坂口一美の話
野本が死んだ。
最高の気分だったわ。
私の親友を殺したやつら。死んで当然よ。
私は東京の自宅の一室で一人満足げにくつろいでいた。
鷲尾尚子、彼女は高校時代いじめの標的になって、自ら命を経ったわ。
その中心にいたのが野本。石田もその周りをうろちょろしてて、目障りだったわ。
野本と尚子は元々仲が良かったはずなの。家も近いし、家も裕福でない。境遇が似ていたから。でも野本は、醜い劣等感の塊だった。
境遇が近い尚子のことが嫌でしょうがなかったみたいね。何かにつけてしつこく嫌がらせしてたわよ。
尚子はね、あの木の近くで死んでたわよ。
数年後、あの掲示板の書き込みを見つけたとき、あそこの住所を書き込んだのは尚子だって直感した。
これは、尚子が私に残したメッセージだって。そう思ったわ。大切な友達が…最後に私に託したのよ。
あの木の呪いを使えば、あいつをこの世から消せるって。だから私が代わりにヤツに復讐することにした。
私はね、自分の居場所は勝ち取るもの、そう思ってるの。そのためなら手段なんて何でもいいの、最後に残った者が勝ち。尚子は負けてしまった。私はそんなのは嫌よ。
東京に出て、いい会社に就職して。少しでも自分にとっていい環境を手に入れたかった。それでもね、尚子がね…私に復讐を望んでたなら、役割はちゃんと果たしたかった。
私は、私に与えられた役目は全てこなす。そうすれば私の人生は明るい。邪魔者は居なくなればいい。
最後にね。後はあいつだけ。
沢村伸吾、あんなやつに秘密を握られたままなんて死んでも嫌よ。耐えられないわ。
私にとってはどうでもいい存在。いつ死んでも構わないわ。
あいつから私のほうに近づいてきたのは願ったり叶ったりだったわよ。アホ面下げて、付き合おうだなんて、どの口が言ってんだか。
私の価値を何だと思ってるのよ。
そう、二人で柏の木に枝を返しに行って終わったと思ったでしょ。あいつの家にいく前に。私は一人であの場所に行ったのよ。
また枝を折って。そのまま沢村の家に行った。隙を見てベットの下に隠したわ。掃除やら料理やらしたのはあいつの隙を伺うため。
あいつ、偉そうにベランダでタバコ吸ってたわよ。何も知らずにバカな奴ね。
あとはただあいつが死ぬのを待っていれば良かった。今朝あいつの死体が見つかったって聞いた時は嬉しかったわ。ははは。これで私のしたことを知ってる人間は居なくなった。
これで私は私の人生に集中できる。絶対に成功してやるんだから。
そう考えていた時。
リン…
えっ…?何か聞こえた?
テレビの音かしら?テレビではお気に入りのメイク動画の映像が流れている。そんな鈴が鳴るシーンなんてないわよね。
リン…リン…
聞き間違いじゃない。やっぱり鳴ってる。どこ?クローゼットのほう?
リン…リン……リン…リン……
「嘘!?どこよ」
慌ててクローゼットを一気に開ける。
そこには、沢村から貰った、ブランド物のバッグが置いてあった。付き合った記念に、とか言って渡してきたヤツだ。
「ま…まさかね」
恐る恐る中を覗き込む。
リン…リン…
「え…こ、、これ…」
そこには野本のポケットに忍び込ませた小袋があった。なんで?あの柏の木の下に返したはずなのに。
まさか、沢村が…?
リン…リン…
「あ…あいつ…」
クソ。やりやがったな。クソ。クソ。
「あ…あ…あいつ…」
「アンのクソボケがぁあああああ!」
私の怒りは一気に頂点になった。
「クソ!クソ!ボケカスが!!!!
何してくれてんだよ、あのゴミ野郎!!!
テメェは大人しく死んどきゃいいんだよカスがよ!!」
怒りが治らないままバッグを何度も蹴り上げた。バッグはベコベコになりなんとも見窄らしい姿になった。
坂口はそのまま小袋を掴むと一心不乱に外に飛び出した。
とにかく、これを返しに行かなくては。
階段を駆け下りながら毒づく。
「クソ!あのボケが!テメェなんかに殺されてたまるかクソ!!」
マンションの入り口から幼い子供を連れた母親が入ってきた。行先が塞がれる。
「邪魔だ、どけっ!!」
バン!
坂口は力一杯子供を張り飛ばした。女の子は数メートル横の地面に叩きつけられた。母親は何が起きたか理解出来ない様子で立ち尽くしている。
こっちは切迫詰まってるんだ。私を邪魔するのが悪いわよ。坂口はその親子を横目にそのまま大通りに向かった。
そうよ。タクシーを捕まえて、特急に飛び乗り、そのままあそこに向かえばいい。
リン…リン……リン…リン……
「クソ!クソが!うるさいうるさいうるさい!」
こんなことで死ぬ訳にはいかない。私は勝って、生き残るべきなのよ。
あいつらはただの負け犬、私とは違うのよ。
「うあああぁぁぁぁ!!」
もう少しで大通りだ。
その時、ちらりと白い影が見えた気がした。和服を来た女の影。
リン…リン……リ…ン…
坂口は大通りに出た。その時。
パァアアン
背後からけたたましくクラクションが鳴らされた。
「えっ…?」
グシャッ
「ゴゲッ…」
声が漏れる。
「ブ、ブベ…アガガガ……」
肺が潰れている。息が出来ない。
その夜、坂口一美は後方から着た大型トラックに身体ごと押し潰されて死んだ。
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