小生には大食いで食べることが大好きな友達が居てね。


そいつは特に肉が好きみたいで、外食に行くとハンバーグとか唐揚げ定食とかばっかりを食べていた記憶があるよ。


小生のラーメンのチャーシューを食べたことはまだ根に持ってるよ。


ある日小生はそいつと他に数人と一緒にとある牧場にバーベキューをしに行ったんだ。


確かその友達が何かの景品でバーベキュー壱組無料チケットを手に入れたから誘われたんだったと思うよ。


まぁバーベキューはとても楽しかったよ。


小生はひたすらビールと焦げた玉ねぎを食べてね。


あの苦味とカリカリと酸っぱさがビールに良く合うんだよ。


その肉好きの友人は小生が食べない分喜んで肉を食べていたね。


暫くしたら急にその友人が居なくなってね。

まぁトイレでも行ったんじゃないかって数人で話して特に気にしなかったんだ

よ。


でもなん分たっても帰って来なくて流石にこれはどうしたのかと心配になってきた。


小生はお土産も見たかったしトイレも行きたかったからそのついでに探してくることを伝えてバーベキューゾーンからお土産ハウスの所へ移動したんだ。


お土産ハウスとバーベキューゾーンの間にトイレがあって入ったけれどトイレには小生しかいなくて、個室も全部開けて見たけれどその友人は居なかった。


スッキリしたし友人が居ないこともわかったし、小生はお土産ハウスに向かった。


お土産ハウスの目の前には牛が杭でしきられた土地の中に放し飼いされていて低い鳴き声が聞こえていたっけ。


自動ドアに導かれるようにしてお土産ハウスの中に入った小生の目に、とあるものが飛び込んできた。


『当牧場限定!搾りたて牛乳で作った30センチソフトクリーム!!』と言う派手なポップだった。


正気に戻った時にはもう遅く、右手には30センチのソフトクリーム、左手にはお釣の小銭とレシートが握られていたね。


仕方なく外の放し飼いされた牛と接近できるベンチに座り、牛を眺めながらソフトクリームを食べているとその杭で仕切られた敷地に牛以外の何か動く影を見つけた。


よくよく目を凝らせばその影は子供程の身長で一匹の牛の足元から離れようとしていない。


興味が湧いて柵を回りその牛と影に近づいてみるとその影はしゃがんだ人間の姿

だった。


興味から声をかけてみるとその人影はゆっくりと此方に顔を見せた。


「橘高くんじゃあないか」


「あれ、■じゃん。どうしたの?」


その人影は突然バーベキューから居なくなった友人そのものだった。


言い忘れていたが肉好き友人の名前は橘高と言うんだ。


どうしたのは勿論小生が言う台詞であろう。


何をしていたのか聞く前に小生の瞳には橘高くんの口にべっとりと付着する赤黒い液体が目についたんだ。


それは生き物の血液のようにも見えた。


何気無しに牛を見てみると橘高くんがくっついていた牛の左手太ももには傷ができていて、そこから水道から止めどなく湧き出る水のように橘高くんの口の回りの液体と同じものが溢れ出ていた。


小生は触れては行けないかもしれないと何故か思い、何を言ったら良いのか悩んでしまい小生と橘高くんには沈黙が満ちた。


「ソフトクリーム食べてるの?」


先に沈黙を破ったのは橘高くんだった。


正直な所小生はガッツポーズをしたかったね。


「うん。お土産ハウスに売ってたよ。後で買ってくれば?」


「うん、そうする~。」


「じゃあ小生先に戻ってるよ。」


バイバイ手をふる橘高くんに勿論小生はちゃんと手を振ったよ。

お友達だからね。


小生はみんなの待つ所に戻ると橘高くんが居た事を伝えた。


それとついでにソフトクリーム買ったら来ると言うことも。


小生はそれ以上語らなかったよ。


彼の名誉と小生の安心安全の為にね。


そのあと片付けをしていたら橘高くんはソフトクリームを頬張りながら帰ってきた。


どうやらソフトクリームを買えたらしくにこにこだった。


そのあと特に何もないよ。


普通に片付けてお土産買って解散。


小生はミルククッキーを自分に買って帰った。


お土産なんてあげる人、居ないからねぇ。





橘高くんがおかしくなったのはそれからだった。


ある日橘高くんのおかあさんから小生の家に電話が来てね、橘高くんがおかしくなったらしい。


どうにかして欲しいと言われても困るが友人のピンチとなれば駆けつけてあげるのが優しさ。


のんびり自転車をこいで橘高くんのおうちへ行った。


玄関に入る前に小生は確かな異変に気がついた。


橘高くんのおうちには小さいお庭があって芝が敷き詰められて居るんだけどそこに橘高くんはいた。


雑草を抜くでもなく花を植えるでも無く。


その芝生をちぎっては頬張り


ちぎっては頬張り




ちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎってはちぎっては………。




その光景を見て小生は声をかけたりインターフォンを鳴らすのを諦め、降りたばかりの自転車にまたがっておうちへUターンした。


あんなのに日本語が通じるわけが無いからね。




え?そのあとはって?


ないない特に無いよ。


橘高くんにはそれ以降会っていない。


相変わらず橘高くんのおかあさんから電話は来るけども毎回ガチャ切りしているよ。


だってもう会っても日本語は通じないと思うからね。


ばいばーいって感じ。



そう言えば最後に見た橘高くんの目、牛みたいな、山羊みたいな目、してたなぁ。







橘高

年齢21歳 大学の講義で知り合った友人グループのうちの一人。

身長173センチほどで体重は62kg。大食いなのに細い。

大の大食いで大学近くの焼肉屋さんには大食い企画に成功した時の写真が載っている。

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