猫が待っていなかったら

夏月 水菜美

第1話

歯医者って大人になっても緊張する。

今、歯医者の待合室にいる。今日は半年に一度のクリーニングの日。


まだかな。ここの時計合っているんだろうか。

スマホで時間を確認しよう。

バッグの中に手を入れてゴソゴソ探して、やっと掴めた瞬間

急に意識が遠くなっていった。


目が覚めると、そこは縄文時代のようだった。

何だろ、この懐かしくてあたたかい感じは。

驚いた拍子にスマホを落としてしまい画面が割れてしまった。

それも私のイニシャルMの形に。


「ようこそ、未来の人ですね」

振り向くと縄文人のような人が立っていた。

しかし、私がイメージしていた縄文人よりかなり柔らかい印象だ。

言葉が伝わってくる。

縄文人がテレパシーで会話していたというのは本当だった。

私も言葉を送ってみる。

「ここは縄文時代ですか?」通じない・・・。

「言葉を送りたい時は、[送る]と念じないと伝わらないんですよ。」

送る?メールの送信みたいなものか。

「ここは縄文時代ですか?」

「そうですよ。よく来てくださいましたね。」

通じた。

「私、水菜美と言います。水菜美と呼んでください。」

「私は呼び名はないので好きなように呼んでください。」

「縄文人さんはいつもこんな丁寧な言葉で話されるのですか?」

「テレパシーは受け取る人の感性で伝わるのです。普段あなたが言葉を大切にされているのでしょう。」

「どうしたら帰ることができますか?」

「あの木の下にしばらく座っていれば帰ることができます。」

良かった。帰れるんだ。

聞きたいことはたくさんあるはずなのに何を聞いていいかわからない。

「そういえば、先ほど江戸から来たという人がいますよ。あの木の向こう側にいる人です。」

「江戸ですか?私お話してきます。」

普段は自分から人に話し掛けるなんて出来ない私が身軽に歩き出していた。



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