っ////』
「フラン……フラン!!」
『わ、わかったって!!』
「あ、ごめん」
……。
お互いに、無言になる。
恥ずかしいのは、わたしだけじゃないのかな。
そうであって欲しい。
「あ」
――レイドボスが、まもなく出現します。
そんな空気を読んだのか(読んでない)、ゲーム内で告知が流れる。
「や、やばい。移動間に合わないよ」
『これを使いましょ』
「え、それワープできるやつでしょ? 結構貴重なアイテムなのに、使っていいの?」
『せっかくの記念よ、使っちゃうわ』
お言葉に甘える。
フラン……やさしい、すき。
そうして一日に一度のレイドボスを倒し、報酬を分け合った。
いったん街に戻ったあと、わたしは告げる。
決めたのだ、まだ曖昧でも、やってやると。
「フラン、決めたよ。わたし『魔王』として、その九体九のレイド戦の形式でいくって」
『いいの? そんなこと言っちゃって』
少し挑発的に言うフランに、わたしは返す。
「仲間なんて、どうにかする。どうにかなる! わたしは最強の『魔王』になるんだから、仲間も妥協しない」
『いいじゃない、受けて立つわ』
「そっちこそ、わたしたちに立ち向かう九人を用意できるの?」
『冒険者は飽和状態の入れ食い状態よ? 『覇天』の復活。そんな時報、見逃すはずがない。過激な争いの果て、選りすぐりの九人が挑むことになるでしょうね』
もちろん、自分は全力でそこに注力すると。
フランは静かに宣戦布告をしたのだ。
わたしはそれに、相応しい舞台を用意できるのだろうか。
いや、するんだ。
決意は、固まった。
「じゃあ、続きやろっか。フランっていつまでいける?」
『特に縛りはないわ。勝負する?』
「いいね。なら続きやろっか。今日は寝かさないよ!」
そうして、わたしたちは夜が明けるまで語り合ったのだ。
◇
「それは休日にやることじゃない?」
「ごもっともです……」
セインの肩を借りてよぼよぼと歩く。
「というか、随分と仲良くなったみたいだね。ちょっと段階飛ばしすぎじゃない?」
「? 仲良くなってほしいって言ってたじゃん」
「そうだけど。いやそうだけど……!!」
セインが何で息巻いてるのかわからないし、考えるのもしない。
だって眠くて仕方ないから。
思考にエネルギーを使う余裕なんて無い。
「「あ」」
教室の扉をスライドすると、金色の少女と目が合う。
ヘッドホン越しじゃない、本物の美少女だあ……
そんな風に、ふわふわしながら思う。
「その、おはよ。あ、セイン様もおはようございます!」
「なんか私、おまけみたいな扱いされてない?」
? こいつ何言ってるんだ?
「うん、おはよ。フランは元気だねえ」
「まあ、一夜くらい寝なくても問題ないわ。貴方は……ミラは大丈夫?」
「ギリギリってとこ」
「え? え?」
何か横でセインがうろたえている気がするが、勘違いだろう。
「
「う、うん。少しゆっくりとね?」
「ありがとね、セイン」
机に突っ伏して、眠気に任せて目を閉じる。
――その時だった。
「そういうことだから、あーしと別れて!!」
教室の外から、そんな声が響いたのだ。
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