アドベントカレンダー2024 ~無料配布ペーパーが積み重なって短編集になりました編~
長月瓦礫
Day1-1 夜
リズムを整えながら、公園を走る。
今日はなんとなく、いつもより奥のほうまで走ってみようと思った。
電灯が点々とついていて、人気はほとんどない。
家族連れはすでに帰り、酔っ払いはもう少し遅くなってから来る。
本当に人がいない時間帯だ。
「……ん?」
遠くから元気な声が聞こえる。足をとめて見回す。
ノイノーイ……ありがとうございました……。
はっきりとしていて聞き取りやすい声だな。
オバケが出るっていう話は聞いたことがないんだけど。
そんなことを思いながら、声を頼りに探す。
ボールをほいほいっと上に投げて、カメラの前でポーズをとって、落ちたボールをすべて受け取る。器用なもんだな。
それにしても、俺以外に観客がいるらしい。
気配を探っていると、ボールが殺気をはらみ、こちらに飛んできた。
「何してんだ、そこのボンクラ! カメラ回ってっからな! 逃げらんねえぞ!」
「花澤君、それマジで言ってんの?」
俺は立ち上がり、ボールを一つ投げ返す。
「露木君だっけ。何やってんの、こんな夜遅くに」
「ん? よく知ってるね」
「そりゃ、異世界関係論なんて意味不明な講義を受けてるのは俺らくらいしかいないしな。で、何の用? ノートなら貸さねえぞ」
「ジョギングしてたら声が聞こえてきたのさ。ホラー大好き人間としては声の正体が気になるところじゃん? 確かめたろって思ってね」
オバケか何かと思ってのぞいたら、優等生がジャグリングしてました。
これはとんだ特ダネだ。
「同じオカルト好きってことで、見逃してくれないか? 命は取らないからさ」
「命って……そんな深刻なことなの?」
「そりゃ、信用した人にしか言ってないしな」
「マジか。俺が第一発見者ってこと?」
「気づいてる奴は気づいているんだろうけどね」
他の学生とニオイが違うなと思っていたら、こういうことだったのか。
誰も知らない優等生の裏側といったところか。
「花澤君。ここみたいに人気がない場所は、それだけヤバい場所だってのは分かってる? 異世界関係論でもやったでしょ、頭がやべえ奴はこういう人気のないところを好むってさ」
「なんだよ、急に」
「何も分かってなさそうだから言ってんの」
俺はボールをカメラのほうに投げる。ボールはカメラの後ろにいた何かに当たった。
すかさず飛びつき、背中の上に乗る。体が浮かび上がり、正体を現した。
「ところで、この人のことは知ってる?」
「知らない」
「了解、それじゃ現行犯ってことでね。話はあとで聞くから黙ってろ」
両腕に手錠をかけ、頭を数回叩く。
男の意識を飛ばしたところで、スマホで連絡を入れる。
しばらくしたら、引き取りに来るだろう。
「……何が起きてたの、俺の身に」
「結論だけ言うね。透明になる魔法を使って見張られてた。
マジで多いんだよね、この手の悪質なストーカー」
「ごめん、話が何も入ってこない。
けど、ずっとカメラの後ろにいたってことだよな。全然気づかなかったんだけど」
「だろうね。魔法だから普通は分かるわけないし」
花澤君は離れたところで荷物をまとめている。
ここで撮影をしているのを知っている上での犯行だろうか。
そうだとしたら、かなり悪質だ。
一度、この周辺を調べたほうがいいかもしれない。
「露木君」
「どうした?」
「助けてくれてありがとう。さっきはボールをぶん投げてごめんな」
「いや、変なことしてたのは俺のほうだし。
コイツもたまたま見つけたから捕まえただけだし。
この後、事情を聞かせてほしいから事務所に行くんだけど、大丈夫?」
夜もだいぶ遅い。
解放されるのは何時頃になるだろうか。花澤君は名刺を差し出した。
「一応、俺はこういう者なんですよ。だから、心当たりはある。
てか、現行法でどうにかなるもんなの?」
「報道されていないだけで、魔法に関してはかなり厳しいから大丈夫。とはいえ、安心もできないかな」
名刺には『風間花野井』と書かれてあった。本当に裏の顔があるらしい。
俺も仕事用の名刺を渡した。少し物騒な仕事だからなるべく関わり合いは持たないでいたけど、それどころの話ではなくなった。
「他に困っていることがあるなら相談したほうがいいよ。
多分だけど、コイツ以外にもいるんでしょ?」
少しだけ表情が柔らかくなり、私の両肩を掴んだ。
「今度のイベントで警備員をやってくれない?
こんなのが毎回来られちゃたまんねえのよ」
「いいよー。てか、練習場所に困ってるなら今度からうちの訓練所に来れば?
時間制だけどここよりマシだよ」
「訓練所?」
「連絡くれれば、俺が予約入れとくし。
ついでに、いろいろ講習もやってるしさ。
1日あれば、この世界の片隅くらいなら分かる。
魔法に関することもいろいろやってるし、どう?」
「もしかして、勧誘してる?」
「危ない目にあってる友達を放っておけないだけ」
露木カイトと花澤風太との出会いはこんな感じだった。
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