天界山の旅館コテージ
若福清
第1話 夏の山と誕生日計画
本格的な夏の暑い日差しが
幸壱が登山を始めたのは今年の2月。
暑い夏に登るのは今日が初めてである。
夏の日差しが苦手な幸壱は「うがーぁ。うがーぁ」と苦しそうな声を出しながら重たい足を必死に動かす。
そんな彼氏の情けない姿に登華は呆れたため息をこぼす。
「そんなゾンビみたいな声出してないで、ちゃんと山の風を感じなさいよ。」
そう登華が幸壱に声をかける。
「…山の…風?」
そう呟いて立ち止まった幸壱に心地よい風が当たる。
「おぉ。これは気持ちいい~。」
そう幸壱はほほを
「ね?夏でも山は涼しいでしょ?
頂上だともっと気持ちいい風を感じれるわよ。」
そう登華は幸壱に教える。
「マジかよ。早く行こう。」
そう言って幸壱は歩みを早める。
そんな単純な彼氏の姿に登華は“やれやれ”と言った表情を見せる。
※
「うおぉ~。マジで気持ちいい~。
夏とは思えないほどの涼しさだなぁ。」
そう幸壱は両手を広げて目一杯、風を身体で感じる。
「どう?登る前はグチグチ文句ばっかり言ってたけど、夏の登山も悪くないでしょ?」
そう登華が幸壱の隣に立って話す。
「あぁ。そうだな。」
そう幸壱は目の前に広がる緑の世界を見つめながら答える。
「そうだ。前に言ってた何とかって言う岩はどこにあるの?」
そう登華が思い出した様に尋ねる。
「あぁ。“力の岩”か。こっちだよ。」
そう言うと幸壱は案内する。
※
「ほ~ぉ。これが神様の力が
そう興味津々な様子で登華は力の岩を眺める。
その後、岩に触れようと左手を伸ばす。
「あっ、登華ちょっと待った。」
そう幸壱が登華を止める。
「何よ。バチが当たるって言いたいの?
幸壱君も触ろうとしたけど、バチ当たってないでしょ?」
そう言って登華がほっぺたを
「嫌、そうじゃなくて、腕時計はずした方がいいぞ。」
そう忠告しながら幸壱は登華が左腕に付けている腕時計を指差す。
「なんで?」
そう聞きながら登華は腕時計をはずす。
「前にオレがその岩に触れようとした時、腕時計壊れたから。
多分、神様の力で壊れたんだと思う。」
そう幸壱が説明する。
「へぇ。電波的な何かかな?」
「さぁ?詳しくは分かんねぇや。」
そう幸壱は答える。
「では、私もその神様の力を体験しますかなぁ。」
そうワクワクした様子で言うと登華は力の岩に手を伸ばす。
その手が見えない壁に触れる。
「うわぁお。何か感じた事のない感触だ。」
そう言って登華はすぐに手を引っ込める。
「あんまり、気持ちいい感触ではないだろ?」
そう幸壱が言うと登華はゆっくりと頷く。
※
「そうだ。もうすぐ、幸壱君の誕生日だね。」
そう近くのベンチに座って登華が言う。
「あぁ。そうだな。」
そう幸壱も登華の隣に腰を落として答える。
「それでね。行きたい所があるんだよ。」
そう登華が話を始める。
「行きたい所?」
そう幸壱は聞き返す。
「うん。“
「その山には何があるんだ?」
「その山の頂上のコテージはね、旅館みたいになってるんだって。」
「旅館?」
「そう。しかも、露天風呂もあるみたい。」
「へぇ。そいつは凄いなぁ。」
そう幸壱は驚く。
「だから、幸壱君の誕生日の前日にそこに泊まって、2人で誕生日を祝おうよ。
絶対にいい思い出になるよぉ。」
そう登華がニコニコした笑顔で
「その山はオレでも登れる山なのか?」
そう幸壱が尋ねる。
「大丈夫だよ。この上竜山よりも高い山だけど、まだ初心者でも登れるレベル3の山だから。」
そう登華が明るい声で答える。
この国には“
1~3は登山素人でも登りやすい山。
4~7は登山に慣れた人にオススメの山。
8~10は登山歴が5年以上の人にオススメの山。そして11以上の山に登るにはプロ免許が必要となる。
「高いって、どれぐらい高いの?」
そう少し不安になりながら幸壱は尋ねる。
「923m。この上竜山が792mだから、131m高い感じかな?
そんなに高くないでしょ?」
そう登華が明るい声のまま説明する。
「まぁ、それぐらいなら、何とか大丈夫かな。」
「大丈夫、大丈夫。もっと幸壱君は自分に自信をもっていいよ。」
そう登華は明るさを上げて幸壱を勇気づける。
「よし。行くか。」
そう幸壱が言うと登華は元気よく「おぉー」と右手を
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