ピリオドヒッター
瑠璃人
日常に潜む明るい闇
コツコツコツ。乾いた音が明るすぎる廊下に響く。血に塗れた骸が転がるその廊下を俺は歩いている。恐怖の表情を浮かべた顔が不気味なほど静かに並ぶその様は残酷以外の何者でもない。まぁ俺がやったのだが。皮肉なことに14歳の俺には殺しによる精神的苦痛を感じるほどの良心を持ち合わせていない。廊下に響く抵抗しながらも哀れな嬌声を上げる女子の声はもう誰にも聞かれない。少し先の扉が音もなく開く。髪の黒に赤を混ぜた男が出てきた。その男と静かに頷き合って俺たちは建物を後にした。
1.日常に潜む明るい闇
ある東京の中学校の昼休み。学校で最も騒がしい時。俺は友達と一緒に昼ごはんを食べている。その傍で女子の集団が騒いでいた。
「ねぇ!衆議院の小野田、殺されたらしいよ!自宅で!」
「えっやば!なんだっけ痴漢とかさ、あ〜裏金だ!そう裏金やってたやつだよね!」
「え〜物騒!」
物騒な噂をするには重みが足りない声で訃報とも朗報とも言える報せを喋る。そんな中で俺の友達、圭太が輝くような笑顔で喋りかけてくる。
「小野田殺したやつ神じゃね?」
圭太はこういう物騒な事件が好きなのだ。俺は完璧に偽りの笑顔を浮かべて
「ああ、そうだな」
と返す。こいつらといるのは楽しい。これは偽りでないとわかる。しかし、この世界は偽りだらけだ。日常的な嘘や、詐欺などの欺き。嘘とも欺きともつかない偽りを背負って、俺は日々を送っている。幾人かの友達が俺の心を晴らしてくれる。本来俺たちは心を暗くし、感情をなくす。ただ、俺の中が黒一色に染まらないのは、友を持ったからだ。友の存在が俺を救ってくれるという実感もあり、俺は明るい。普通の人よりも。その明るさが俺は怖い。人類が生み出した最も愚かしい行為を続ける俺にこんな明るさがあるなんて。
「ぉぃ。ぉぃ!おい!北斗大丈夫か?!」
「ん?あぁ、わりぃ。俺寝不足でさ昨日。」
またしても偽りを発しながら、冷めた肉を口に運ぶ。
「プルルルルルル…」
俺の電話が鳴る。
「ちょっと出てくるわ。」
人がいない廊下に向かってかける。通話ボタンを押して
「ちょい待ち、切んなよ?電話。」
『切りませんよ。』
やっと人気のない廊下が見つかった。
「んで、どうした?」
『奴ら動き出しましたよ?どう動くかの会議が明日に決まりました。』
「俺の貴重な休日をぉ…」
『学校で話題になってますか。昨日の。』
「全員楽しそうだよ。」
『学校楽しいですか。』
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン。一呼吸開けて、言い放つ。
「あぁ、俺は完璧に表の榊神北斗を演じてるよ。」
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