ヒトデナシ
石田快斗の話 その1
久しぶりに地元に帰ってきた俺たちは、仲のいいメンバーで集まっていた。
同じ地元の高校を卒業した友人は、大学進学を機に県外に出て、そのまま都会で就職するやつ、地元に帰るやつ、それぞれ分かれていて、会う機会も次第に少なくなっていた。
俺はそのまま東京で就職したのだけれど、たまの休みで地元の集まりがあったので戻ってきたのだった。
ファミレスで同級生の四人で集まってワイワイ話しながらご飯を食べてるとき。
「なあ、この話知ってる?面白そうじゃない?」
この中で唯一の女の坂口がスマホで動画を流し始めた。
そこには例の怪談イベントでの話が流れていたのだった。
「この人話上手いな、めっちゃ面白いじゃん」
野本は乗り気なようだ。食い入るように聞き入っている。
俺はと言うと、まあ好きでも嫌いでもなかったけど、退屈凌ぎにはいいかなと思いながら適当に聞いていた。
「おい石田、おまえビビってんじゃないだろうな」
「うるせえよ沢村、こんな話でビビるわけねえだろ」
「お前こそビビリだっただろ沢村、ビビってるからそんなこと言ってんじゃねえか、ははは」
野本が言った。
「ねえ、面白かったでしょ。結構怖い話でしょ」
坂口が言った。
「んで、なんでこんなもん見せんだよ。暫く会わないうちに趣味変わったな」
俺はついつい口を出した。
俺の知っている坂口は、どちらかと言うと物静かで、大人しい性格だった。化粧っ気も殆ど無かったような女だったが、東京に出てからは派手に着飾るようになっていた。
今じゃどこかの大企業に就職して、順調にキャリアを積み上げているそうだ。綺麗になっていく彼女を見るたび、狭い田舎を出ると変わるもんだな、そう思ったものである。
「それがさ、ほら、この掲示板見てみてよ」
そう言って坂口はネット掲示板を見せた。
「え、この山梨県●●市●●村って?」
「そう、ここから近いでしょ?」
「マジかよ、凄え。すぐそこじゃん」
やっと坂口の言いたいことが分かってきた。
「これ、行くしかないっしょ」
野口が言った。そうだろうな、どうせ集まってもやることなんてそんなにないんだから。
「でしょ、そう来なくっちゃ」
「おっしゃ、じゃすぐ向かおうぜ」
「マジかよぉ」
沢村は弱気な声で言った。
「なんだ、やっぱビビってんじゃねえか。いいから行こうぜ」
再び野本が責めた。
野本は野本で、家が貧乏だったこともあって、俺たちの中で唯一高校を卒業後に地元の企業に就職し、働きながらたまに俺たちと遊んでいたのだ。
こいつと話していると、家の事情から早くから就職しなくてはいけなかった劣等感が見え隠れすることがある。
だから、周囲へのあたりが強くなるのだ。
元々、何不自由なく親のお陰で生活が出来ている俺たちや他の同級生達に対しては、ある種の劣等感や反骨精神を強く持っていたようである。
彼の事情には同情するし、持っているその反骨精神自体は良いことなのだと思うのだが、周囲にあたり構わずそれを振り回すのは甚だ迷惑でもある。
まあこちらは県外に出てしまっている身なのだからたまの集まりに誘わない訳にもいかないではあるのだか。
ああだこうだ言いながらも、結局俺たちは現地に行ってみることにした。
その住所が示す場所は、俺たちがいたファミレスから車で四十分程度のところにあった。時刻は夜二十二時を過ぎた頃であった。
大通りから外れた山間の道を進んでいく必要があった。通りには街灯の明かりがかなり離れた間隔で点々としているのみで、めちゃめちゃ暗い。
そこから、山道に入っていく。車でなんとか乗り入れが出来る程度の広さしかなく、俺たちはヒヤヒヤしながら進んでいった。
「おい、ほんとにこんなとこにあるのかよ。めちゃくちゃ細い道だぜ」
「思ったよりずっと田舎ねぇ。あたしもこっちのほうに来たのは初めて」
「間違ってんじゃないの?こっちのほうもう山しかないぞ」
「カーナビはこっちってなってんだよ、仕方ないだろ」
勝手なこと言いやがって。俺は運転しながら力を込めて言った。
親の車なので傷つける訳にはいかないし、俺は慎重にハンドルを操作する。やがて少し開けたところに出ると、小さな建物が見えた。
「お、あれじゃねえ?なんかあるぞ。お、ここ車の轍がある、誰か来て停めたんだ。多分あの掲示板の連中だ」
「おお、ほんとにあったんだな」
「何よ、疑ってたの?」
「ははは、まあいいじゃんかよ」
「全く、こんなとこまで来て、みんな好きだよなあ」
「俺らも人のこと言えねえだろ。みんなこの手の話は好きなんだよ」
俺たちは車を降り、その小さな建物を覗き込んだ。
そこには、古く、今にも崩れそうな祠が人知れずあった。
「ああ、あの掲示板に載ってた写真と同じだな、マジでボロいな」
「もう誰も管理してないのかな、こんな状態で放置されちゃって。可哀想」
「お、いやでもほら、中見てみろよ、割と綺麗だぞ。傷んではいるけどさ、ゴミとか埃とかは無さそうだ」
「お前らそんなことどうでもいいだろ、目的地はここじゃないだろ」
「えーいいじゃんちょっとぐらいさ」
「そうだよ、せっかくなんで楽しみたいじゃない」
「まあいいよ、どっちにしても本丸のほうへ行ってみようぜ」
懐中電灯で祠の裏を照らす。細い山道が続いているようだった。しかし、その道は闇が支配したように、暗い。
鬱蒼とした木々に阻まれ、月明かりも殆ど届かない。入り口を照らすだけでも恐怖があたりを支配する。
「うわあ、ここすげえな。あの掲示板の人、一人で行ったんだろ…まじで怖いもの知らずだな」
「確かに。めちゃくちゃ暗いし何か獣とかも出て来そうだよな、虫も多いし、ああ、クソッ…」
蛾なのかなんなのか分からないが虫が勢いよく飛んできて首元にぶつかった。不快な感覚が全身を伝う。
俺たちは恐る恐るその山道を登り始めた。
「そんなに距離は無いはずだよな」
「おい、あの先、ちょっと開けてねえ?」
「あ、ほんとね、道の先で雑木林が終わってる」
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