平和な日常と「netの仲間」

2.平和な日常と「netの仲間」

 5時間目、睡魔に誘われる人が多くなる。それでも懸命にカリカリとシャーペンを動かす音が教室に響く隣の席の空谷楓が時々ガクッとしている。学年1の美女と称される女子の睡魔との戦いに自然に男子生徒の目線が集まる。そんなことはお構いなしに先生は授業を進める。だがついに。

「空谷っ!授業に集中!」

「はっ、はい!」

慌てた様子がこれまた可愛いらしく、数名の男子からはぁとため息が漏れる。成績優秀、運動神経抜群。おまけに美人で女子力も高い。彼女に惚れ込んでるやつは学年問わず多いだろう。

「いいなぁ、お前空谷の隣の席で!」

数日前圭太に言われた。

「別によかない。俺、あいつに興味ねぇしな。あいつに惚れ込んでるやつに譲ってやりテェよ。」

「まぁたそんなこと言ってさ!お前も好きなんだろ空谷のこと!」

ニヤニヤと笑いながら、圭太が俺の脇腹を小突く。

「勝手に妄想しとけばいい。」

「冷めたやつやなぁ。」

「だいたい空谷のこと好きなのお前だろ。」

「もちろんだ!あんな女子めったにいないぜ?ライバルやな!北斗!」

「だから好じゃないんだって。」

空谷は女子の中では可愛い。それは認める。だが俺は恋愛を楽しむような心は持ってない。たとえ付き合ったとしても危険に巻き込むことになるから、絶対に付き合わない。

「おい松野!お前もだ!」

今度は俺の右斜め後ろで船を漕いでいた圭太が教師の叱責の餌食となった。

「明日も元気に登校してきてください!号令!」

帰り学活で担任の倉田が野太い声で叫ぶ。一見体育会系に見えるが、れっきとした家庭科の教師の愛されキャラだ。

「起立!気をつけ!礼!」

「さようなら〜」

「北斗!掃除手伝ってくれよ!」

「断固拒否。」

「親友だろ!ジュース奢るから!」

「と言っておごってくれたことないが。」

「そ、それは時間とかなかっただけだし?!」

「しょうがない手伝ってやる。」

「やった、サンキュー!」

15分ほどして掃除が終わり、俺と圭太は帰り道を歩いていた。奢られることはないジュースを楽しみにするほど俺はバカじゃないので、あえてそのことは口にせずにいた。

「俺空谷に告ろうかなぁ。」

「やめとけ。」

「おっ?もしかして対抗心か?!うんうん、やっぱ北斗も空谷のこと好きなんだな!」

再び、ふっかけられた恋愛話にうんざりしながら

「好きじゃねぇよ。まず俺のこと好きになる奴なんていねぇだろ。」

「テメェこのやろー!出たな、無自覚イケメンマウント!」

「は?」

「お前知らないの?!お前裏で女子からちょーモテてるんだよ?」

「あ、そう。」

「おっ照れた?嬉しいんだろ!」

「そこまで嬉しくねぇ。」

「嘘言え!女子に好かれて嬉しくねぇ男子はいねぇだろ!」

声高らかに笑いながら、圭太が俺にそ問う。

「なぁ明日空いてる?遊び行かない?」

「あいにくだが予定がある。」

「お前予定人間だな!お前を遊びに誘っても8割ぐらいの確率で却下やん。」

「まぁ月曜会おう。」

「んー。じゃな!」

気の抜けた返事と共に彼の家に向かって圭太は駆けていった。そこから5分ほど俺の家に着いた。ガチャッとドアを開け入る。そこには昨日の男、昼の電話先の男が。

「お帰りなさい。」

「今日奴ら他になんかあったのか?」

「いえ、特に。こちらが探りを入れてることも全く気づきいてないと思います。」

「そうか。」

俺は「net関東」のトップだ。netといってもコンピューターの方ではない。政府が作ったう社会の掃除屋の精鋭部隊。北海道・東北、中部、関東、近畿、中国、四国、九州・沖縄の日本の8ヶ所にそれぞれ設置されたnetのメンバーは平和維持のための粛清を行う。普段生活を共にする目の前の男はnet関東の幹部、平良颯斗だ。

「明日の会議どうします?」

「予定通りだ。」

そういって俺はニヤッと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る