子
小生が確か小学参年生だった頃。
小生の通っていた小学校にネズミが大量発生したんだよね。
どれぐらい大量かって言うと黒板を見て授業を受けていると一時間に一匹は黒板上のヘリを走ったり歩いたりする程。
ただ出てくるだけだったらちょっと衛生面を気にするだけだと思うんだけどあの子達イスとか机とか床、壁、黒板、色んな物を齧るんだよ。
ある日給食の白ご飯が入っている容器をネズミが食い破って入ってしまって白ご飯が食べられなくなったときがあってね。
その日から校内にネズミ取りやらネズミホイホイって言うベタベタするやつやらが大量に設置されるようになったんだ。
勿論その罠にはいっぱいいたネズミが壱ヶ所に平均して弐匹くらいがかかるようになったんだ。
そうすると新たな問題が出てくる。
「このネズミはどうやって処分するのか」。
先生達はいかにネズミを無駄に苦しませず、自分たちの精神も苦しませずに殺すかを議論していたようだけど結果的にバケツに張った水に沈めることになったようだ。
でもだんだん水に入れたネズミの苦しがる鳴き声やバシャバシャと水面で暴れる音、死んだネズミを水から出して焼却炉で燃やすと言う事に先生達は精神をすり減らして行った。
結果的に誰もネズミの処分をやりたがらなくなり、罠の個数も日に日に減って行った。
ただある時壱人の先生が手を上げたんだ。
「僕がネズミの処分をします」と。
その先生はネズミの処分騒動の時期には奥さんが赤ちゃんを産むと言うので休暇を取っていた先生で、虫や動物に抵抗無く触れる先生だった。
勿論先生達は満場一致でその先生にネズミの処分をお願いすることたようだった。
その日からまた罠の数は増えて行き、学校に朝来ると至るところからきぃきぃと鳴くネズミの声が聞こえていたね。
そうそう、その手を上げた先生は『横山』って言う名前だったよ。
横山先生のネズミの処分方法は残虐だった。
ネズミに爆竹を付けてみたり、コンクリートの地面に叩きつけてみたり、水に浸けて上げてを繰り返したり車で踏みつけたり。
他の先生達も酷いとは思っていたけど自分たちはもうネズミの処理なんてしたくないから黙って好きにさせていたみたいだよ。
そんなある日の放課後、横山先生は次の日の体育授業で使う物を準備しに体育館に備え付けられている体育準備室に行ったんだ。
ここも多くネズミ取りが仕掛けてあって横山先生はまたネズミを捕まえたら虐め
てストレス発散をしようと思っていたみたいだね。
ウキウキで体育準備室を開けたんだ。
ガラリラリ。
広い体育館には横山先生しか居らず、扉を開く音だけが響いていた。
先生が準備室に完全に入った瞬間、
天井から
棚の隙間から
跳び箱の穴から
床に開いたひびから。
わさわさきぃきぃ音を立てて灰色の毛並みで黄ばんだ前歯を持つネズミが何匹も
横山先生目掛けて落ち、襲いかかった。
広い体育館にはやっぱり先生以外は居らずにおぞましい悲鳴が太く無様に響いた。
先生は流石に気味悪くなり体育準備室から出ようとしたが後ろを向いた時には開けた扉はしまっていて、いくら押しても引いてもスライドさせても開かなかっ
た。
先生は助けを求めて何度も何度も扉を叩いていたね。
でも結局誰も助けに来なかった。
その日の夜、横山先生の奥さんから旦那が帰らないと学校に電話があったそうだ。
けれど放課後壱人だった先生の居場所を知っている人なんていなかったみたいでね。
横山先生は次の日、ネズミに体を食い荒らされた状態で体育準備室で発見された。
その後学校に来なくなったし、救急車も来なかったし。
それ以降の話も聞かないからきっと横山先生はもう死んでいたんだろうね。
そりゃああんな大量なネズミに喰われてあんなに血を出していたら助からないよねぇ。
そのあと何故かぱったりネズミの姿を見なくなってネズミの被害があったこともすっかりみんな忘れていた。
居なくなった横山代わりに来た先生の方がサッカーが上手で人気になったのは横山先生には内緒にしておくれ。
ネズミごときに喰われ死んだ先生が哀れだからねぇ。
これが小生の小学生参年生の思い出。
嗚呼、なんで
横山先生の傷の具合も、
扉を叩いていた音も、
ネズミの量も、
出血の量も知っているかって?
そりゃあ体育準備室に鍵をかけたのは小生だからだよ。
鍵をかけた壱時間後に助けて上げようと思って扉を開けたけどもう遅かったみた
いだしそのままにして帰って、漫画を読んでた気がするねぇ。
罪悪感?
小生がそんなこと感じている顔に見えるのかい?
まさかまさか。
ネズミにやったことをやり返されただけじゃあないか。
小生はネズミの方が可哀想だよ。
横山
36歳。小生が小学校参年生の時の体育の先生。
身長177センチ程度で体重は標準。
今年男の子が生まれたばかりだったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます