町外れの噂の安眠屋さん〜お疲れな若き伯爵様は今日も癒しを求めてやってくる
あかね
プロローグ 噂を聞きつけて
うっすらとした細長い雲が茜色に染まりゆく夕暮れ時。
町外れの小さな店の店主は、達筆な字で営業中と書かれた小さなドアプレートをひっくり返した。
そしてふぅ、と軽く息を吐いて中に入ろうとすると、後ろから何者かが声をかけてきた。
「……失礼。急なんだが、入れるか?」
「あら、お客さんですか――って、ええっ!?」
腰まで届く鮮やかな金髪を夕風に靡かせながら振り返った少女は、そこに立っていた人物の顔を見てひどく驚いた。
透き通るような美しい翠玉の如き髪を携えた美青年。
派手さはないが、生地からして明らかに高級品と分かる服を身につけた彼は、世俗から離れた生活を送る少女でもよく知る人物だった。
「む……準備中、か。もう店じまいのところだったのか」
「え、えぇ…‥そのつもりでしたが……」
「……仕方ない。日を改めよう。失礼した」
「――あっ、ま、待ってください!」
小さなため息を吐きながら振り返って去ろうとする男を、少女は慌てて呼び止めた。
その声に反応して振り返った彼の顔は、どこか儚げで、人生に疲れ切ったと言わんばかりの酷い有様だった。
これではせっかくの美顔が台無しだ。
「よろしければ、入ってください。本日最後のお客様として歓迎いたしますよ!」
「――いいのか?」
「もちろんですっ! ささ、どうぞどうぞ」
そう言って笑みを浮かべながらゆっくりと戸を開ける少女。
男はやや不審そうな顔をしながらも、誘惑に負ける形でふらふらとドアの奥へ吸い込まれるように消えていった。
それを見届けた少女はゆっくりとドアを閉め、振り返った。
「ようこそ! 疲れ切ったあなたに癒しを与えるお店、
店主であるミリアは、満面の笑みを浮かべながら歓迎の意を示す。
本日最後のお客様は、この領地を収める若き君主、オリヴァー・ルートマリアだった。
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